キャットフードの「ちゅーる」で世界的に有名な「いなば食品」が、内定者に対するパワープレイっぷりで話題となっています。
【参考リンク】いなば食品、入社辞退者が憤る内定後の『一般職採用です』告知「ボロ家」よりも許せなかったこと NEWSポストセブン
どんなことをやったのかというと、報じられているものだけでも
- 募集要項で釣っておいて入社後に給料3万円ダウン
- オフィス勤務で釣っておいて工場勤務
- 新築の寮で釣っておいて雨漏りのするボロ屋で共同生活
他にも、一連の報道をきっかけとして「オーナー一族への私的奉仕が常態化」「退職時に同業への転職禁止と違反時の“罰金”誓約」等、悪行の数々が雨後の筍のごとくにわきでています。
【参考リンク】いなば食品の闇情報が続々…「理由不明の有休は欠勤」「退職証明を出さない」
まあいつも言っているようにこの手の話は双方の言い分を聞いたうえでないと冷静な判断は難しいんですが「貴重な新卒カードを投げ捨ててまで一般職入社の9割が辞退」というのは事実なわけです。
少なくとも報道ベースのものは事実でしょうね。
それにしても、いなば食品がここまで衆目を集めてしまったのはなぜでしょうか。また、ビジネスパーソンはこういう企業風土の組織とどう向き合っていくべきなんでしょうか。
いい機会なのでまとめておきましょう。
いなばが燃えやすかった背景
本件が文春砲を連射でもらうほどバリューを持ってしまったのは、以下の理由でしょう。
・ちゅーる作っている大企業だったから
はっきりいうと、中小企業(特に地方の)だったら「寮が雨漏りするほど古い」「オーナー一族の召使も兼務」みたいな話は普通にあります。
筆者自身、寮があるって話で求職者集めといて「お前が偉くなったら自分で作っていいよって意味だよ」って言ってる会社をリアルで知ってますね(苦笑)
でも全然ニュースにもなりませんよね。なぜか?中小企業だからです。
中小企業が終身雇用や労基法をきっちり守れてはいないことくらいみんなわかってます。大手なのにコンプラが守れていないからこそニュースバリューがあるんです。
大体、ブラック企業ぶりを報じたいなら、中小企業しかない出版業界を報じればいいじゃないですか。週刊誌編集部なんてどこも100%ブラックじゃないですか(苦笑)
でもそんなの誰も読まないですから。
あとイメージでいうと、誰でも知っているコンシューマー向けの大手というのも可燃性高かったですね。
ゴールデンで可愛い猫ちゃんのCMバンバン流してる会社が裏でこんなことやってるなんて!という流れです。
・よりによって一般職採用の人間がターゲットだったから
一般職採用枠というのは簡単に言うと「全国転勤や残業といった滅私奉公が限定される代わりに出世昇給も制限されるコース」ですね。
転勤徹夜上等でぶっ倒れるまで奉公する前提の総合職はあまりに女性不利なので、主に女性向きに設置されているコースです(表向き女性用とは言われませんが)。
要するに、滅私奉公というブラック要素の無い安全領域みたいなものなんですね一般職というのは。
以前から言っているように、ブラック要素というのは終身雇用の副産物なので、程度の違いこそあれ日本企業はどこも必ずブラック要素はあるものです。
一時期ブラックの代表みたいに言われていた電通なんて、業界最大手で国内トップレベルの賃金水準の就活人気企業ですから。
でも、一般職採用の人間にはどこの企業も気を使いますね。
だって最初から出世がない代わりに滅私奉公もない約束で採用しているようなものだから。
今回、同社は「給料」「新築の寮」「オフィス勤務」などいろんな撒き餌で人材を釣ってたようですが、個人的に一番すごいのは「一般職で釣って滅私奉公させる」という撒き餌ではなかろうかと感じていますね。
これ逆に産業用機械とか作ってる汗臭そうな大手メーカーで、一般職じゃなくて総合職採用の人たちがターゲットだったら全然炎上はしてなかった気がしますね。
「総合職で採ってもらった以上、ボロ屋でもなんでも屋根があるだけまし」とか
「最初の一年くらいは人手不足の工場のラインに立たせてもらい、モノづくりの原点を叩きこまれるべき」
みたいな流れになって、
結論:「最近のZ世代は根性無し」
みたいに、下手したら逃げ出した側が叩かれる逆炎上パターンになってたような気もします。
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以降、
- いなば食品に学ぶ「Z世代に絶対にやってはいけないこと」
- 「会社は家族」は単にマネジメント不足な経営陣の言い訳
※詳細はメルマガにて(夜間飛行)
Q:「中途採用が主流になれば労働市場流動化は実現する?」
→A:「筆者も解雇規制の緩和は無理に強行しなくても、という印象です」
Q:「組織と交渉するにあたって注意点は?」
→A:「企業間でもそうですが、会社との交渉ではなによりファクトが重要ですね」
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