「テックラッシュ戦記」著者、元Amazonロビイストの講演傍聴記

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近著に「テックラッシュ戦記ー Amazonロビイストが日本を動かした方法」のある渡辺弘美氏は、筆者が客員教授を務める国際大学GLOCOMが、3月5日に開催した「GLOCOM六本木会議オンライン#75 『テックラッシュ戦記』執筆の動機」で執筆の動機を紹介した。

以下にその傍聴記を記す。

ミッションの重要性

テックラッシュ(techlash)とは、技術(technology)と反発(backlash)が合わさってできた造語。 渡辺氏がタイトルにポスト・テックラッシュという言葉を提案したと述べたように、巨大テック企業に対する反発感情を意味する言葉でもある。

渡辺氏は3枚のスライドで26項目を取り上げて解説した。

最初の「政策立案者を念頭に」の「国家像がない中での“空気感”(臨在感的把握 by 山本七平)による政策立案の懸念」、「公共政策関係者を念頭に」の「経営陣と直結しミッションを負っているか」、「伝統的日本企業の経営者を念頭に」の「研ぎ澄まされたミッション下で社員が同じベクトルを向き最大能力を発揮しているか」の項目で取り上げられている、ミッション(志)の重要性については筆者も「著作権法がソーシャルメディアを殺す 」(2013年)の「あとがき」で指摘しているので、以下に抜粋する。

通算21年の海外勤務経験をもち、国内外から日本を見てきた筆者が、現在の日本にいちばん欠けていると思うのは「志」である。国も企業も個人も「志」がないことが、失われた20年をもたらし、いまだに改善の方向も見えない原因ではないかとつくづく思う。

「志」は国でいえば国家戦略である。しかし、民主党政権時代に国家戦略担当相が3年間で6人も代わる事実に象徴されるように、日本には明確な国家戦略がない。そのため、韓国の後塵を拝している。

企業も同様である。シリコンバレーのベンチャー企業は一攫千金を夢見て起業していると、日本では思われているようだが、そうではない。彼らは世の中を良くしようという志に燃えて起業している。

スティーブ・ジョッブス氏は、ペプシコーラのCEO候補でもあったジョン・スカリー氏をヘッドハントした。1年半以上、固辞し続けたスカリー氏をくどき落とした殺し文句は、「このまま砂糖水を売って過ごすのか、それとも一緒に世界を変えてみたいか」だった。

そのアップルの志は、「すべての人にパソコンを!」であった。グーグルの「志」は、「世界じゅうの情報を整理して検索できるようにする」ことである。

いずれも掲げた当時は、夢のような大志だった。しかし、こうした大志(夢)があるからこそ、多様なバックグランドをもち、個性豊かな従業員を、実現に向けて邁進させられるのである。

ちなみに渡辺氏の所属したアマゾンのミッションは以下の4つの原則から導かれている。

  1. 競合他社に集中するのではなく顧客にこだわる
  2. イノベーションへの情熱
  3. 卓越したオペレーションへのこだわり
  4. 長期的思考

日本再興の鍵は政策ではなく伝統的日本企業の経営改革

長らく政官と接してきた渡辺氏だが、民に対しても厳しい注文をつける。

伝統的日本企業の経営者を念頭に」では、「研ぎ澄まされたミッション下で社員が同じベクトルを向き最大能力を発揮しているか」の他に「日本再興の鍵は政策ではなく伝統的日本企業の経営改革」、「『不変の価値の追求』『顧客起点』『経営陣の質』『社会的なれあいの排除』など」も掲げる。

いずれも核心をついた指摘だが、自身の任期を大過なく過ごすため、守りの経営に陥りがちなサラリーマン経営者の多い伝統的日本企業にとっては、高そうなハードルでもある。