勝者は嵐を生き延びた者ではなくルールを変えた者だ

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3/13「『テックラッシュ戦記』著者、元Amazonロビイストの講演傍聴記」(以下、「講演傍聴記」)で紹介した元Amazonロビイスト渡辺弘美氏のインタビュー記事が、5/6日経新聞に掲載された。

元アマゾン「ロビイストの草分け」に聞く 「社会にも利益」がカギ

元アマゾン「ロビイストの草分け」に聞く 「社会にも利益」がカギ - 日本経済新聞
経済産業省の官僚から2008年にアマゾンジャパンに転じた渡辺弘美氏は、日本のロビイストの草分け的な存在として知られる。アマゾンでは「置き配」など多くのルール改正や形成に携わった。23年末に独立した同氏に、日本でのロビイストの今後の役割や課題を聞いた。――ロビイストの存在感が増しています。「利益誘導」との違いは何ですか。...

ルールは変えられるものだという意識が低い日本企業

渡辺氏は「日本の政策決定や法律改正などの課題は」との問に対して、「日本の政策決定などはグローバルで俯瞰(ふかん)してみると、理不尽だとか、めちゃくちゃなことは起きないが、国としての方向性がいまいちよくわからないというように思われています」と答えた。

講演傍聴記でも渡辺氏は政策立案者に対して「国家像がない中での“空気感”(臨在感的把握 by 山本七平)による政策立案の懸念」を指摘していた。講演傍聴記最後の節「日本再興の鍵は政策ではなく伝統的日本企業の経営改革」では以下のように指摘した。

長らく政官と接してきた渡辺氏だが、民に対しても厳しい注文をつける。

「伝統的日本企業の経営者を念頭に」では、「研ぎ澄まされたミッション下で社員が同じベクトルを向き最大能力を発揮しているか」の他に「日本再興の鍵は政策ではなく伝統的日本企業の経営改革」、「『不変の価値の追求』『顧客起点』『経営陣の質』『社会的なれあいの排除』など」も掲げる。

その民に対して、渡辺氏は日経記事では、「企業にも『ルールは与えられ、守るべきもの』という意識が強い。変えられるものだという意識は低いと思います」とコメントした。この言葉で思い出すのは、勝者はルールを変えた者だとするIBM元会長の指摘だ。

IBMをソフトウェア企業に転身させたパルミサーノ元会長

2012年8月24日付「松岡功の今週の明言:IBMパルミサーノ会長『勝者は嵐を生き延びた者ではなくルールを変えた者だ』」と題する記事は、IBMをハードウェアメーカーからソフトウェア・サービス企業へ転身させた同会長の業績を以下のように紹介する。

Palmisano氏といえば、IBMをハードウェアメーカーからソフトウェア・サービス企業へと大転換させた立て役者である。ハードウェアよりもソフトウェア・サービスのほうが、より大きな付加価値を生み出せると見た同氏は、CEO就任後すぐにコンサルティング会社を買収する一方で、ハードディスクやPCなどの事業を売却した。

その後も企業向けソフトウェアを開発する新興企業を相次いで買収したり、金融業界などで経験を積んだ人材を積極的に採用したり、先端研究部門をビジネス志向に方向転換させるなど、ソフトウェア・サービスの強化を続け、今ではこの分野が全売上高のおよそ8割を占めるほどになっている。

2003年から2012年までの9年間の会長就任期間中に、ハードウェアメーカーだった巨艦IBMを、ソフトウェア・サービスが売り上げの8割を占める企業に転身させた舵取りは注目に値する。

拙著「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」第1章「シリコンバレーの興隆と日本の停滞」で、インターネットの入り口であるブラウザー(閲覧ソフト)を開発した天才プログラマー マーク・アンドリーセン氏の話を紹介した。

アンドリーセン氏は、2011年8月20日付、ウォールストリートジャーナル紙に「なぜソフトウェアが世界を飲み込むのか」というタイトルの寄稿文を寄せた。

その8年前の2003年に会長に就任してソフトウェア企業に巨艦の舵を切ったパルミサーノ氏の先見の銘に驚かされる。

なぜ日本にはGAFAが生まれないのか

3/26毎日新聞夕刊の「なぜ日本にはGAFAが生まれないのか 波風嫌う昭和の体質」と題するインタビュー記事で、グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎氏も渡辺氏と同じような指摘をする。

日本の大きな病は、現状変更や波風が立つことを嫌うことです。戦後、高度成長期を経て経済大国となった時の成功体験から抜け出せないまま、今までのやり方でしのごうと考える人が多い。

パルミサーノ氏の指摘するとおり、今までのやり方で嵐を生き延びようとしても勝者にはなれない。辻野氏は続ける。「途上国でデジタル技術が一気に普及する『リープフロッグ(カエル跳び)現象』とは逆の『ゆでガエル的衰退』が日本で起きています」

スイスに拠点を置くビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が発表した世界デジタル競争力ランキング2023で、日本は64カ国中32位。アジアの主要国がベストテン入りしているのに比べると、日本の「ゆでガエル的衰退」が浮彫りになる。

<世界デジタル競争力ランキング2023>

1 米国 7 スエーデン
2 オランダ 8 フィンランド
3 シンガポール 9 台湾
4 デンマーク 10 香港
5 スイス
6 韓国 32 日本

注:太字はフェアユース導入国
出所:World Digital Competitiveness Ranking

ちなみにアジアの4カ国・地域は、「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」 第7章「日本版フェアユース導入によりイノベーションを創出する」で紹介したとおり、ランキング1位の米国が発祥の地であるフェアユース導入国だ。確かに著作権法に公正な利用であれば、著作権者の許諾なしに著作物の利用を認めるフェアユース規定があればルールは変えやすい。