送電線を増強すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか
「同時同量」という言葉は一般にも定着していると思うが、これはコンマ何秒から年単位までのあらゆる時間軸で発電量と需要を一致させねばなないことを表しており、それを実現するのに必要となるのが各種の調整力だ。
送電線の増強は、電源地域から需要地域へ電気を送る道を整備することであり、他の地域で調整力に余裕があれば、広域の運用により不足分をカバーする効果が期待できる。今春には、全国で唯一未実施だった東京電力エリアでも出力制御を行う見通しのことだが、それはこの送電容量に係る問題であると聞いている。
しかし、送電線の増強で調整力自体を増やせるわけではなく、今後全国的に再エネが余剰になる場面も多くなってくることから、送電線の増強だけで対応できるわけではない。送電線の増強は必要であるとしても、それだけで十分というわけではないのだ。
実際、最近行われた国の委員会でも、全国的な再エネ拡大の影響により地域間連系送電線増強の費用対効果の試算値が1を下回る恐れが出てきたことが報告されている。
このように送電線増強による効果に陰りが見えてきたことから、今度は需要面での対策に注目が集まってきており、今後デマンドレスポンス等の活用や新たな料金メニューの提供などが期待されている。
しかし、それらを普及させるには相応の費用と時間が必要であり、すぐに効果を期待するのは困難だ。今のところ、調整力の確保は主に電源側で対処すべき問題なのである。
揚水や蓄電池を活用すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか
揚水や蓄電池は有効な調整力であるが、あらかじめ充電した量しか利用することができず、持続時間に制約があるなど火力機と比較して使い勝手に大きな差がある。
季節間の変動や、曇りで風が弱い日が続いたときなど、揚水・蓄電池だけでは対応しきれない。
また、最近ではこれらを「脱炭素化された調整力」と表現されているが、現状再エネが余剰となる時間帯はわずかであり、年間を通してみるとこれらの充電原資は主に火力発電が担っているため無条件で脱炭素電源と言えるわけではない。
将来的に蓄電池が大量に普及し、余剰再エネで十分な電力を充電できるようになれば、調整力としての火力など不要との意見もあるが、昼間しか発電せず、年間の利用率が17%程度の太陽光発電で必要な電力量を賄うためには、今の10倍程度の設備量が必要となる。
また、限られた時間帯で発生する大量の余剰電力を、夜間や曇り日の分も含めてせっせと充電しなければならず、貯め込む量に比例して蓄電池の設備量も莫大なものとなる。さらに、充電には少なからずロスを伴うことも考慮すると、すべての電力を蓄電池に貯めることには相当な無理がある。
さらに、もし再エネと蓄電池の組合せにより電力供給を賄おうとすれば、再エネ余剰が十二分にあることが前提となるが、再エネ、蓄電池ともに莫大な設備費がかかることに加え、再エネを増やそうとすると、先ず調整力が不足し、そのことが安定供給維持の障害となるというジレンマを抱えている。
送電線、揚水発電所、蓄電池、さらにはデマンドレスポンスについても、それぞれの特性を正しく理解し、使いどころをしっかり見極めることがなにより重要だ。
(次回につづく)
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