再エネTFは法治国家を破壊する河野太郎氏の「突撃隊」

池田 信夫

国家電網のロゴ問題をきっかけに、再エネTF(再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース)が注目を浴びている。これは河野太郎規制改革担当相が4人の「私兵」を集めたアドホックグループで、法的根拠はない。

「19兆円の請求書」で冷や飯を食った同志

河野氏がこれをつくったのは、彼自身は反原発のスタンスから経産相になれないため、規制改革という名目でエネルギー問題に介入するためだった。この仕掛けを考えたのが、山田正人参事官である。

彼は2004年に「19兆円の請求書」という怪文書を書いて青森県六ヶ所村の再処理工場の稼働に反対した。メイン執筆者は安井正也氏(のちの原子力規制庁長官)だといわれるが、これを書かせたのは当時の村田成二事務次官だとされる。

「19兆円の請求書」

この時期、日本の原子力政策は大きな岐路にさしかかっていた。村田次官は電力会社を発送電分離し、発電事業に通信やガスなどの異業種を参入させようとしたが、東電の勝俣社長を中心とする電気事業連合会は族議員を使ってこれをつぶした。

そのとき最大の「人質」となったのが再処理工場だった。40年間で19兆円に及ぶコストは9電力が負担し、使用ずみ核燃料は再処理してプルトニウムを抽出する燃料として資産にカウントされる。

このスキームは、核燃料サイクルのコストを9電力が負担する総括原価主義と一体であり、発送電分離を阻止する武器として使われたが、核燃料サイクルの中核となる高速増殖炉(FBR)が失敗し、六ヶ所村の工場は宙に浮いてしまった。

しかし再処理工場を止めるなら、それまでの投資2兆円は国が補償せよと電事連は主張し、経産省が屈服した。「19兆円の請求書」を書いた山田氏は左遷され、河野氏は自民党の執行部から「この問題で考えを変えない限り閣僚になれない」と申し渡された。

超法規的な「突撃隊」が法治国家を破壊する

ところが3・11で彼らにチャンスが訪れた。原発事故後のドサクサにまぎれて発送電分離を実現する「電力システム改革法」が決まり、経産省は電事連に対するリベンジを図ったのだ。

特に2020年の菅義偉首相の「カーボンニュートラル」宣言のあと、河野氏と山田氏は再エネを最大限に増やして原発をつぶそうと画策した。

経産省の有識者会議には入れてもらえないので、4人でオブザーバーとして参加し、「提言」を連発した。その中身は露骨な利益誘導で、業界の失笑を買う幼稚な間違いだらけだった。

電力業界では再エネTFを「突撃隊」と揶揄する向きもあった。ヒトラーはナチスのテロ組織として反社会的な暴力組織を結成し、敵対する勢力を暴力的に排除した。突撃隊は法的根拠のない「私兵」であり、隊員には学歴も知性もなかったが、ヒトラーへの忠誠心は人一倍だった。

突撃隊(Wikipedia)

ギャンブルに負けた新電力の損失を補填した汚職議員

東電の戸田直樹氏も提言の内容のひどさにあきれている。その一例が2021年1月の新電力損失補填事件である。これについては私も当時、「ギャンブルで負けた金を返せと要求する新電力」というコラムで論評した。

この冬は異常な寒波で電力使用率が上がり、LNGの価格が暴騰して日本卸電力取引所(JEPX)の卸電力価格が200円/kWhを超えた。これは通常の20倍を超え、卸電力を買う新電力の経営危機が表面化した。

これに対して経産省は卸電力料金の上限を200円に制限したが、それでも足りない新電力56社が大手電力に「1300億円の利益を返還せよ」という要望書を経産省に提出した。このとき業者の要望を役所に持ち込んだのが、秋本真利を事務局長とする再エネ議連であり、その理論武装をしたのが再エネTFの緊急提言だった。

夏場には卸値0.1円/kWhの電力を20円以上で小売りして大もうけした新電力が、卸値200円になって損するのは当たり前だ。それが自由な市場経済であり、世界の商品市場では、この程度のスパイクは日常茶飯事である。

ところが再エネTFは「旧一電(大手電力)に不正があった」と主張して電取委(電力・ガス取引監視等委員会)に調査を求めた。不正はなかったが、エネ庁は旧一電に値上がり分の一部を新電力に「還元」させる政治決着がおこなわれた。

このように再エネTFのやってきたことは、秋本のような汚職議員と一体になって筋の通らない新電力の業界エゴを押し通す利益誘導だった。こんな素人集団が国のエネルギー政策に影響をもった背景にも、河野氏の政治力があった。

政府の方針が気に入らないと、再エネTFのような突撃隊で横槍を入れる河野太郎氏の手法は、ヒトラーが私的な軍事組織でワイマール共和国を破壊したのと同じである。「大きな政府」は国民負担を増やすだけでなく、このような反社集団が税金を食い物にして法治国家の土台を掘り崩す原因となるのだ。