米大統領選の行方を握る“宗教票”

米国で今年11月、大統領選挙が実施される。現時点では、民主党から現職のバイデン大統領、共和党からはホワイトハウスのカムバックを目指すトランプ前大統領が競っている。4年前の大統領選の再現だ。

選挙集会で3000万人以上のアメリカ人に学生債務を軽減する新たな計画を説明するバイデン大統領(2024年4月8日、ホワイトハウス公式サイトから)

既成のキリスト教会離れが進む欧州の選挙戦とは異なり、米国では宗教票が依然大きな影響を持っている。候補者が如何に多くの宗教票を獲得するかで、その当落が決定するといわれている。それだけに、バイデン氏もトランプ氏も米福音派教会や米カトリック教会の信者たちに対し熱心に自身の公約を売り込む選挙戦を展開している。

米国最大の宗教コミュニティーのカトリック教会は信者数(成人会員)約5200万人を抱えているが、その数は次第に減少している。2007年には米国人のほぼ4人に1人がカトリック教徒だったが、有名なピュー・リサーチ・センター(ピュー研究所)の最新調査によると、現在は5人に1人に過ぎない。

以下、バチカンニュース(独語版)14日付に配信された「米国のカトリック教会の信者動向」を報告する。

4年前の大統領選ではカトリック教徒の票はドナルド・トランプ氏(49%)とジョー・バイデン氏(50%)にほぼ二分したが、そのバランスは共和党に有利に変化してきている。有権者登録をしているカトリック教徒の52%は現在トランプ氏の共和党を支持し、44%は民主党支持に傾いている。

注意しなければならない点は、カトリック教徒を一つの支持層と受け取ることはできないことだ。例えば、白人カトリック教徒とヒスパニック系カトリック教徒では世界観や政治信条は大きく異なるからだ。白人の10人中6人が共和党寄りだが、同じ割合のラテン系アメリカ人は民主党に共感している、といった具合だ。

前回の大統領選でも明らかだった。白人のカトリック系はバイデン氏(カトリック教徒)よりもトランプ大統領を15%多く支持した。一方、ヒスパニック系カトリック教徒は35%の差で民主党を支持した。

信仰コミュニティー内の人口動態の変化を見ると、米国全体の人口と同様に白人の割合は減少傾向にあり、対照的にヒスパニック系とアジア系のカトリック教徒の数は増加し続けている。2007年と比較すると、カトリック教徒に占める白人の割合は8ポイント減少し、現在はわずか57%だ。これに対し、ラテン系アメリカ人は4ポイント増加して33%となっている。米国のカトリック教徒に占めるアジア人の割合は、同じ期間に2%から4%に倍増した。

カトリック教徒の平均年齢は他の社会よりも高い。58%は50歳以上だ。この年齢層に属する人は総人口のうち48%と大幅に少ない。教会に所属する50歳未満のカトリック教徒の57%はラテン系が大部分を占めている。50歳以上の人のうち、ほぼ70%が白人だ。

地域によっても変化がある。米国南部におけるカトリック教徒の増加(国内のカトリック教徒全体のほぼ30%が住んでいる)は、ヒスパニック系人口の増加によって説明される。そして今日の米国西部では、カトリック教徒の2人に1人以上(55%)がラテン系アメリカ人だ。

また、教育水準でも違いがある。統計によると、白人のカトリック教徒(39%)は米国人口全体と比較してかなり高い教育を受けている。米国の全カトリック教徒と比較すると、大学の学位を持っているカトリック・ヒスパニックはその半分(16%)に過ぎない。

宗教的実践にも違いがある。米国のカトリック教徒全体の4分の1強(28%)は日曜のミサに出席する。約2人に1人(52%)が毎日祈っている。46%は「宗教が自分の人生において意味がある」と考えている。フランシスコ教皇の支持率は75%で、前任者のベネディクト16世の値をわずかに上回っているが、前任者のヨハネ・パウロ2世(93%)とは20ポイント近くの差がある。

中絶問題に関しては、ピュー・リサーチ・センターの調査は以前の調査結果を裏付けている。すなわち、カトリック教徒の態度は一般の平均的なアメリカ人の態度とほとんど変わらない。米国の教会は中絶との戦いを最優先課題としているが、信者の約60%はほとんどの状況下で中絶への合法的なアクセスを支持している。中絶の禁止令や厳格な期限制限は18の州に存在しており、カトリック教徒の28%が支持している。

ちなみに、当コラム欄で「欧州人が理解できなない『トランプ人気』」(2024年3月16日)を書いた。欧州人はトランプ氏が4件の刑事裁判のほか、数多くの民事裁判を控えているにもかかわらず、11月の大統領選で再選される可能性があるという米国の現実に首を傾げているのだ。

トランプ人気を理解する上で興味深い点は、米国福音派(プロテスタント)の対応だ。彼らはトランプ氏を熱烈に応援している。トランプ氏が中絶に厳格に反対し、イスラエルの米大使館をエルサレムに移転させたことを評価し、「トランプ氏は神が遣わした大統領」と称賛しているほどだ。トランプ氏は1月末、支持者にビデオを送り、そこで「私は神が遣わした者だ」と宣言している(独週刊誌シュピーゲル2024年3月9日参考)。

カトリック教徒や米福音派信者たちの宗教票の動向は第47代大統領選の行方に大きな影響を与えるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。