「ラマダン」とテロの脅威:ネタニヤフ首相「ハマスを壊滅するまで戦闘を続ける」

イスラエル側からの情報によると、エジプトのカイロで行われていたイスラエル軍とパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスとの間の停戦と人質解放を巡る交渉は7日、成果なく終了したという。10日から始まるラマダン(断食月)の期間の停戦実現は難しくなった。

ガザ区のUNRWA避難所の女性と子供たち(国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)公式サイトから)

イスラエルのネタニヤフ首相は、「ハマスを壊滅するまで戦闘を続ける」と強調し、ハマスの最後の拠点であるガザ南部ラファでの戦闘の継続を表明している。同時に、同首相はラマダン期間での戦闘がどのように危険かを理解した上で、「国際社会からの圧力が高まる時だけに、われわれは団結する必要がある」と訴えている。

ところで、「ラマダン停戦」、「イースター停戦」、そして「クリスマス和平」といった表現がメディアで報じられる。キリスト教国やイスラム教国にとって最も重要な宗教行事には、敵国との紛争や戦争を停止するという意味だ。キリスト教国にとってはクリスマスや復活祭は最大の祭日だ。一方、ラマダンはイスラム教徒の聖なる義務、5行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)の一つだ。幼児、妊婦や病人以外は参加する。ラマダンの1カ月間は日の出から日の入りまで身を慎み、断食し、奉仕する。日が沈めば、断食明けの食事(Iftar、イフタール)を友人や親戚関係者と一緒に取る。ラマダン期間の大きな楽しみだ。キリスト信者には分らない彼らの“至福の時”だろう。

ラマダンの意義と価値について、スーダン出身の知人は、「日頃の物質的な思いから解放され、神と対面できる期間として非常に重要だ。普段だったら直ぐ怒りが飛び出すケースでもラマダン期間だと不思議と平静に対応できる。これもラマダンの影響ではないか」と述べたことを思い出した

ラマダン期間、敬虔なイスラム教徒は寺院に集まり、太陽が沈むとラマダン明けの食事を一緒にとる。すなわち、ラマダン期間はいつもより頻繁に寺院に集まり、指導者から話を聞く機会が多い。イスラム教徒は一層信仰的になる。当方には多くのイスラム教徒の友人、知人がいる。彼らはラマダン期間、優しいイスラム教徒に変身する。

ラマダン期間が過ぎると、イスラム教徒によっては異なるが、ラマダンで体重が減って贅肉が取れた者もいる一方、イフタールを十分楽しんだ結果、ラマダン前より太ったイスラム教徒も出てくる。

ラマダン期間にテロ活動を行ったイスラム派過激組織もある。例えば、2016年7月、バングラデシュの首都ダッカのレストランでイスラム過激派の襲撃テロが発生、日本人7人を含む20人以上が殺害されるテロ事件が起きた。犯人はイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)だった。

中東問題専門家のアミール・ベアティ氏は、「ラマダン期間、紛争が絶えない理由はイスラム寺院の説教者にある。彼らが寺院に集まった教徒たちにコーランを通じて政府批判や紛争勢力への中傷などを繰り返し、信者たちを煽るケースが少なくないからだ」という。同氏によると、イスラム教徒はキリスト信者のように個人意識が成長していない。彼らは集団で行動をする。ラマダン期間はその機会が普段より多い。だから、断食明け後、デモや政治活動に走るケースが出てくる。ラマダン休戦が実現できない理由はイスラム教徒の集団主義と指導者の憎悪説教にあるという。

参考までに、日本外務省海外安全ホームページには、ラマダン期間中の海外渡航・滞在に関して、「3月11日(月)頃から4月12日(金)頃の期間は、イスラム教のラマダン月及びラマダン明けの祭りに当たります。上記期間中やその前後はテロの脅威が高まる傾向があります。特に、今年はイスラエル・パレスチナ情勢を受け緊張が高まっていることに留意する必要があります」と注意を喚起している。

ラマダン期間中、ガザ区でイスラエル軍の攻撃が続き、パレスチナ人に多くの犠牲が出るようだと、中東のイスラム過激テロ組織がそれに抗議し、テロ行為に走る危険性が高まる。

なお、世界のキリスト教会では今月31日、復活祭を迎える。イエスが十字架上で亡くなり、その3日後に蘇ったことを祝うキリスト教最大の祝日だ。ラマダン期間中にキリスト教最大の祝日のイースターを迎えるわけだ。それが吉と出るか、凶と出るかは分からない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。