解散・総選挙は遠のく
自民党は派閥の裏金事件を巡り、安倍派、二階派の計39人の処分を決めました。新聞各紙をみると、表現にかなりの違いがあり、新聞社のスタンスが反映されています。朝日は「自民裏金」、毎日は「裏金事件」と表現したのに対し、読売は「不記載」としています。
読売は関連記事でも「自民党派閥の政治資金規正法違反事件」という表記です。意図して「裏金」という表現を避けたのでしょう。自民党自体が「裏金」という言い方を避けているのは、「裏金」と言えば、犯罪に相当すると考えているからです。読売は、遠慮深すぎる。
迷ったのは日経でしょう。1面4段の地味な扱いで、見出しは「39人処分決定」とし、文中にも「裏金」は出てきません。社説の見出しでやっと「党の処分で裏金問題の幕引きは許されず」と書きました。
各紙の対応がばらつく中で、際立ったのが朝日新聞です。1面トップの扱いかと想像していましたら準トップ、それも3段の扱いです。トップ記事はなんと、植田日銀総裁の単独インタビュー記事で「利上げ判断、夏から秋にも」の見出しで、裏金問題よりずっと大きなスペースを割いています。
急を要する金利政策の発言があったならばともかく、「夏から秋」の利上げの発言が裏金問題よりニュース価値があるとは思えません。朝日はあきらかに、裏金処分が「解明より党内事情を優先。コップの中の処分劇」(2面)に過ぎないと判断したのです。
大きな扱いをすれば、自民党が大胆な決断をしたと、宣伝してあげることになると考えた。自民党の処分の過少評価を狙った。読売はその逆です。読売は「首相、規正法改正に全力」(1面中見出し)と、与党への配慮があるのでしょう。
「裏金」という表現以上に各紙の違いがでたのは、資金還流における森喜朗元首相の動きです。朝日社説は「誰が(裏金還流の)継続を決めたのか。当、派閥運営に影響力のあった森・元首相の関与はなかったのか。肝心な点があいまいなままでは説得力を欠く」と、明言しました。
毎日社説は「鍵を握るのが、安倍派の裏金作りが始まったとされる時期に会長を務めた森・元首相である。政治家引退後も影響力を保っている。国会で説明すべきだ」と、朝日並みに歯切れがいい。
日経社説は「1998年以降に断続的に派閥会長を務めた森・元首相らの国会招致を野党は求めている」と、腰が引けた表現ながら、「本丸は森氏」を示唆するような表現を使っています。
読売社説は、森・元首相の関与の有無に言及することはなく、「人口減少や物価高など解決すべき問題は山積している。国際情勢も緊迫している。重要な局面をどう乗り越えるか」と語るにとどめています。下村氏は裏金継続で決定力のあったのは「ある人」と述べ、恐らく森・元首相を示唆したかったのでしょう。やはり森氏の舞台裏の動きの解明は必要です。
問題は朝日が「森氏の関与はなかったのか」、毎日が「森氏は国会で説明すべきだ」と主張するなら、それを裏付ける事実関係を報道する必要があります。社説は犬の遠吠えであってはいけない。関連記事、解説にも、森氏の関与に触れる箇所が見当たりません。調査報道をなぜしないのか。
世論調査では「処分案に納得できない」が7、80%以上でしょうから、岸田首相は当分、解散・総選挙をしないでしょう。解散したら惨敗は必至ですから、世論の動向をみながら、任期満了(25年10月)ぎりぎりまで総選挙を待つしかありません。
自民党離党勧告を求められた塩谷、世耕氏は総選挙で再当選しない限り、復党はなく、もう必死でしょう。党員資格停止、党の役職停止を下された幹部らは、停止期間が「6か月-1年」です。この間、選挙がなければ、停止期間が切れ、党の公認も得られる。処分にも平然としている。
当選回数の多い上層部はともかく、若手議員は自民党のイメージダウンの影響をもろに受けます。世論調査によると、「支持政党なし」(無党派層)が50%を上回っています。自公合わせ30%以下ですから、野党が連合を組み、無党派層を取り込む好機です。
野党も「自らに波及しないところで処分の線引きをしている」などと発言しています。そんな遠吠えでなく、自民をもっと追い込む戦略を練るべき時なのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。