安モノ輸出で気を吐くも青色吐息が本音の中国経済

岡本 裕明

一時Shein(シーイン)が日本で大きな話題になったことがあります。中国発の超安売りEコマースは確かに安かれ悪かれの商品もありますが、私は試しで20アイテムぐらい購入したのですが、靴下などは悪くないと思います。それを上回る勢いなのがTemu(ティームー)で私のスマホにはアプリをダウンロードしてあり、商品はチェックしています。

同社は今年のアメリカ最大のスポーツエンタテイメント、スーパーボールで6回のCMを流したことでも話題になっています。1回当たり10億円のCM料とされるので60億円を打ち上げ花火のように使い切ったわけです。同社の商品はシーインと大差ないので買ってはいませんが、同じようなものでしょう。

両社の違いはシーインの本社がシンガポール、ティームーの本社がアイルランドである点です。つまり、一見、両社とも中国企業ではないように見えるけれど実際はバリバリの中国企業であります。

中国のごまかし戦略でもう一つ身近なのが名創優品(メイソウ)でしょう。この会社は私の理解が正しければ2013年に日本で産声を上げた中国系怪しい店の代表格。店の看板には「メイソウ」とカタカナで表記され、店に入れば100均ではないけれど様々な安い商品を所狭しと並べているそんな店です。わかりやすく表現すると メイソウ=(無印+100均)÷2x品質係数50% といったところでしょう。

この会社のスタートは散々で倒産寸前までいった記憶があります。その後、多店舗展開が軌道に乗り、23年末で6413店舗となっており、23年は1年で973店舗新規開店しています。破竹といってよいでしょう。

日本では批判の嵐で全店舗閉鎖していると理解しています。つまり日本人の目はごまかせないけれど諸外国では喜んで買っている人がいるということです。ちなみに中国国内の店舗展開が3926店、海外が2487店です。批判はしたいけれど10年でこれだけ成長していることも事実としては凄すぎるのです。

私は同社のたくましい出店実績に日本の100均はなぜ積極展開しないのか不思議なのです。一方、カナダにもある無印は正直失敗に見えます。メッセージ性がなくカナダ人に訴えるものがないのです。

イエレン財務長官が中国に行きました。目的の一つは工業生産能力の増強が酷すぎるので一定のコントロールを求めているようです。平たく言えば、「オタクが需要を無視して無限の供給をするから世界経済にひずみが出ている。もっと政府がコントロールしてよ」であります。

考えてみれば中国の最大の問題とされる不動産も作りすぎたし、太陽光パネルは先日政治問題にもなりそうだったし、EV自動車メーカーは中国だけで100社を超えるとされ、激しい品質と価格競争が繰り広げられています。テスラはその中でさすが勝ち目がなくなってきた、というのが私の見立てです。

中国にも紀元前に戦国時代がありました。一旗揚げたいと思う人はたくさんいるわけです。中国は民族も多く、広い国土をベースとするため、一枚岩にはなりにくく、はやりそうなビジネスを見つけると参入者が後を絶たず、無謀な生産計画で体力競争をしている、そんな国民性に見えます。

例えば香港が英国の統治下にあった97年までは狭いエリアを最大限活用して世界の注目を集めることができたのにそれが中国本土との融合で香港の得手とする分野が薄まってしまったという見方もできるでしょう。

李強氏と習近平氏は経済を立て直せるか 共産党新聞より

ではイエレン財務長官の「お願い」に対して中国が「はい、わかりました」というとは思えません。今後も引き続き安い商品を爆発的に作り、世界の経済構造を根底から揺るがすことになるはずです。ではトランプ氏が大統領になればシーインやティームー、メイソウをシャットアウトできるか、といえばそれは相当難しいとみています。なぜならそれらは低額商品ばかりで個人が直接買い付ける自由度を国家が規制するのは自由民主主義の根本を揺るがすからです。

私は中国経済は日本の1990年代の状況にあるとみています。つまり、バブルの崩壊後、ドラスティックな対策を政府が取らなかったため、その処理に10数年を要し、その後、デフレがさらに10数年続くというシナリオです。日本が未曽有の経済的苦しみをした理由の一つに破綻処理に時間が掛かりすぎてその間に世代交代が起き、新しい世代が繁栄の時代を知らぬまま反旗をあげることができなかったことはあるとみています。

中国の問題は一人っ子政策が長く、親が子を手塩にかけて育てたのはいいけれど成功者の子供は使い物にならないボンボンばかり。一方の農村出身者などは貧乏に拍車をかけてしまい、中国14億人の経済の牽引役がいないという点ではないでしょうか?

そのうえ、中国政府は西側諸国から様々な経済制裁と規制を受けており、中国の優位性はハイテクや自動車が育つ前に芽を摘み取られ、結局100均商品のようなシーイン、ティームー、メイソウが花を咲かせるという経済の逆行が見られるとも言えます。

以前にも申し上げたように今の中国政府には巨額の債務を抱える一連の不動産会社を潰す勇気はないと思います。「大きくて潰せない」は90年代によくささやかれた言葉ですが、今の中国政府の状況そのものであります。おまけに中国共産党にとって住宅不況は高騰した住宅価格を引き下げ、民により多くの住宅取得のチャンスを与えることができると考えれてしまえば放置しても政府はともかく、党としては痛くもかゆくもないという考え方もできなくはないのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月11日の記事より転載させていただきました。