書店振興プロジェクトって?:硬直過ぎてビジネスにならない書店販売

本屋が街から消える、そんな話はこの10年以上、折に触れてニュースで報道されてきました。先日も「『書店』10年間で764社が倒産や廃業で消えた」(東京商工リサーチ)の記事がありました。全国の自治体で書店が一つもないところが全体の1/4にもなっていることも踏まえ、経済産業省が立ち上げるのが「書店振興プロジェクト」。斎藤経産相は「書店は、日本人の教養を高める重要な基盤で、書店に出かけることで新しい発見があり視野も広がる。同じ問題意識があるフランスや韓国の事例も参考にしながら、危機感を持って何ができるか考えていきたい」と述べたそうです。

経済産業省 y-studio/iStock

さて、私も海外で日本の書籍の卸と書店を経営する立場ですので本家日本における本に対する興味の減退は実に残念なことだと思っています。では書店経営の何が問題か書店を経営する者として考えてみます。

まず、非常にざっくりした知識として書籍の販売価格はどのように分配されるかです。1000円の本を例にしましょう。著者が100円、出版社が600円、取次が100円、書店が200円です。例えば有名作家で確実に売れる本を出してくれる方には150円ぐらい払うケースもあります。また、書店が200円ですが、これは返品ありのケースで買取はもう少し利益率は上がります。なので一概ではないのですが、そんなものだと思ってよいでしょう。

書店ビジネスはいくつか特徴があります。まず、一般的には返本可であること。つまり書店に並ぶ本は売れなければ取次に返して返金してもらうことが可能です。2番目に定価制度であること。本の裏には必ず金額が書いてあります。これが後で述べる今日の最大のテーマです。3番目に取次という一種の本の問屋から仕入れるのが普通であります。

私どものように海外で日本の書籍を販売する場合、返本ができません。いや、理論的にはできる書店もあると思いますが、物理的には輸送費の問題で返本コストが高くなるのでやらないのです。私どもも買い切りです。ですので返品制度をとっている日本の書店よりは仕入れ価格は若干下がります。

次に取次です。これはユニークな仕組みだと思います。日本には出版社が4000社程度あります。長期漸減傾向だったものが最近一部で話題になっている一人出版社が増えていることでここにきて増加に転じています。しかし、書籍を仕入れる書店からすれば4000社といちいち取引をしていては仕事になりません。そこでそれを集約しているのが取次という会社で日本では大手2社がほぼ市場を占有しています。ただ、実態としては一部書店は出版社との直取引をしています。アマゾンもジュンク堂も直取引と取次の両建て取引です。実をいうと私どもも両建て取引です。一回の発注が1000冊を超えるような教科書類は取次経由よりも直取引で返品なしのほうがコストが大きく下がるのです。

では日本では書店が儲からなくて苦労しているのになぜおまえはカナダでやっているのか、と言われればほかに競合がいないから、というのが正解。私どもはカナダで唯一の正規ルートの日本の書籍の卸と書店をやっているのです。では儲かるのか、といえば私どもは扱い書籍数が限られますので大したことがないですが、アメリカで展開する紀伊国屋書店さんの場合はアメリカ事業の営業利益率は5割を超えていると以前記事を拝見したことがあります。その理由は販売価格にあります。我々海外では販売価格が自由なのです。定価に縛られません。理由は輸送コストがあるからでそれを価格転嫁しないと商売が成り立たないのです。

ところで私どもは大学や日本語学校向け教科書販売と図書館向け配本という特殊な業務があるので小売りよりも卸としての機能のほうが大きくなっています。では小売りはどうしているのかといえば基本的には注文ベースです。在庫は限界まで絞ります。その代わり欲しい本を日曜日までに注文頂ければ最速金曜日には手にすることができます。一方、在庫を抱えながら勝負しているのがアニメ関係の書籍。これはアートブックのようなディープな趣味の領域の書籍が主流で、私どももそのようなイベントに参加してその手の書籍に集中して販売しています。ほかの書籍は一切販売しません。理由の一つは日本人が買わないからです。なぜかといえば本の裏に1000円と印刷しているのにそれより高い金額の値札が付いているので「損をしている」という印象が先にきてしまうからです。しかし、地元の人は欲しいから買うなのです。

では表題の書店振興プロジェクトですが、実態としてはまだこれからのようです。私が意見できることは以下のことかと思います。

  1. 書店は定価制度で2割の利益率ではやっていけないし、ビジネスの面白みは皆無
  2. 返本制度なので売れ線の本は配本となり、減配が当たり前で大手ばかりが売れ線をゲットできる仕組みが存在する。(我々が10冊注文しても2冊しかもらえないの意)
  3. 書店が出版社と直取引をどんどん進めるべき。理由は取次は営業をしないけれど出版社はするから。つまり売りたい本を出版社は書店に直接伝えることができない。出版社の意図が書店に伝わらなければどうやって書店は顧客に営業をかけられるのか?

つまり今の書店販売の仕組みがあまりにも硬直過ぎてビジネスにならないのです。それを誰も指摘しない、これは書店と出版社が声を上げるべきでしょう。また定価制度と返本制度は選択制にすべきで買取の場合はもっと利益率がほしいところです。たぶん、5-6割ぐらいの利益率がないと書店経営の面白みはないと思います。返本制度がなければそれは可能だと思います。

書店振興プロジェクト、さて、どんな展開ができるか、傍で様子を見ようではないでしょうか。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月19日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。