QT予想ハズレ。為替は何処に?:円安容認と受け止められた植田総裁

宮澤博行氏の潔い議員辞職。その行為はともかく、記事が出る前に「記憶にございます」と述べ、比例代表で当選した者として席を自民党にお返しするのが当然と理路整然と説明し、あまりにも早い決断に「ほう、別の意味で清廉潔白だな」と思ったのは私だけでしょうか?国会では蓮舫議員が吠えていましたが、人間はロボットではないので、失敗を繰り返して成長するものです。誰にも表の顔と裏の顔があるわけでその奥底を探り出し「お前は悪い奴!」と切り捨ててしまう現代社会もちょっと紋切り型すぎる気もします。まぁ、私は優しいですからそんなことぐらいで人の黒白をつけたくないのです。

では今週のつぶやきをお送りいたします。

QT予想ハズレ。為替は何処に?

QT(Qantitative Tightening)、日銀が国債を買って大規模緩和策をとったのと逆で引き締めの意味です。大規模緩和をいまだにやっている世界主要国は日本だけで円安を加速させる理由になっているとされます。植田総裁は1週間ほど前、「円安が物価に影響するならそれは対策を考える」という趣旨を述べていたこと、今回のQTのうわさが日本時間の金曜日の夜半に時事通信から出たことを踏まえ、金融政策の趣旨は不変だが、QTへの言及をして物価への影響を最小限に食い止める策に出るとみていました。また3月の政策変更の際にも事前にリークさせ、市場にサプライズ感を与えないよう配慮したことを踏まえ、今回も同様に市場と事前対話をさせたとみていました。

しかし、実際の植田総裁のポジションは真逆に近かったと思います。「(円安が)基調的な物価上昇率に今のところ大きな影響を与えていない」と発言したことで円安容認と受け止められました。植田氏の一連の発言を通して明白な点は日銀の使命は物価と雇用であるというポジションです。企業経営者が「為替は安定すべき」と叫んだ時、それに呼応できるのは財務省なのです。実際に為替介入の権限は財務省の財務官が持っていて、日銀はその指示を受けて代行するわけです。ということは鈴木財務大臣や神田財務官が為替に対して懸念を示す一方で植田氏は「物価に深い影響がないし…」と言ってしまっては財務省と日銀でポジションに差異が生じているともいえるのです。

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財務省にとって為替の安定は重要な施策なのですが、財務省は為替介入以外に手段があまりないのです。一方日銀はいろいろ持っているのです。QEやQTはその一つだし、金利調整は最大の武器です。武器を持つ日銀が今は武器を使いたくないとし、武器がない財務省が「為替、どうするのよ」という話です。円安万歳とは輸出ドライブが効くという話なのですが、今の日本が目指すのは品質であって価格ではないのです。よって円安で輸出が促進される、あるいは利益が出やすいというのは発想として日本が汗をかかずに儲けられるストーリーになってしまうのです。これが私は嫌で嫌でたまらないわけです。悩ましいと思います。

消滅可能性自治体

民間団体の「人口戦略会議」が示す消滅可能自治体という言葉のインパクトは悪い影響をもたらすと思っています。発表団体からすると警鐘を促すことで対策をせよ、ということなのでしょうが、一市町村でできる対策は限られ、人口の流動は極めて大きなトレンドの中で起きるのです。よって「オタクの街、消滅するらしいね」といわれると「私も逃げようかな」と思ってしまうのはナチュラルな反応だと思います。10年前、東京23区で唯一名前の挙がった豊島区はその後、対策を打ち出し、今回のリストからは外れましたが、増えたのは外国人ばかりでブラックホール型自治体と称されています。

では成績優秀な自立持続可能性自治体はどんなところかといえばつくばみらい市、流山市、関西なら栗東市、人口流入が続く福岡にはたくさん自治体が入っていますし、熊本はTSMCの影響もあり増えています。これは2050年までの想定なのですが、私は異議があるのです。例えばつくばエキスプレスという秋葉原につながる比較的新しい路線ができた沿線の評価が高いのですが、これはかつてニュータウンブームがあった時と全く同じなのです。日本人は転勤以外、引っ越しのモチベーションが低いので25年後のそれらの街の平均年齢はスライドして上がってしまうのです。よって例えば流山市が2050年に受ける評価は全く違ったものになるはずです。

同様に熊本のTSMCは物珍しさもあるのです。半導体戦争の成り行きは誰もわからないし、台湾の会社が国際戦略の中でどう対応を変えるかわからない中で2050年の話はできないと思うのです。20‐30代の女性の減少率をベースにこの指標が出ているわけですが、もっと大きなピクチャーで考えて日本全国にいる若い女性が様々なトレンドが交錯する中、どこに向かうのかという大前提を提示せずに個別の市町村の勝ち負け的な発表ではこの調査の意味は半減すると思います。例えばかつて女性は地元を愛すとか親の面倒を見やすいそばに住むという習慣があったが、それが変わりつつあるといった着眼点でモノを論じるべきではないでしょうか?

ホンダのカナダ投資

当地の報道はこの2-3日、これでもちきりです。昨日の当地のトップ報道は演台に立つ三部敏宏社長の後ろにトルドー首相とオンタリオ州知事が立ち、ホンダの事業を国や州が全面的に支援するという極めて異例の持ち上げ方なのです。今回の話のキーは電池まで含めた一貫生産であり、カナダ側とすればホンダの英断に大喝采です。総額1兆7千億円ほどの投資になりますが、連邦政府、州政府がともに支援するのでホンダの実質投資額は1兆円強で収まるのではないかとみられています。併せて旭化成が電池のセパレーターを作る工場で2000億円程度の投資をするとされます。いくらEVとはいえ、Tierが多い業界ですから数多くの日本企業が関連投資をして進出してくるものと思われます。

ではホンダに勝算はあるのか、ですが、2028年稼働で年間24万台生産ですが、この程度の台数なら28年時点では需要は増えているはずなのであくまでも競争力ある車が供給されるという前提なら大丈夫だと思います。つまり昨今、EVからHVにトレンド替わりしているとされますが、それでもEVの売れ行きが止まったとか減少しているのではなく、しっかり増えているが、その増える率がHVに抜かれているというだけです。これはその時々の技術やマーケティングが左右するし、ホンダはここからアメリカ市場への輸出が主眼でしょうから問題はないと思います。

EVが普及するかは電池の性能と共にインフラの整備にかかってくると思うのですが、私が住むBC州ではインフラの普及でみるとチャージングステーションが5000か所あり、州政府は今年更に500か所増やすとしています。新設の住宅はすべてLevel2のチャージャーインフラ整備が条件であと5年もすれば全く困らない程度になるはずです。日本が現在17000か所程度で人口とその集積度を考えると人口5百万人強のBC州のインフラがいかに整備されているかお分かりいただけると思います。三部社長はEVを別会社にする構想もあると以前述べており、これは私が昔主張した経営戦略に合致します。他社が指をくわえてみているだけか、追随するのか、しっかり見ていきたいと思います。

後記
海の上に事務所を新設するための業者選定作業。慎重に複数業者と交渉中ですが、仕事を取りたいという熱意ある業者とやりたいならやってもいいぜという業者の姿勢の違いを見てしまい、見積価格を待つ身としても気持ちの乗り方は変わってしまいます。特殊な工事なので出来る業者は3-4つしかなく、私も選択肢が少ない中、どうやって好条件を引き出すか悩んでしまいます。日本のように競合がたくさんあってひしめく場合とカナダのように寡占の市場形態では価格設定は売り手市場になってしまい、事業の難しさを改めて感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月27日の記事より転載させていただきました。