1. 就業形態別の労働時間
前回はOECDにおける日本の労働者数と平均労働時間の取り扱いについてご紹介しました。
今回は、日本の労働時間が短くなっている理由として、パートタイム労働者の割合が増えている状況を可視化してみたいと思います。
労働時間の統計は毎月勤労統計調査で詳しい数値が公開されています。
今回は、事業所規模(常用雇用者数)別の、一般労働者とパートタイム労働者の平均労働時間の変化を見てみましょう。
図1は事業所規模別、就業形態別の労働者数の推移を表したグラフです。
事業所規模は30人以上の事業所と5人以上の事業所となりますが、5人以上の事業所の方がより広範囲を扱っている事がわかります。
就業形態計で見ると、2022年の時点で30人以上の事業所が2,931万人、5人以上の事業所が5,134万人となります。
小規模事業所で働く労働者が非常に多いということがわかりますね。
更に、労働者数は大きく増加傾向となっています。
一般労働者の労働者数に着目してみると、30人以上の事業所では2,000万人前後で推移していて、5人以上の規模では3,500万人前後で停滞している状況です。
一方で、パートタイム労働者数を見ると、30人以上でも5人以上でも右肩上がりに増え続けていますね。
労働者数のうちパートタイム労働者の割合をパートタイム雇用率と呼びますが、その推移を見るとやはり右肩上がりです。
5人以上の事業所規模の方がパートタイム雇用率が高く、上昇傾向が続いています。近年では30%を超えている状況ですね。
日本では、一般労働者は横ばいながらも、パートタイム労働者が大きく増加している状況ということが良くわかります。
パートタイム労働者については、以下の記事も是非ご覧ください。
参考記事: 日本はパートタイムが多い?
参考記事: 男性のパートタイム雇用率
参考記事: 女性のパートタイム雇用率
参考記事: パートタイムの多い産業とは?
2. 就業形態別の労働時間
次に、就業形態別の平均労働時間を見てみましょう。
図2が、事業所規模別、就業形態別の平均労働時間です。年平均にした1月あたりの平均値という事になります。
年間の場合は、この数値に12をかけたものが平均労働時間となります(5人以上の事業所の就業形態計の数値に12をかけると、OECDの平均労働時間とほぼ一致します)。
就業形態計では、継続的に労働時間が短くなっている様子がわかりますね。
就業形態別に見ると、一般労働者はコロナ禍でやや減少が見られるものの、ほぼ一定水準が継続しています。
1月に概ね170時間前後ですね。
一方で、パートタイム労働者は一般労働者よりも大きく労働時間が下回っていて、なおかつ減少傾向が続いています。パートタイム労働者数が増えているのに、パートタイム労働者の労働時間が短くなっているわけですね。
総合すると、全体の平均値を押し下げているような状況です。
3. 合計の労働時間は増えたのか?
パートタイム労働者数は増えていますが、パートタイム労働者の平均労働時間は短くなっています。一般労働者は、労働者数も平均労働時間も横ばいです。
それでは、労働者の合計労働時間は増えているのでしょうか?減っているのでしょうか?
図3が就業形態別の労働者数と総労働時間(月間の平均労働時間)をかけて、労働者全体の合計労働時間を計算したグラフです。
合計としては横ばい傾向ながら、少しずつ増えているような状況ですね。日本経済のピークが1997年でしたが、その頃と比べると1月に4億時間程増えているようです。
就業形態別に見ると、一般労働者は2009年頃にかけてやや減少傾向が続き、その後上昇し横ばいです。長期で見れば一定水準で停滞しているような状況ですね。
パートタイム労働者は、1990年代にはかなり少ない割合でしたが、徐々に存在感が増してきています。1990年代の2倍程度のボリュームとなっているようです。
4. 日本の労働時間の特徴
今回は、毎月勤労統計調査より、就業形態別に、労働者数や平均労働時間についてご紹介しました。
日本では一般労働者の状況がほとんど変わらない中で、パートタイム労働者が大きく増加しています。
全体の仕事の価値(付加価値=GDP)が増えない中で、労働に関わる人ばかりが増えている状況のようです。
また、対価でいえばパートタイム労働者の時給は、一般労働者の半分程度です。つまり、金額的な価値を認めていない労働ばかり増えていて、全体の付加価値向上に結び付いていない状況のように見受けられます。
皆さんはどのように考えますか?
【参考】毎月勤労統計調査の範囲
毎月勤労統計調査では、産業ごとに賃金や労働者数の集計値が公表されています。
ただし、全ての産業を網羅的にカバーしているわけではなく、一部産業は除外されているようですので注意が必要ですね。
調査産業計というのは、あくまでも調査を行った産業の合計値という事になります。国際標準産業分類(ISIC REV4)との対応で、毎月勤労統計調査の調査範囲を可視化してみましょう。
概ね一致する産業もありますが、例えば毎月勤労統計調査には、明らかに農林漁業や公務及び国防、強制社会保障事業が除外されています。
ISIC REV4の管理・支援サービス業、芸術、娯楽、レクリエーション業、その他のサービス業と、毎月勤労統計調査の生活関連サービス業、複合サービス業、サービス業(他に分類されないもの)がうまく整理されていない印象です。
これら除外されている産業の労働者に加え、常用雇用者4人以下の事業所(個人事業主含む)の労働者も含まれていない点には注意が必要ですね。
日本の労働者数(就業者数)は7,000万人近くですので、5人以上の事業規模の労働者数5,000万人に対してさらに2,000万人近くが統計に含まれていないことになります。
記号 | 国際標準産業分類(ISIC REV4) | 毎月勤労統計調査 |
---|---|---|
A | 農林漁業 | – |
B | 鉱業及び採石業 | C 鉱業,採石業,砂利採取業 |
C | 製造業 | E 製造業 |
D | 電気、ガス、蒸気及び空調供給業 | F 電気・ガス・熱供給・水道業 |
E | 水供給業、下水処理並びに廃棄物管理及び浄化活動 | F 電気・ガス・熱供給・水道業 |
F | 建設業 | D 建設業 |
G | 卸売・小売業、自動車・オートバイ修理業 | I 卸売業,小売業 |
H | 運輸・保管業 | H 運輸業,郵便業 |
I | 宿泊・飲食業 | M 宿泊業,飲食サービス業 |
J | 情報通信業 | G 情報通信業 |
K | 金融・保険業 | J 金融業,保険業 |
L | 不動産業 | K 不動産業,物品賃貸業 |
M | 専門、科学及び技術サービス業 | L 学術研究,専門・技術サービス業 |
N | 管理・支援サービス業 | – |
O | 公務及び国防、強制社会保障事業 | – |
P | 教育 | O 教育,学習支援業 |
Q | 保健衛生及び社会事業 | P 医療,福祉 |
R | 芸術、娯楽、レクリエーション業 | – |
S | その他のサービス業 | N 生活関連サービス業,娯楽業 Q 複合サービス事業 R サービス業(他に分類されないもの) |
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。