アルゼンチン外交の方向転換:中国・ロシアから米国寄りに

共産主義国との取引はしない

自由至上主義者のハビエル・ミレイ氏が昨年12月10日大統領に就任した。アルゼンチン外交はこれまで正義党のキルチネール派による中国、ロシアを主軸にした外交から米国、EU、イスラエルに方向転換している。

ミレイ氏は選挙戦中に共産主義国との取引はやらないと断言していた。昨年9月に録画されたタッカー・カールソン氏のYouTubeのインタビューの中でもミレイ氏は、

「中国とは取引をしないだけでなく、どの共産主義国とも取引をしない。私は自由、平和、民主主義の保護者だ。共産主義はその中には入らない。中国人はその中に入れない。プーティンもその中に入らない。(ブラジル大統領)ルラもその中に入らない」

と語った。

更に、同氏は「我々は(南米)大陸におけるモラルの灯台になりたい。民主主義と多様性においてもモラルの灯台となりたい」と付言した。このカールソン氏とのインタビューは3億3300万回の再生回数を記録。

それまでの最高記録であったトランプ前大統領とのインタビューの2億5000万回の再生回数を上回った。それだけミレイ氏の政界での登場はラテンアメリカそして米国などで旋風を巻き起こしているということだ。

ミレイ氏が選挙戦中に良く言っていたのは「アルゼンチンは20世紀初頭には経済力でトップの国だった」ということ。そのパワーを取り戻すというのが彼のチャレンジでもある。

カールソン氏とのインタビューから数日後には、ペルー出身でマイアミをキーステーションにしたテレビ番組の司会者ハイメ・ベイリー氏とのインタビューにも応じた。彼はラテンアメリカで最も影響力のあるジャーナリストのひとりだ。

そのインタビュー中でも、ミレイ氏はベネズエラ、キューバ、ニカラグア、北朝鮮、イラン、テロリスタのハマス、ヒズボラなど列挙して非難した。またこれらの国にある大使館を閉鎖する意向であることも語った。

米国がアルゼンチンへの影響力拡大に再び始動開始

アルゼンチンでキルチネール派の政権中は米国との関係づくりには関心を示さなかった。米国寄りのマウリシオ・マクリ元大統領政権中に米国はアルゼンチンに接近したが、そのあと正義党のアルベルト・フェルナンデス氏が大統領に成ってから米国とはまた遠のいた。

そして今回ミレイ氏が大統領に就任することによって、米国はまたアルゼンチンとの関係を強化して中国を牽制することができるようになった。しかも、ミレイ氏は自国の法定通貨を米ドルにしたい意向を持っていることから米国はミレイ氏を強く支援して行く姿勢を示している。

そのこともあって米国の高官たちがブエノスアイレスを訪問している。それが最高潮に達したのが、2月24日、米国のブリンケン国務長官がブエノスアイレスを訪問したことだ。今年の大統領選挙でトランプ氏が復帰すれば両国の関係は更なる飛躍が期待されている。

またミレイ氏はイスラエルとの関係強化にも関心を持っている。同国の大使館をヘルサレムに移す意向であることも選挙戦中に表明していた。

中国が牽制して来た

ところがミレイ氏が政権に就いてから状況が少し変化している。 ミレイ氏の余りにも中国を疎遠にしようとする姿勢に中国がリアクションして来たのである。

その発端は大統領選挙戦中に台湾がミレイ氏の選挙に資金を提供していたということが判明。更に、ディアナ・モンディーノ外相が1月に台湾から派遣された政府代理人Miao-hung Hsieと会談を持ったということが中国政府に不快感を招いた。外務省の中にはモンディーノ外相が台湾政府の代理人の訪問を受け入れたということに無謀だという意見もあった。しかし、彼女は外交の素人ということもあるが、台湾からミレイ氏の選挙に資金の提供があったことから、同代理人の訪問は拒否できなかったようである。

それに反発して中国政府はスワップ取引を清算する意向があることを表明。そして大豆とトウモロコシはブラジルからの輸入量を増やし、牛肉についてはオーストリアとウルグアイからの輸入を優先的に行う意向を表明。(1月24日付「ラ・ポリティカ・オンライン」から引用)。

これによってアルゼンチンからこれらの商品の中国への輸出を大幅に減少させる意向も表明したのである。そうでなくてもアルゼンチンは輸出量が少ない上に外貨が常に不足している。このことから中国がアルゼンチンからの輸入を敬遠するようになれば、同国は深刻な打撃を受けることになる。中国を無視するような外交はアルゼンチンにとってその損害は甚大なものになるということを示唆したのである。何しろ、ブラジルと中国との貿易取引が全体の35%を占めているからである。

しかも、ミレイ氏は大統領就任式にボルソナロ前大統領を招待し、ルラ現大統領を憤慨させた。更に、ルラ氏はアルゼンチンがBRICSに加盟できるように中国とロシアを説得したにも拘わらず、アルゼンチンの新政権はそれに加盟することを拒否。それがまたルラ大統領を不快にさせる要因にもなっている。

この二カ国がアルゼンチンとの貿易取引を減少させるように動けば、アルゼンチン経済は深刻な損害を被るのは必至である。そうは言っても、ミレイ氏は今後も米国との外交を主軸に動くことに変化はないとしている。これがアルゼンチンが長年展開して来た外交であった。