「三代目」の試練:日本社会の変遷と将来 --- 中村 哲也

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日本は今「三代目」の時代だ。

江戸時代の川柳「唐様で 売り家と書く 三代目」は、初代が築き上げた財産を、没落した三代目が売り払ってしまう様を詠んだものだ。

「唐様」がポイントで、この三代目が趣味人であることを隠喩している。

初代を戦後の高度成長期を支えた世代とし、一世代を30年間とすると、今の日本は、三代目の時代にあたる。

高度成長期から、安定成長期を経て、バブルの発生、崩壊、その後の失われた10年、20年、30年の経過は、初代が築き上げ、二代目が巡行速度に乗せ、三代目が停滞、没落するさまと似通っている。
今、日本で起きていることの多くは、「三代目の時代」ゆえに見える。

戦後の高度成長期をけん引した優良企業が、いわゆるサラリーマン社長のもと環境変化に対応できず没落していく姿を、最近の10年間でいくつも見てきた(余談だが、岸田総理も、サラリーマン社長のようだと評する声があり、私は日本の行く末を心配している)。

個人レベルで見ても、あくせく働かなくても、住む場所、食べるのに困らないためもあるのか、引きこもりやフリーターが登場した(もちろん、氷河期によるものは別要因)。

バブル期は、いわゆる3K労働(きつい、きたない、きけん)が忌避されたものの、当然のように就職していたが、新たに、ほぼ働かないという選択肢が加わったのだ。

今の30代について見ると、親世代の持家率は8割あり、生まれた頃の合計特殊出生率は1.5~1.7人程度であったことから、親の資産を承継すれば、住む場所に困らないし、住宅ローンの重圧もない。高度成長期には地方都市から大都市へ若者が移動したが、30代の多くは大都市圏で生まれているので、地域のミスマッチも少ない。

今後、持家や金融資産を多く持つ高齢世代が亡くなってゆくが、この資産を承継した世代が、売り食いにより生計を立てるような事例が増えていくことになりそうだ。そして、買い手となるのは、円安が進行する中、海外勢が有利となるのだろう。

その先の時代、日本はどのような姿になっているのだろうか。

中村 哲也
団体職員(建設分野)