小林製薬をアベガーと反ワクチン陰謀論者が弄ぶ不見識

この事件については、「どうしてこういう事案が起きたのか」という真摯な原因究明がされるべきなのに、「『機能性食品』の制度が安倍政治の産物だからこんなことが起きる」とかいうアベガー狂想曲があるかと思えば、「純民族系メーカーでコロナを99.9%押さえ込めるサプリを開発した小林製薬を貶めるためのフェイクだ」とかいう反ワクチン陰謀論も登場して、不真面目極まる状況になっている。

たしかに、原因などについて十分な解明が行われていないのもかかわらず、一方的に小林製薬をリンチ状態にしたり、薬害が出るとは思えない範囲まで製品回収したりするのは考え物であって、厚生労働省の小林製薬への厳しい態度に自らの責任逃れもあるとみるのも見当外れでないと思う。

不純物が混じったという製造過程の問題なので医薬品でも普通の食品でも同じことが起こるのであるから、機能性表示食品の制度の問題ではまったくない。

また、機能性食品の制度は、超党派で推進し国民にも歓迎されてきたのに、「制度そのものがおかしい」だの、「安倍内閣が利権がらみでつくった」などと、アベガーのバカさ加減丸出しの無責任な風説流布もひどいものだ。とくに蓮舫氏の自分が賛成したことを忘れての発言など、いつものことながら犯罪的な虚言癖だといわれても仕方あるまい。

しかし一方で、小林製薬や紅麹になんの問題もないとか、コロナ・ワクチンとからめて陰謀の犠牲者のようにいう人たちが出てきたが、こちらも聞くに堪えない。

小林製薬が超優良企業という人もいるが、金儲けが上手で技術を軽視し、ワンマンで好き放題でガバナンスがいい加減なことを超優良企業といってるだけにしか聞こえない。

いい加減なことを過度に誉めて暴走を止められないと、その企業はドツボに落ちるので甘やかしてはいけない。サプリや健康食品を副作用を無視して大量にとると、そこそこ効くことも無いわけでないという話で、危険である。

面白い企業だからこそ、冷静に問題点は改善していかないと応援したことにならない。

そんななかで、私のFacebookに今西伊久雄さんという方が小林製薬について体験談を投稿されていて、なかなか含蓄があるので、紹介したい。

小林製薬の「紅麹被害」に思ったこと。

私の人生は20歳の漢方製剤の卸売業を、スタートに、医療品卸売業を、65歳で定年退職するまで、医薬品医療品流通業を天職としてきた。

その途上、小林製薬とは多少の関わりを持った。

元々小林製薬は、医薬品製造部門を持った、医療品雑貨商事を母体に、成長してきた。卸売業が売り上げの大半であった。

製品は戦前に発売された、「鎮痛剤ハッキリ」に始まり、「消炎鎮痛剤アンメルツ」「トイレの芳香剤ブルーレット」「消臭剤サワデー」「熱さまシート」等、テレビCMでお馴染みの商品を、市場に出してきた。

これらはニッチ(隙間)市場と呼ばれ、製薬大手メーカーや花王、ユニ・チャーム、P&G等が、製品化しない、ブールーオーシャン(競争無き)市場であった。キャッチコピー「あったらいいな!」の製品化だった。

しかし、投入した製品はテレビCMが終わると、直ぐ陳腐化してしまった。

市場規模の小ささは、製品のロングセラー化や、リニューアルを困難にした。

その為毎年、新製品を投入せざるを得なくなり、製品開発は短兵急であった。

そして、一方でM&Aも急いだ。使い捨てカイロのパイオニアの桐灰化学の買収を皮切りに、「命の母A」の笹岡薬品。「ビスラットゴールド」等が続いた。

この背景には、ドラッグストアーの台頭があった。ドラッグストアーは、自社製品開発(PB)に力を入れて、PBの売り上げは増加の一途を辿る。

それに反して、国内の小さな家庭薬メーカーは、存亡の危機に立つ。

小林製薬は廃業寸前の家庭薬品メーカーのブランドを買い漁った。

そして、独自のマーケティング力で、再ブランドとして市場に発売する。

小林製薬の大きな転換点は、卸売業のコバショーの分社化と、売却であった。これにより、小林製薬は文字通り「製薬メーカー」となった。

製薬に関しては、GMP「Good Manufacturing Practices」システムという、厳格な製造規格が求められる。製薬メーカーの魂である。

「ジョンソン&ジョンソン(J&J)のタイレノール毒物混入事件」と言う、ベスト・プラクティスがある。

製造ラインで、何者かが毒物をタイレノールに混入。死者が出た事件であった。

米国で「タイレノール」は、鎮痛剤の代名詞であり、全米の家庭には必ず「タイレノール」が置かれていた。

J&Jは全米医薬品食品局に通報。国内の全ての「タイレノール」を回収するとともに、直ちにキャップの再開栓を不可能にした製品を開発した。

この一連の施策J&Jへの信頼を高める結果となった。

なぜ彼らにこのような行動が出来たのか?

J&Jには、よく知られているのが「我が信条(Our Credo)」と言う、企業の価値基準を示した、いわゆる企業理念があった。

我が信条ができたのは1943年。

我が信条では以下のように、「全社員が担う四つの責任」を明記している。

我が信条「Our Credo」

全社員が担う四つの責任

①顧客・患者

高品質、適正な価格、注文への迅速な対応、取引先への適正な利益配分

②社員

個人の尊厳と価値、安心で公正な待遇、清潔・安全な職場環境

社員の家族に対する配慮、有能な人材の能力開発と平等な昇進機会

有能な管理職の任命

③地域社会

良き市民、有益な社会事業、福祉への貢献、租税の負担、環境/資源の保護

④株主

健全な利益を生む事業

新しいアイデアへの挑戦、研究や革新的な企画の開発

失敗への償いと逆境への備え。

我が信条の英文には、「must」という言葉が30回以上出てくる。must、must、must…。mustだらけの文章だ。

今回、小林製薬の記者会見を聞きながら、小林製薬の「信条」とは、「保身と儲け」と感じた。

小林製薬の主力商品に「ナイシトール」がある。

内容は「防風通聖散」と言う、漢方エキス製剤だ。

「防風通聖散」はポピュラーな漢方薬として、昔から市場にでている。

効能効果は、

「便秘を伴う肥満症に用いられる漢方薬です。お腹まわりに脂肪が多い、いわゆる「脂肪太り」の方に適しています。食事量が多いと、体内に熱がたまりやすくなります。その熱をうまく発散できないと、便秘やふきでものなどの原因になると言われています。防風通聖散は、体を温めて熱を発散し、エネルギー消費を高めて脂肪の分解や燃焼を促すことで、便秘をともなう肥満症やふきでものなどの症状を改善します」※津村ホームページより

「防風通聖散」自体は、日本薬局方で、処方が決定しており、各社は処方に従って、生薬からエキスを抽出して製剤化している。

しかし、生薬の量やエキスの成分は、日本薬局方の中で、かなり幅が広い。

例えば

漢方薬のパイオニアの小太郎漢方の防風通聖散は、生薬12.65gから抽出した、3.6gを含む

津村防風通聖散は、生薬13.15gから抽出した、エキス2.25g含む

それに対して小林製薬の防風通聖散(ナイシトール)は、生薬28gから抽出したエキス5gを含む

※いずれも各社ホームページより大人一日量

小林製薬の成分は、他社に比べると突出して多くの生薬成分を、含んでいることがわかる。

小林製薬は、「日本薬局方の最大の生薬量を配合!」と宣伝で謳っている。また、それだけ作用が強く出ます。と警告までしている。

勿論、日本薬局方に準じる限り違法ではない。

だが、使い方を誤ると、とんでもない副作用が出ることがある。

ともかく、紅麹は非常にデリケートで危険なものなので使いたくても使いにくく、小林製薬のようなところの製品なら、その危険なものをしっかりコントロールしているだろうと勘違いして各社使っていたわけである。

ところが、小林製薬はもともと薬問屋で、販売力はあってもそれほどの技術力が元々なく、コストを惜しんでいい加減な工程管理をしたから起きた可能性も高いと見られているわけだ。それを紅麹は危険でないとかいうのは非常に誤解を招き、公衆の安全にとっても疑問である。

発酵食品については、万能薬のように喧伝する人がいるが、効果は十分に検証されたものでなく、多分に都市伝説だと私はみている。

納豆など典型的だが、都道府県別の寿命をみても、京都や滋賀のように洋食化が進んで、肉、パン、バター、コーヒーなどの消費量が多いところほど長く、納豆などの消費量が多いところは短いところが多い。そもそも日本人の寿命は洋食化の進展とともに伸びてきたのだから。

私はサプリメントの販売を規制するのはあまり賛成できないが、宣伝文句については、かなり厳し目の規制をかけるべきだと思っている。とくに、薬と同じような効果があることを確信させるようなことは赦されるべきでない。