経産省は次世代の旅客機を開発すると発表しています。ですがこれは120%失敗します。政治も役所も、業界に当事者意識と能力が欠如しているからです。
MRJにしても政府や経産省が適宜手を打っていれば、なんとか実用化までこぎつけたでしょう。その見識も覚悟も政治にも経産省にもなかったということです。戦闘機を開発する能力をもった大三菱重工の能力をもってすれば、旅客機なんぞ簡単に作れると誇大妄想していただけです。
能力がないならば税金使ってできないプロジェクトをやらないほういいです。
三菱重工関係者によれば同社では他国との共同開発を視野にいれているとのことですが。
経済産業省は27日、2035年ごろをめどに官民で次世代の国産旅客機を開発する案を示した。三菱重工業が撤退した「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の反省から一社単独ではなく複数社で開発する。
この時点でアウトです。日本には重工三社、新明和の4社の完成機メーカーがありますが、やっていることといえば、他国のメーカーの下請けと、防衛省向けの仕事だけです。下請け仕事は言われたとおりにやっていればいいわけです。これは日本メーカーの得意とするとことです。
自衛隊というクズを何倍も高い値段で買ってくれて、一桁高い維持費まで払ってくれる「馬鹿な子供ほど可愛い」親しか相手にしていない、事実上国営です。苛烈な市場の厳しさを全く知らない、あまやかされて育った「子供部屋おじさん航空産業」です。
政府がやることはまず、航空機メーカーの再編です。大した技術もなく、零細規模のメーカーが乱立を是正するべきです。ところがそんな気は毛頭ない。むしろ防衛省向けのビジネスは利益が低いと、利益率をあげてやります。これではますます、事業再編への道は遠のき、弱体化します。なんの努力もせずに国が支払い増やしてくれるのですから、経営者がどんな無能でも業績はよくなります。少なくとも雇われ社長ら経営陣が任期の間はそれで済みます。
経産省が産業構造審議会に「航空機産業戦略」の新たな案を提示した。MSJの失敗の要因に(1)安全認証の取得に向けた理解の不足(2)部品などの海外事業者対応の経験不足(3)想定していた市場環境が変化(4)研究開発中心だった政府支援の不足――を挙げた。
こういう意識だから失敗したんです。以前から申し上げておりますが、市場経済を知らないお山の大将の重工が失敗したのはその組織文化によるものです。その組織文化を知っていて経産省も政府も何も対策を講じなかった。
そして計画が遅延しても傍観するだけで、自衛隊の電子戦機にするとか、挙国体制でプロジェクトを支えるといった手段も何も講じなかった。
MRJの失敗は政府の無能によるものです。
08年に開発を始めたMSJは、経産省が研究開発などに500億円を投じた。三菱重工側の投資額は1兆円に上った。官民連携だったが、民間側の負担は大きかった。戦略案では「民間一社で航空機開発を担うのは困難、政府がより前に出る支援の枠組みづくりが課題だ」と言及した。
失敗したのは重工の奢った文化のせいです。マトモに開発が進んでいれば重工一社でいけたプロジェクトですよ。多少遅延するのであれば政府が財政的にサポートすればいいだけです。
で、他のメーカー協力捺せれば成功するのでしょうか。こういってはなんですが、無能がいくら集まっても無能なままです。むしろ船頭多くして船山に登るになるでしょう。
実際YS-11はそうして失敗しました。
今回、MSJの撤退から1年のタイミングで戦略を出した。野村総合研究所の川原拓人コンサルタントは「MSJで培った知見や蓄積を生かすためにもノウハウが継承出来なくなる前に取り組むことが重要だ」とみる。
口先三寸で現実を知らないコンサルタンㇳの妄言です。マトモな知見があれば成功していたでしょう。それができなかったのは硬直した組織文化と、世の中をしらない夜郎自大体質です。
経産省は三菱重工や川崎重工業といったメーカー、航空部品の事業者、水素エンジンで先行する自動車メーカーなどの連携を想定する。政府支援も研究開発だけでなく技術の国際規格づくりや試験手法の確立に広げる。
何度も申し上げますが、市場経済も防衛産業を産業であると意識が皆無の国営企業なみの意識のメーカーの寄り合い所帯でうまくいくはずがありません。部品メーカー等ベンダーも散々MRJで煮え湯を飲まされたので協力するでしょうか?
しかも水素エンジンなどという失敗必然のプロジェクトまでウイング広げて怪しさ満載です。クールジャパン事業の惨状を見れば経産省に新たなビジネスを起こす能力がないのは明らかです。
資金面の支援も手厚くする。「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を中心に財源を賄い、今後10年で官民で5兆円を投じる計画だ。
たかだか10年計画です。フランスやドイツ政府はエアバスが黒字化するまで30年支えました。その間アメリカとも徹底的にやり合いました。そして現在ボーイングのオウンゴールもあって最強のメーカーとなっています。その覚悟が日本政府と経産省にありますか?
やるのであればまずは、メーカーの事業再編そして、他国のメーカーとの共同開発しかないでしょう。
【本日の市ヶ谷の噂】
航空医学実験隊にはいまや航空専門医は一人もいなくなったが、空自では戦闘機マフィアがこの弱体化した航空医学実験隊を更に弱体化させようとしている動きがある。それは航空事故調査と事故防止の調査研究を行う、航空安全管理隊に航空医学実験隊を吸収させるよう画策しているという。これは目黒の航空研究センターを補強するという名目だが、政治家も絡んでいる。
対して空幕衛生や航空医学実験隊司令はパイロットに恩を売り、自分の出世と引き換えに言われるがまま、この研究拠点の弱体化に加担している。この研究拠点の弱体化に加担している。その首謀者は防衛医科大学校副校長(元航空幕僚監部首席衛生官)、桑田成雄空将 、航空医学実験隊第3部長兼第4部長(元航空幕僚監部首席衛生官付)小西透1佐、との噂。
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東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
・航空専門医がいない空自に戦闘機開発はできない やる気のある医官が次々に辞める自衛隊の内情
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月刊軍事研究4月号に陸自の18式防弾ベストに関する記事を寄稿しました。
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Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
・次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する
・次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1 駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。