5日間公務を放棄したスペイン・サンチェス首相の背後にあるもの

サンチェス首相の5日間の引き籠りの本当の理由

4月24日の午後7時過ぎにペドロ・サンチェス首相は市民に宛ててA4用紙4枚の手紙を認め、「X」にて公開して公務を離れ、5日引き籠るという出来事があった。

その動機となったのは、同日マドリードの地方裁判所が、彼の妻ベゴーニャ・ゴメス夫人を起訴するための事前捜査に入ったことが明らかにされたからであるとされた。同夫人が縁故関係を利用して企業への公的資金の付与に関与し、そこに不正行為があったという汚職疑惑である。それが首相の引き籠りの理由とされた。

しかし、それよりももっと重要な事件が背後にあるのだ。それはサンチェス首相の携帯が2022年に盗聴されていた事件だ。この盗聴から彼に不利になる内容が明らかにされる可能性が生まれたからである。

首相が5日間も公務を離れることなど常識外

まず上述の市民への手紙について触れると、その冒頭で「私の妻と私が受けている攻撃の重大さと、それに対して冷静に回答すべき必要性から・・・・」と綴り、果たしてこれからも首相として継続すべきか否か検討したいとして5日間公務から離れると発表した。EUに加盟する国の首相が5日間も公務を中断するなど常識では考えられないことである。

それに対し、野党、メディア、市民から「辞任するなら5日間も休養など必要ない」として多くの反対意見が上がっていた。サンチェス首相は辞任すると思われていたからだ。

ところが最近になって、サンチェス首相夫人の汚職疑惑が理由で彼が5日間も引き籠ったのではないということが囁かれるようになっている。

彼が5日間も休んで今後の身の振り方を検討する要因になったのは、ペガサスのスパイウェアーで彼の携帯電話が2022年に盗聴されていた事件で捜査が保留になっていたのが、4月23日になって裁判所で再度捜査に入るということが明らかにされたからだ。それは彼を辞任に追い込むには十分な内容だという噂もある。

だからサンチェス首相は5日の間にその解明に動いていたふしがある。それ以外にも、司法や彼に不利になる情報を提供して来たデジタル紙をコントロールして行く為の策の検討をしていたようだ。

 サンチェス首相の携帯が盗聴されていたというのは

盗聴について多少説明が必要である。以下にそれを説明する。

2022年5月、スペイン政府はサンチェス首相とベゴーニャ夫人それに内務相、国防相、農業相のそれぞれ携帯電話が何者かによって盗聴されていたことをスペイン政府が明らかにしたのである。

サンチェス首相の携帯からは2.57ギガバイトに相当する容量の情報が盗聴されていたとしている。それも2020年10月から2012年12月までの間の盗聴とされている。(4月24日付デジタル紙「エル・デバテ」から引用)。これを時間にすればおよそ200時間に相当する時間が盗聴されていたことになるという。

これを受けてマドリードの裁判所はこの捜査を開始した。ところが、スペイン政府からの裁判所への協力が不十分で捜査を前に進めることができず、この件は結局保留となった。

ところが、ペガサスで同じく盗聴の被害を受けていたフランスが盗聴に関する証拠資料をスペインの犯罪を専門に扱うアウディエンシア・ナシオナル裁判所に4月23日に提供したのである。早速、スペイン諜報局はこの分析を開始した。即ち、サンチェス首相が引き籠りを始めたのはその翌日からである。

当初、この盗聴者はモロッコの諜報機関によるものだとされていた。というのも、2022年4月にスペイン政府は突如西サハラの領有権がモロッコにあるという声明を発表したからである。

それまでスペインは西サハラの住民自身が投票で独立かモロッコの自治区となるか決めるべきだという方針を半世紀貫いて来た。にも拘らず、サンチェス首相がモロッコを訪問した後、180度スペインの外交を転換させてモロッコの領土だと発表したのである。それもサンチェス首相の独断によるもので、閣議でもまたスペイン議会でもその承認を得るべく議題にはならなかった。

また、ジブラルタルを挟んだ沿岸地域から麻薬のスペイン入国を阻止すべくエリート治安部隊をマルラスカ内務相はそこから撤退させた。その背景にあるのは、モロッコはハシュシュ(大麻樹脂)の生産では世界の50%を生産しており、スペインはその重要な顧客ということである。それがこれまでスペインのエリート治安部隊の活躍によって、スペインへの密輸出が妨げられていたということなのである。

治安部隊がいなくなったことで、それを容易にスペインに密輸出来るようになった。即ち、ペガサスによって盗聴されていた内容の中身にサンチェス首相が不利に置かれる何かが隠されているはずだということなのである。だから、政府は裁判所に協力しない姿勢を貫たと理解されている。

盗聴の内容が明らかにされる機会の到来

ところが、今回フランスが4月23日に盗聴に関する資料をスペインの裁判所の方に提供したということで、この解明がある程度明らかにされる可能性があるということだ。

だから、その翌日24日サンチェス首相は妻が起訴される可能性が出て来たことを表ざたの理由にして、引き籠りを決めたのである。そして、籠った5日間で裁判所が入手した情報について彼自身が彼の人脈を介して追跡していた可能性がある。

しかし、事態はサンチェス首相を不利な立場に追い込む方向に進んでいる。実際、これまでこの件の解明に協力を避けて来たイスラエルが突如協力する姿勢にかわったからである。ペガサスを開発したのはイスラエルのNSOグループだ。

イスラエル政府は最近のサンチェス首相がハマスに同情し、またパレスチナ国家承認へ数カ国を訪問してその動きを見せていることにイスラエル政府は不愉快に感じていた。そこで、これまで保管していたサンチェス首相の携帯電話の盗聴内容をフランスを介してスペインの裁判所に提供してサンチェス首相の失脚に動きを開始したということらしいのだ。

スペインの治安警察の警備隊(UCO)にはこれについての情報は既にフランスから渡されているという情報もある。実際、治安警察はサンチェス首相と内務相の政府から十分な保護を受けていないとして、これまで政府に対しては治安警察は強い不満をもっており、彼らは結束して政府には情報を断固漏らさない姿勢でいるとされている。

近い将来その盗聴された内容から、サンチェス首相はモロッコに対しスペインに不利になるような言動をしていたことが明にされる可能性がある。