エクアドル警察のメキシコ大使館突入:亡命を求める元副大統領の拘束劇

エクアドル警察が在メキシコ大使館に突入は正当な理由があった

4月6日、エクアドルの警察は首都キトにある在メキシコ大使館に突入して、亡命を求めていた元副大統領ホルヘ・グラス氏を拘束した。彼は収賄罪で収監されていたが、麻薬組織が支払った保釈金で一時的に釈放されていた。しかし、彼はそれ以外に公的資金の横領という理由からも起訴されていた。

その彼が保釈中の身分を利用して、昨年12月17日に首都キトのメキシコ大使館に亡命を求めて入館したのである。

エクアドル政府は同大使館に彼は犯罪者であり、また別の犯罪で公判中であるという理由から身柄の引き渡しか、或いはエクアドルの警察が彼を拘束するという目的で入館の許可を求めていた。が、メキシコ大使館は最終的に彼の亡命を認めた。

メキシコのロペス・オブラドール大統領はこれまでもエクアドルのラファエル・コレア元大統領の政権下にあった閣僚や議員の亡命を受け入れて来た経緯がある。だから、今回も同じくラファエル・コレア元大統領政権下の元副大統領ホルヘ・グラス氏の亡命を受け入れるのは当然の成り行きであった。

それに対して、エクアドル政府は先ず同大使館のラクエル・セルル大使を「ペルソナ・ノン・グラタ」だとしてエクアドルからの退去を命じた。

それに応えて、メキシコのロペス・オブラドール大統領は軍用機をキトに向かわせ、同大使を帰国させる手配をした。

この時点でエクアドル政府は急遽警察を突入させる決定をしたようだ。なぜなら、セルル大使を迎えに行く軍用機にホルヘ・グラス氏も同乗させる可能性があるとエクアドル政府は判断したからである。

犯罪者の大使館入館受け入れは違法

外国公館に受入国が侵入することは固く禁止されている。だから今回のエクアドル警察のメキシコ大使館への突入に各国から強い批判が集まった。

ところが、該当する公館が法的に犯罪者、或いはその公判中である人物の亡命を認めることも違法である。しかも、ホルヘ・グラス氏は政治犯ではない。エクアドル政府から政治的に弾圧を受けているわけでもない。だからメキシコ大使館は、本来であれば彼の亡命を受け入れるべきではない。

メキシコ大統領の的はずれの判断

彼の公判がおこなわれている理由は、2016年にエクアドルで発生した大地震による復興資金16億1400万ドルの内の少なくとも3億6800万ドルを彼とその仲間が横領したことが判明しているからである。(4月6日付「Expansión」から引用)。

今回のメキシコのロペス・オブラドール大統領が彼の亡命を受け入れた理由として、エクアドルの先の大統領選挙で候補者の一人が暗殺され、しかも、当選が確実とされていたルイサ・ゴンサレス氏がメディアの歪んだ報道のせいで負けた。その恩恵を受けて大統領になったのがダニエル・ノボア氏だと非難したのである。

候補者だったルイサ・ゴンサレス氏はラファエル・コレア元大統領の分身と言われていた人物だ。だから、ロペス・オブラドール大統領にとって、コレア元大統領が推していたルイサ・ゴンサレス氏が勝利しなかったことを受け入れることができないのである。

 ロペス・オブラドール大統領は独裁者に協力的

ここで一つ明確にしておかねばならないのは、ロペス・オンブラドール大統領が指摘した暗殺された候補者というのは、地元ギャングのロス・チョネロスの犯行であるというのは明白になっている。

このギャングを操っているのはメキシコ麻薬組織ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンであるということをロペス・オブラドール大統領は知らないはずがない。即ち、ロペス・オブラドール大統領の麻薬組織への取り締まりが不十分であるというのが間接的に今回の大統領候補者が暗殺されたことに繋がっているのである。

ロペス・オブラドール大統領というのは問題のある大統領で、メキシコが80年振りに生んだ左派系の大統領である。彼はベネズエラやキューバの独裁者に対して比較的に好意的だ。更に、ボリビアのエボ・モラレス元大統領や上述したラファエル・コレア元大統領も親交が深く一時的に受け入れた。コレア氏は現在ベルギーに亡命中だ。帰国すれば収賄増などで公判が待っているからである。

またその一方で、メキシコから米国に密入国する不法移民を取り締まることにはロペス・オブラドール大統領は非協力的である。その理由として米国は中米にもっと積極的に投資が少ないというのが理由だ。だから、中米から不法移民が米国に向かうのだとしている。

なお本題からさらに逸れるが、ロペス・オブラドール氏はスペインがメキシコへの侵略者であるとして機会ある度にスペイン政府に謝罪を求めている。しかし、彼もスペインの血を引いているということは忘れているようである。

 エクアドルは現在最も危険な国の一つに変身している

エクアドルはラテンアメリカの中で比較的安全な国であった。ところが、この4〜5年の間にメキシコとブラジルの麻薬組織が勢力を張るようになり、彼らの下請け的な地元のギャングが横行するようになっている。その影響で犯罪が急激に増加している国である。

その元凶のもとになったのがラファエル・コレア政権下で、ベネズエラのチャベス政権と強い関係を結ぶようになり、麻薬の取り締まりなどを行っていた米軍基地を撤去させた。それ以後、容易に麻薬組織がエクアドルに侵入するようになったのである。