日本企業はもっと賢い成長投資を

私のように不動産賃貸事業が主力の場合、手持ちの貸し物件(住宅、オフィス、店舗、駐車場、マリーナ施設、シニアグループホームを含む)が全部貸し出されると売り上げも利益もそれ以上臨むことができません。

日本の事業なら住宅が主流なのでシェアハウスや外国人向け住宅のように賃料を上げやすい物件が多い環境でも年間の賃料の上昇率は2-3%と極めて緩慢です。カナダのマリーナ事業でもせいぜい年4%増が限界です。つまり事業の安定性はあるのですが、成長性では今一つです。

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そのため、私は過去ずっとキャッシュフローの余剰をほぼ全て投資に仕向け、常に新案件を取り込んできました。成長させるなら投資は絶対不可欠なのです。

もしも私が組織内の一員であったなら「その投資は危険だ」「お金をかけすぎている」「キャッシュフローが回らない」…といった反対派の声に押されていたでしょう。好き勝手やらせてもらっているのでそのようなストレスもなく次々と事業をやり、完成させ、運営し、次の案件に取り掛かからせてもらっています。

日本人はセロトニンが少ないとされ、それが理由で不安や内向き、ネガティブな考えを持つ方が多いとされます。私も日本人ですからセロトニンは少ないはずで本質はビビりです。小学校の低学年の時はおとなしすぎて通信簿に元気を出せと書かれたこともあるのですが、それが悔しくてそれ以降、うるさいぐらい声を出すようになりました。が、今でも一人焼肉とか絶対に入れないし、混んでいるラーメン屋の自販機で食券を買う時、落ち着いて購入できないぐらい小心者です。

ではお前はなぜカナダでそんな次々と事業をやっているのか、と聞かれたら「仕事だと割り切り」「仕事を通じたチャレンジは前進が前提」「解決できない問題はないから何かにぶち当たったら走りながら考える」というポリシーをビビりながらも掲げさせて頂いております。

日本企業はビビりだったと思います。過去形の書き方にしたのは私が外から見る限り、日本企業の体質が変わりつつあるように感じるからです。それまでは社内や人間関係の「しがらみ」でがんじがらめ。社長も役員会もみんな社内を向いていたのですが最近の企業トップは遠慮なく、外を向き、より積極的な中期計画とアグレッシブな挑戦の数字を提示しています。このような体質の企業は昔よりはるかに増えたと思います。

三菱UFJは27年3月期目標純利益を1.6兆円にすると発表しました。3年計画の平均でみると前の期の24年3月期に比べて3年で3割増を目標にしています。この利益水準はトヨタに次いで国内2位ですが、銀行がこのような積極的数字を出すのは久しぶりな気がします。何年か前、同行の元頭取が「純利益が1兆円を超えると目立つから9000億円台にしておいた」という世にも不思議で情けないコメントがありました。そのスタンスこそそれまでの日本の典型だったのです。

ソニー。私は1年ぐらい前に楽天とソニーなら楽天株です、と申し上げました。事実、ソニーは昨日時点で1年前に比べ7%下がり、楽天は3割上げています。理由は明白でソニーはプレステにこだわり続ける必要があるもののゲーム機市場の変化の取り込みに苦労し、経営的に足を引っ張っていると申し上げたかと思います。今回、3年間の中期計画で成長投資を1.8兆円とすると発表しました。これは評価します。ただし、仕掛けているパラマウントの買収は個人的には失敗した方がソニーのためになると思います。

ソニーは「昔とった杵柄」に妙にこだわることがあるのですが、ソニーのDNAである革新的な分野に突っ込んで行って欲しいところです。この色付けは社長の手腕によるところが大きいですからソニーの成長は社長の腕次第と申し上げておきます。

三越伊勢丹も不動産開発に5000億円投資と報じらています。良いことです。ただし、内容がピンとこないのです。「…同社は百貨店と周辺の不動産を活用し、商業施設やホテル、オフィスなど複合型の再開発事業を計画」(日経)とあります。これ、超つまんない事業です。伊勢丹新宿店の成功は何か、もっと深堀し、誰にもまねできない事業を計画してもらいたいのです。

同店に最近ルイヴィトンが初めて入店したのをご存じでしょうか?「百貨店七不思議」があれば間違いなく入っていた話で、それだけで書籍が一冊かけるほどのストーリーがあります。ルイヴィトンを入れないぐらい新宿伊勢丹は強くて負けなくてとんがっている店舗構成のポリシーを持っているのです。それが同店の最大の魅力である点を考えると5000億円も突っ込んで普通のデベがやる事業はちょっと物足りないですね。

賢い成長投資とは既存の事業への追加投資は本質ではないと思います。人々の思う3歩先を行く投資ではないでしょうか?時々10歩先をいく投資を目指す会社もありますが、それでは需要側や消費側がついていけないのです。つま先立ちのちょっと上ぐらい、これが最高のコンフォートゾーンです。

ただし、それらは競合がどんどん出てくるので事業をどんどん刷新していくチカラも併せてもつ必要があります。また、時として既存事業をバッサリ切ることも大事でしょう。また世界に目を向けたあるべき方向性を感じ取り、さすが日本と言われるセンスを経営陣は磨いてもらいたいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月15日の記事より転載させていただきました。