「ワクチンを打つと自閉症のリスクが増す」「このサプリメントを摂取すると・・・・などの有害事象が起こる」「産業廃液で健康被害が出た」などの訴訟の種が尽きない。紅麹の被害でも、どこまでがこのサプリメントの影響であるのかどうかの線引きが難しい案件も出てくるであろう。
紛争や裁判に際して引っ張り出される医学・科学専門家のリスクと報酬についての記事が3月1日号のScience誌に掲載されていた。「Taking The Stand:For scientists, going to court as an expert witness brings risks and rewards」(裁判の証人に立つことのリスクと報酬)と「A witness, then a target」(証人から標的へ)である。
科学者が被害者側に立って証言すると、原告側は大きな賠償金(補償金)を回避するために、証言を科学的に否定するだけでなく、証人の人格攻撃までしてくることはよくある。私もかつてバイオプシー標本の取り違えについてDNA鑑定をして証言することを依頼されたことがあるが、DNA鑑定そのものへの疑義が出ていた時代であったのでお断りしたことがある。
紅麹でさえ、当初の報告から3か月以上経つ今でも、青カビが混入したのが原因なのか、そうだとするといつどこでどのように混入したのかさえ明らかになっていない。古くは水俣病やイタイイタイ病でも、原因が明らかになるまで、年単位の日時が必要とされた。
正義のために戦うといっても、時にはお金や権力で「黒を白にしよう」とする人たちとの戦いは、容易ではない。純粋な科学の問題のはずなのに、感情や人間の欲得が絡んでくると、竹を割ったようにすっきりとはいかないものである。
「A witness, then a target」(証人から標的へ)では証人として頻回に証言していた研究者が、大学から突然辞職を迫られた話が綴られていた。どこかからの告発に端を発するものだが、調査の結果、悪意に満ちた真実を捻じ曲げた告発であることが明らかになり、一件落着するのだが、人の悪意はどこに潜んでいるのかわからないので怖い。
「バカにバカと言う」と、パワハラと言われる時代を生き抜くのは昭和人間には難しい。報道される案件でも、年配者は「時代錯誤の人」とか「時代の潮流をわかっていない人」という烙印を押されている。
テレビで常に多様性を強調している若いコメンテーターが、年配の考えを多様性以下の価値観で切り捨てると強い違和感を覚えるのは私だけなのか? 二階・元幹事長の「お前もその歳くるんだよ。バカヤロー」にどことなく共感を覚えてしまった自分が怖い!
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年4月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。