日本経済は八方塞がりで身動きに苦しむ

「新しい資本主義」は空念仏

円安が止まらず25日、1㌦=155円台後半にまで下落、株価も3万8000円割れの大幅安になりました。日銀が25、26日の金融政策会合で0.25%程度、緊急に金利を引き上げ、財務省が為替介入(円買い・ドル売り)すれば、一時的に円安は止まるとしても、その効果は限定的でしょう。

あまりにも長期にわたる金融緩和・財政拡充策の負の遺産が響き、日本経済が「あちらを立てれば、こちらが立たず」の泥沼状態に陥ってしまい、思い切った手を打てないのです。

日米金利格差は4%程度、ありますし、日銀が年内に0.25%引き上げを4回、やったとしても、合計1%に過ぎません。さらに、このところの円安は国際的なドル独歩高の一環のようで、日本だけがもがいても限界があります。米国の景気が強く金利下げが遠のいたことに加え、国際情勢の緊迫化がドルの独歩高を生んでいる。

このような状況の中で、麻生副総理が訪米し、ニューヨークでトランプ前大統領と会談しました。4つの刑事事件の被告の身であるとはいえ、11月の大統領選でトランプ氏が勝つ可能性があり、それに備えた訪問も外交上、必要と考えた麻生氏側は「会談は大成功だった」と自賛しています。

そのトランプ氏は、麻生氏の訪米直前に、きついパンチを見舞っています。23日に「円安は大惨事だ。製造業が競争できず、多くのビジネスを失う。バイデンは日本、中国の通貨安を放置している」と、発言しました。「円安は大惨事」と言われて、日本はどうするのか。

「大惨事」と罵倒されても、日本側が打てる手は、多少の金利引き上げ、一時的効果しか期待できない円買い介入しかなく、八方塞がりです。利上げを続けていけば、大量の国債発行がいまだに続いている利払い費(国債費)が急増します。異次元金融緩和・財政拡張政策のツケです。

麻生氏はトランプ氏に「防衛費を大幅に増やす岸田政権の取り組みを伝えた」と報道されています。円ベースの防衛予算は増えるでしょう(5年で倍増)。相当な部分が米国からの武器、兵器の購入費に使われ、米国もそれを期待しているでしょう。

5か年計画の最終年度の27年度には、GDP比2%に倍増し、年11兆円になります。この円安で米国製兵器の価格が急激に値上がりし、円ベースの予算を組み替えないと、米側は納得しないかもしれません。円安の影響はこんなところにもでてくるのです。

トランプ氏は、米国製造業の象徴的存在であるUSスチールを日鉄が買収しようとしている案件についても、先月「私は即座に阻止する」と断言しています。大統領選のカギを握っているラストベルト(ざびついた工業地帯)への配慮を最優先させる意向です。バイデン氏も同調しています。

麻生氏はトランプ氏にどう説明したのでしょうか。日鉄の経営陣は昨年末、USスチールの買収を発表しました。政治問題化しやすいこの時期をなんでまた選んだ政治的鈍感さには驚かされます。

日経新聞は「日米鉄鋼再編を政治化するな」(社説、3月)を書き、「政治が正当な理由もなく民間企業の経営に介入してはならない」と主張しました。今は、経済の政治化、政治経済化が進んでいる時代です。「経済が政治化しやすい大統領選直前のタイミングをなぜ選んだのか」と逆の主張をすべき時なのです。買収が失敗したら日鉄社長は辞任ものです。

IMF(国際通貨基金)は、「インドの名目GDPは2025年に4兆3400億㌦となり、4兆3100億㌦の日本を抜き、世界4位に浮上する」と、発表しました。急速な円安で日本は23年にドイツに抜かれ、25年にインドに抜かれ、5位に後退する。

アベノミクスの中核であった異次元金融緩和・財政拡張策の大きな狙いは円安誘導にあったと今や、見抜かれています。それにもかかわらず、アベノミクス批判に尻込みするエコノミスト、政治家が少なくない。「デフレ脱却」の看板を掲げて、招いたものは「国際的地位の下落」でした。

岸田首相は政権発足時に、アベノミクス批判の高まりを見越して、「新しい資本主義」というスローガンを持ち出しました。成果らしい成果を生まないまま、民間識者らによる「人口戦略会議」(議長=三村明夫・日鉄名誉会長)は25日「全国の4割以上に当たる744自治体が若年女性の大幅な減少に伴って、将来的に消滅する可能性がある」との報告書を公表しました。

新しい資本主義実現本部事務局設置にかかる看板掛けを行う岸田首相(令和3年10月) 首相官邸HPより

アベノミクスにせよ、新しい資本主義にせよ、政治は国の基本的な骨格作りに成功していません。「日米同盟の再確認」にトランプ氏を訪問した麻生氏は「円安は大惨事」、「USスチール買収は阻止」に対してどのような構想もって臨むのでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。