4月19日に文部科学省の中教審が、教員給与の上乗せ分を10%以上に引き上げる素案を提出しました。
教員給与上乗せ 10%以上に引き上げの素案 中教審部会が提出
一般市民からすれば、「少しは教員の待遇改善ができたのではないか?」と思われるかもしれませんが、当事者である教員の多くはほとんど評価していません。筆者も同感なのですが、いくら給与を引き上げたところで教員の働き方自体が改善されるとは到底思えないからです。
筆者は40年以上学校教育に携わり、現場を熟知している人間の一人として、これまで何度も独自の発信方法で「教員の働き方改革」について提言してまいりましたが、文科省をはじめ国の教育行政を動かすにはあまりにも力不足でした。
今回の中教審の「給与上乗せ10%案」に関しては、筆者よりもはるかに発言力・影響力のある教員・教育評論家の方々が、それぞれ問題点を的確に指摘されていますので、筆者はあくまでも現場教師の目線で、この素案の問題点を指摘したいと思います。
一言でいってしまえば、文科省や有識者は“教師の本質”がわかっていないのではないか? と思うのです。
教師はお金を稼ぐために遅くまで働くわけではありません。子供が好きであり、子供を育て成長させることに生きがいを感じ、時間を惜しまず働くのです。ですから給与をアップしてもしなくても大半の教員は変わらずしっかり職務をこなします。
むしろ給与を10%アップすることで、一部ではありますが無気力でたいして仕事をせず、いつも定時で帰るような教員を喜ばせてしまうことが危惧されます。特に公立学校の教員は公務員ですので、問題のある教員であっても簡単に減給や免職ができません。
しかも教員は人(児童生徒・保護者)相手ですので、仕事がいい加減で評判の悪い教師を無理にポストに就けると、結果的に不祥事・クレームが増えてしまい、ひいては学校の信用失墜につながります。ですから管理職は、どうしても信頼があり仕事のできる教員に掛け持ちで職務をお願いしがちなのです。
このように給与に10%上乗せしても費用対効果がほとんどないどころか、かえって学校内で教員の校務に偏りが生じ、真面目に頑張る先生ほどさらに業務が増えることでバーンアウトするリスクが高まってしまうのです。
過去の提言の繰り返しになりますが、給与を上げることより先に、際限なく膨れ上がった職務・校務の徹底した精選・そぎ落としを行ったうえで給特法を廃止し、それに合わせて残業の上限を明確に定め、残業手当を支給すべきだと思います。
今回の中教審の素案の中で、“学級担任手当”など職務給を増やす「加点法」の考え方は一応評価できますが、一部のお荷物教員を助けるような一律のベースアップとの組み合わせではなく、基本給は据え置きであっても、頑張った人が正当に評価されるような職務給(もちろん職務[給]に対するフィードバックは必要ですが)であるべきです。
部活動については「地域移行」の流れではありますが、地方を中心にまだまだ問題は山積みであり、部活指導は正式な職務ではないが校務に付随するような中途半端な位置づけがしばらく続くと予想されますから、特殊勤務手当の引き上げとともに、休日勤務の振り替え休日取得がスタンダードになるような教員の増員が必要でしょう。
給特法を廃止すべき理由と「教員が担う職務」の線引き・規定の詳細については、筆者の過去の提言も参考にしてください。
いずれにしましても文科省・中教審の方々は、もっと学校現場にこまめに足を運び、教員の勤務の実態をつぶさに観察、実態把握をしたうえで、有効性のある「教員働き方改革」を提示してほしいものです。