事業売却で退路を断ち売却代金を新規事業に投資すること

社会変革の速度が非常に速いから、真に創造的事業といえども、短期間のうちに古いものに転じる。古い事業は即座に売却され、事業を売却した起業家は、売却資金を新たな創造のために再投資する。資金循環こそ、連続的創造を可能にするものである。

事業売却資金を手にした起業家は、自分で改めて全く別の事業を創造することも理屈上は可能だが、その成功は、人間の能力の限界として、極めて非現実的であって、実際には、投資家としての立場に身を変えて、創造に挑戦する別の起業家に資金を供給することになる。

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しかし、こうした起業家の行動様式は、普通の企業の経営にも適用できる。企業にして、自分が現に営んでいる事業分野において、真に創造的な革新を起こそうとすれば、自己を否定するほかない。つまり、現存事業を売却して退路を断ち、その売却代金を新規事業に投資するほかないのである。

事業を売却して得られる金額は、その事業を継続したときに得られる未来の収益の現在価値なのだから、売却代金の再投資とは、古いものから得られる収益を新しいものに投資することであって、古い事業を継続しながら、その収益を新しい事業に投資することとは、集中投資による時間の短縮と、退路を断つことによる経営規律とにおいて、決定的に異なる。

この違いは非常に重要で、退路を断つことは新規創造を速める方向への誘因として働くことに意味があるのだから、要は、時間に帰着するわけだが、時間の速さこそが変革の決定的成功要因であることについては、論を待たないわけである。

つまり、古いものの収益力に依存し、その衰退速度に合わせて新しいものに投資していたのでは、新しいものの創造はできないのみならず、むしろ逆に、古いものの衰退を遅らせ、新しいものの創造を自ら阻む方向にすら、誘因が働きかねないのである。そして、まさに、ここに日本企業のおかれた深刻な状況があるわけだ。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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