イスラエル戦時内閣は16日、同国を無人機やミサイルなどで集中攻撃したイランへの対応について協議し、「強硬な報復攻撃をする」ことでほぼ一致、その時期、規模などについては明らかにしなった。協議は17日も継続される。
イランの13日夜から14日にかけての攻撃に対し、イスラエル側の被害はほとんどなかった。イスラエルが世界に誇る防空システムのおかげで約300機の無人機、ミサイルをほぼ全て撃墜、1人の少女が負傷しただけに留まったことから、イスラエル側が大規模な報復攻撃は控え、軍事基地や石油生産拠点への限定攻撃に留まるのではないか、という憶測がある一方、「イランの13日の攻撃を受け、イラン国内の核関連施設への攻撃を実施する可能性がある」という情報も聞かれる。
ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は16日、「イランの核関連施設への如何なる破壊行動も危険だ」と警告を発している。ちなみに、イランは2015年7月、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と核合意を締結し、イランの核開発計画はあくまでも核エネルギーの平和利用と主張してきた。しかし、トランプ米前政権が2018年5月、イランが核合意の背後で核開発を続行しているとして核合意から離脱後、イランは順次に核合意の合意内容を破棄し、IAEAの査察活動を制限する一方、ウラン濃縮活動を加速し、高濃度ウランの増産を進めている。例えば、2023年1月、濃縮ウラン83.7%の痕跡がイラン中部フォルドーの地下ウラン濃縮施設の検査中に発見されている。イラン当局は当時、IAEAに対し、「非常に高いレベルの濃縮は意図しない変動で生じたもの」と弁明してきた(「イラン『濃縮ウラン83.7%』の波紋」2023年3月2日参考)
イランの核兵器製造を最も恐れているのはイスラエルだ。2002年、イランの秘密核開発計画が暴露されて以来、イスラエルは核関連施設へのサイバー攻撃を実施する一方、核開発計画に関与する核物理学者を暗殺してきた。
例えば、2010年、「スタックスネット」と呼ばれる、米国とイスラエルが共同開発したコンピュータウイルスが、イランのナタンズのウラン濃縮施設を攻撃した。同サイバー攻撃でイランのウラン濃縮活動は数年間遅れたといわれた。また、2012年にはイランの核科学者、モスタファ・アフマディ=ロシャン氏が、テヘランで車に取り付けられた爆弾で殺害された。また、イラン核計画の中心的人物、核物理学者モフセン・ファクリザデ氏が同じように暗殺された。イラン当局はイスラエル側の仕業と受け取っている(「『イラン核物理学者暗殺事件』の背景」2020年11月29日参考)。
イスラエルのイラン核関連施設への攻撃を恐れ、イランはナタンツのウラン濃縮関連施設を地下深い場所に移動し、今日まで活動を継続している。イランの核開発計画を外交交渉で解決する道はもはや難しくなってきている。このままいくとイランは近い将来、核兵器を製造し、世界で10番目の核兵器保有国に入るのは時間の問題だ。
イランが核兵器を所持すれば、イランが軍事支援するパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織「ハマス」、レバノンのイスラム根本主義組織「ヒズボラ」、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派などに核拡散する危険が高まる。イスラエルは国の安全を脅かすイランの核兵器の開発を阻止しなければならないわけだ(イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破した)。
ちなみに、米空軍は2021年7月23日、新しい「バンカーバスター」のGBU-72Advanced5KPenetratorのテストを実施し、成功した。同バンカー・バスターは5000ポンド(約2.27トン)の爆弾でイランの地下核施設を破壊する威力を有している。GBU-72は戦闘機または重爆撃機によって運ばれるように設計されている。
イスラエルは2009年、米国から小型のバンカーバスター爆弾GBU-28を密かに購入したが、山の奥深くに埋もれているイランのフォルドウ核施設を貫通する能力はないと受け取られてきた。そこでイスラエル側は米国から「バンカーバスター(GBU-72)」を購入したのではないか(「イスラエルのイラン核施設爆破計画」2021年10月23日参考)。
すなわち、イスラエル側はイランの核関連施設爆破計画を作成済みとみて間違いないだろう。イスラエルがイラン本土を空爆し、核関連施設を爆破した場合、イラン側の報復テロ、国際社会の批判が高まることは必至だ。しかし、イランがイスラエル領土に無人機、ミサイルなどを発射したばかりだ。イスラエル側は自衛権の行使としてイランへ報復攻撃できるチャンスでもある。イスラエルの「イラン核関連施設破壊Xデー」は非常に現実的なシナリオだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。