真夏の夜、バンコクで聴いた「Hotel California」

藤澤 愼二

Aneese/iStock

44℃の熱波が襲うタイ

数日前、タイは44℃の熱波に襲われた。フィリピンでも150年ぶりの猛烈な暑さということで、体感温度が47℃の中、各地で学校が閉鎖されている。

例年、東南アジアでは今の季節が真夏であり、タイでも有名なソンクラン祭り(水かけ祭り)があるのだが、それにしても今年の夏は暑い。

実は昨日も暑くて、筆者は日中部屋から一歩も出なかったほどである。しかし、1日中家の中に閉じ籠っていても気が滅入るし、こんな暑い真夏の夜の楽しみ方は何といっても夜の街だ。

バンコクはゴーゴーバーやカラオケバーなどの風俗産業で知られているが、別にそれだけではない。巨大なショッピングモールが都内中心部にたくさんあり、涼しい中で買い物や食事、その他のアクティビティも楽しめる。

また、日中の暑さが和らいでほっとした頃、歓楽街に繰り出して生演奏のジャズやポップスを楽しむ観光客もたくさんいる。

そこで筆者もこの日は久しぶりにそういった歓楽街の一つ、ソイカウボーイに繰り出したのである。ここは草薙剛が主演のドラマ「嘘の戦争」の舞台にもなった有名な通りであり、通りに出て半裸で客の呼び込みをするゴーゴーガールにもみくちゃにされながら歩く楽しみもあるが、実は観光客に生演奏の音楽を楽しませるパブもある。

そこで今回は、日本人観光客のために風俗でなく音楽を聴きながら過ごすタイの真夏の夜の魅力について書いてみることにした。

ペニーブラック

その日はまず、世界各国の観光客が集まるプロンポンで友人と一杯やりながらゆっくり時間をかけて夕食を取った後、ショッピングモールが建ち並ぶスクムビット通りを歩いてソイカウボーイに向かったのである。

しかし、着いたのが午後8時前ということもあり、まだ人影は少なかった。もっとも、その方が店内が空いていて落ち着けるのでお勧めともいえるのだが、まずは久しぶりに音楽パブの「ペニーブラック」に入ってみた。

ここは筆者もコロナ前には時々来ていたものの、その後は足が遠のき、今回数年ぶりに来たのであるが、店内はコロナで閉店していた間にリノベーションされ、以前より随分居心地のいい店になっていた。

中では地元のバンドが生演奏しているのだが、主な客層が年齢でいえば50代から70代の外国人観光客ということもあり、懐かしい70年代から80年代の音楽をやっている。

そして、落ち着いた雰囲気の中でそんな音楽を聴いていると、筆者の好きなクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」が始まった。

そこで友人に、自分はあの頃はまだ高校生で、その後、大学生になって上京した年に世界的に大ヒットしたのがイーグルスのホテル・カリフォルニアだった、と思い出話をしたところ、その友人は立ち上がってバンドのところに行き、その曲をリクエストしてくれたのだった。

すると、ほどなくして「Hotel California」の演奏が始まったのである。筆者は1本100バーツ(400円)のシンハービールを飲みながら、目の前の生バンドが奏でる懐かしの名曲を堪能できたのであるが、こんな贅沢な夜の過ごし方は久しぶりであった。

カントリーロード

しばらくして、我々が次に移動したのが、通りを隔ててペニーブラックの対面にある「カントリーロード」だった。ここも同じような生バンドのパブだが、ペニーブラックと同様にコロナの間に内装がリノベーションされていた。

ところで、ここの音響機器はペニーブラックより数段いいものが設置されているようだった。バンコクには筆者も好きなジャズの生演奏で有名なパブ「サクソフォン」があるが、ここの音はサクソフォンと変わらないメリハリの効いたいい音だ。

バンド自体はどちらの店も時間帯で交代するので、「ペニーブラック」と「カントリーロード」のどちらのバンドがうまいというのはないと思うのだが、明らかに音がいいのはカントリーロードであり、じっくり音楽を楽しみたければこちらがお勧めだ。

もっとも、ここはちょっと音量が大きいので、友人と話がしたいという人は音を抑えたペニーブラックの方がお勧めだが…。

バンコクは東南アジアのエンタメスポット

ちなみに、カントリーロードに入ると、ここでも我々のようなロートルの観光客向けに「Just the two of us」や「My girl」といった懐かしい曲を演奏していたのだが、それならここでも「Hotel Carifornia」を、と友人がリクエストしたところ、このバンドも気さくに応じてくれ、再びあの名曲を聴くことができたのだった。

特に名手ジョーウォルシュの演奏で有名な美しいギターソロの場面は聞かせどころであり、そういう意味ではやはり高音質の機材を誇るカントリーロードの方がよかった。

しかも、この時のバンドのボーカルはアメリカ人だったようで、ペニーブラックのタイ人歌手が歌うのとはまた違って、ネイティブによる本物のホテル・カリフォルニアを堪能させてもらえた。

結局のところ、バンコクにはショッピングやレストランだけでなく、ライブ演奏、ニューハーフショー、そして有名な風俗産業とたくさんの娯楽があるが、特に暑い真夏の夜こそ、まさに東南アジア最高のエンタメスポットだと思うのである。