(前回:超過死亡②:感染研が採用しているFarringtonアルゴリズムの利用方法)
前回までの記事で、日本での死亡率の傾向を見るときに、高齢化による死亡率の増加は年齢調整すれば排除でき、死亡率は減少傾向だったのにワクチン接種開始の2021年から上がってきている※1こと、また感染研が採用しているFarringtonアルゴリズムの利用方法※2について解説した。
本記事では、年齢調整しても超過死亡は34万人と計算できることをまずは示す。次に予測に使う年によって計算結果は変わり、今後はワクチンの影響は隠されていくということを、幾つかのグラフを使って説明する。
年齢調整死亡率でを毎年ごとの5年平均で比較、累積は2020年から
- 視覚的に分り易い年齢調整死亡率で毎年ごとに5年平均と比較
- 2番目のグラフは5年平均との差
- 3番目のグラフは差をワクチン開始の2021年から累積
- 元から死亡率が減少傾向だったことを考えると過少評価になるのでは?
グラフ詳細はこちら→【MedicalFacts.info】
視覚的に分り易い年齢調整死亡率で毎年ごとに5年平均と比較する。グラフは2015年からのグラフで、各年の直前の過去5年間の最大と最小範囲を水色の領域で示している。
2番目のグラフは各週ごとに、過去5年平均との差を示しており、3番目のグラフは差をワクチン開始の2021年から累積している。このグラフは自動更新されるため、執筆時2024年3月での計算ではあるが、2023年8月までのデータを用いると、10万人あたり90.07人の超過死亡で、日本の人口で換算すると11万2000人の超過死亡となる(これ以降も数値は執筆時のデータでの計算)。
しかしこの5年平均だけを使った方法だと死亡率が減少傾向だったことを考えると、過少評価になるのでは? という疑問が浮かぶ。
2020年までの回帰線から予測線を出し累積
- 2016〜2020年の週ごとの一次回帰直線を計算し水色の点線として描く
- 2021年以降を計算し繋げたものを予測線として赤紫の点線として描く
- 実際の死亡率と予測線との差を累積すると超過死亡34万5000人(執筆時)
- しかしこの値はいつまでのデータで予測するかで変化する
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そこで2016年から2020年までの週ごと、計52個の一次回帰直線を計算し、週ごとの値を改めて計算し繋げたものを水色の点線(この線は直線にはならない)で示す。同様にして2021年以降の週ごと予測値を計算し繋げたものを赤紫の点線で示し、これを予測線とする。この線がトレンド、つまり傾向といえると考えられる。
実際の死亡率と予測線との差を超過死亡とし累積すると10万人あたり227.8人、日本の人口で換算すると34万5000人の超過死亡数となる。この超過死亡の算出で感染研と比べて大きな値が出るのは、アルゴリズムの違いよりは、トレンドを算出する年を2020年までに留めている点である。
前回説明したFarringtonアルゴリズムも基本的にはトレンドを出して、その差を超過死亡とするものである。トレンドとその差を計算するのであれば、Farringtonアルゴリズムを含め、何を使おうと結果は同じような傾向になる。
ただしFarringtonアルゴリズムでは、95%予測区間を超えたときや下回ったときを超過死亡や過少死亡としているので累積の絶対値は少なくなる傾向にある。しかしそこは本質的な問題では無く、むしろいつまでのデータを使って予測線を出すか、ということが本質的な問題となる。
スウェーデンとの比較を例に説明する。
2020年までのデータで比較し累積するとスウェーデンより日本の被害が大きい
- 2020年までのデータで予測線を出し日本とスウェーデンを比較
- 2021年からの人口あたりの累積超過死では日本の方が圧倒的に多い
- 日本のワクチン政策の失敗を示していると考える
- しかし2020年を含めた予測線がフェアでは無いという見解もあるだろう
グラフ詳細はこちら→【MedicalFacts.info】
筆者はコロナ禍が始まった2020年の3月からコロナ死者の多寡だけで対策を論ずるのは間違っていると異を唱えていた。2020年5月にはアゴラの記事※3として、ロックダウンをしなかったスウェーデンでの全死因死者でのグラフを描いた。本稿では、そのスウェーデンと比較することで、日本がコロナ対策の結果どうなったのかを示す。
まずは2020年までのデータから予測線を出し、超過死亡の累積を算出すると10万人あたり、日本は277.8人、スェーデンは -63.89人となり、日本は大幅な超過死亡が出ているが、スウェーデンはむしろマイナスの結果となる。これは日本のワクチン対策の失敗を示していると筆者は考えている。
しかし2020年を含めた予測線がフェアでは無いという見解もあるだろう
2019年までのデータで比較し累積するとスウェーデンの被害が大きい
- スウェーデンは2020年のコロナ被害が日本より多かった
- 2020年までのデータを使うとスウェーデンでの超過がマイナスになるのではという考えは合理的
- 2020年までのデータで2021年から累積するとスウェーデンの超過が多くなる
- (どのみち日本は2021年からマイナスが減るプラスに転じていく)
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スウェーデンは2020年でのコロナ被害はインフルが流行ったときと同程度とはいえ、日本より人口当りで多かったのは事実ある。ことため2021年から超過死亡の累積ではマイナスになっただけでは無いかという考えは合理的である。そこで2019年までのデータで予測線を出し、2020年からの超過死亡の累積を算出する。
その結果、スウェーデンはずっと超過が出ていて、最終的な累積としては日本より多くなったというグラフになる。
一方で日本は2020年、超過死亡の累積はマイナスだったが、2021年からマイナス分が減っていき2022年の途中からプラスに転じたというグラフになる。どのみち変化は2021年から起きたということは読み取れる。しかしスウェーデンと比較すれば超過死亡の累積は日本の方が少なくなる。
2019年までのデータで比較し累積するとスウェーデンの被害が小さく
- 再反論も可能で、2019年初頭スウェーデンは暖冬で死者が少なかった
- 2019年までのデータで2021年から累積するとスウェーデンの超過が少なくなる
- どこまでのデータで予測線を出し比較するかで結果が変る
- 感染研の予測は2021年や2022年を含んだ比較になるので、ワクチンの影響は有耶無耶に
- 2020年までのデータで予測線を出した超過死亡数を提供すべき
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ところが更に、上の結果もフェアでは無いという反論が可能である。というのは2019年初頭、スウェーデンは暖冬で例年より死者が少なかったので、そこも含めて比較対象にすると超過が多く出てしまうというものである。
そこで2018年までのデータから予測線を出し、2019年から累積すると、今度は日本の方が多くなるのである。
以上、ここで強調したいのは、どの時点までのデータを使って予測線を作りどこから累積するかで結果は変るということである。アルゴリズムにFarringtonを使うのか他のものを使うのかという問題は本質では無い。
今後、感染研のダッシュボード※4では、2021年や2022年のデータを含め予測線を出した超過死亡しか示さないだろう。それではワクチンによる影響があっても超過としては出てこなくなり、有耶無耶にされる。これはアルゴリズムには依存しない話である。
今後も対象年を2020年まで、つまりワクチンを接種していなかった年度までのデータから予測線を出し、ワクチンによる超過の影響について論じる予定である。
【参考文献】
※1)アゴラ記事, 藤川賢治, 超過死亡:ずっと減少傾向だった日本の死亡率が2021年以降に増加
※2)アゴラ記事, 藤川賢治, 超過死亡②:感染研が採用しているFarringtonアルゴリズムの利用方法
※3)アゴラ記事, 藤川賢治, コロナ騒ぎを収束させ人間らしい暮らしを今秋にも取戻す方法
※4)日本の超過および過少死亡数ダッシュボード