仕事を上手に断れるようになる、唯一の方法(滝川 徹)

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仕事を断りたいが、相手の気持ちを考えると断れないという人は多い。私も、かつては断るのが苦手だった。しかし、今では堂々と断れるようになった。どうすれば、仕事を上手く断れるようになるのだろうか?

そう語るのは現役会社員・時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、仕事を断るスキルの身につけ方を、再構成してお届けします。

仕事を断れるようになるには、仕事を断るしかないという事実。

仕事を断る。これは会社人人生の中で身につけたい最強のスキルのひとつだ。理由はシンプル。同じ30分を作り出すにも仕事を効率化して30分捻出するより、30分の仕事をひとつ断ったほうがはるかに簡単だからだ。仕事を断るというのはスキル。身につけることができれば、これほど効果的な方法はない。

一方で昔の私もそうだったが、仕事を断ることに強い抵抗を感じる人も多いだろう。「上司からの仕事を断るなんてありえない」「自分は助けられているのに、自分が断ったらイヤな奴と思われる」「信用して頼んでくれたのに、断ったら二度と信用してもらえない」といった感情がよぎり、断れないのもわかる。そう考えてしまう人達が実際に仕事を断れるようになるのは容易ではないだろう。

私自身の経験から言えば、仕事を断れるようになるためには「仕事を断る経験」を積むしかない。禅問答みたいだが、私はこれこそ真実だと考えている。仕事を断れるようになるためには、実際に断ってみて「断っても大丈夫なんだ」という経験に裏打ちされた安心感を身につけるしかない。

「小さな実験」からはじめる

ここで重要になるのは、まずは「小さな実験」からはじめることだ。些細なことで構わない。というより、大きな失敗をしないためにも小さなことであるべきだ。私の場合は会社での飲み会を断ることからはじめた。

コロナウイルス感染拡大や時代の背景もあり今でこそ会社の飲み会は激減したが、以前は私の職場では飲み会が頻繁に行われていた(たまたまそういう職場にいたのかもしれない)。

当時の私はNOと言えず、そのほとんどに参加していた。これが大きなストレスになっていた。仕事を終えた後の貴重な時間は自分や家族のために使いたかったからだ。時には「予定がありまして」などと白々しい嘘をついたことはあったが、大半は断れず日々ストレスを募らせていった。

このままYESマンでいてはいけない。そうして意を決して、自分にミッションを課すことにした。それは嘘をつかずに飲み会を断ること。嘘をついて断っても、今後も行われる数ある飲み会の1回にしかすぎないのだから。私は一時しのぎではなく「今日は参加しません」と堂々と言える強いハートを身につけたかった。初めてそれを試したエピソードをここで紹介しておこう。

人は自分が思っているよりずっとやさしい

コロナ前の出張時の話。当時私の会社では出張に行くと現地のスタッフが労いの意もこめて、当日の飲みの場を用意してくれるのが慣習化していた。そのときも出張先の上の人が「今日夜空いてる?」と声をかけてきてくれた。

歓迎してくれる気持ちは嬉しい。しかし私は疲れていたし、できれば部屋に戻って休息を取りたかった。だが一方で、せっかく誘ってくれているのにそれを断るのは申しわけない。その葛藤のなか「いや。断ることが今、自分に与えられたミッションなんだ!」と思いいたった。

そう割り切った私は「ヨシッ」と自分の中で気合いをいれ、「ありがとうございます。ですが今日は疲れてしまったので休ませていただきます」と切り出した。

さぁ、どんな反応が返ってくるだろう……。ビクビクしながら相手の反応を待っていると、意外にも「そりゃあ、そうだよなー。今日は早く帰って休め〜(笑)」という、予想外の温かい言葉が返ってきたのだ。

これを契機に、会社の飲み会を堂々と断る「ミッション」はこの後も何度もトライした。いずれも私が想像していたような冷たい反応、たとえばあからさまに嫌な顔をされるなどはなかった。

このミッションを通して私が学んだことは「人は自分が思っているよりずっとやさしい」というものだった。この学びが断る自信につながっていった。飲み会を堂々と断ることができるようになれば、仕事を断ることもその応用にすぎない。必要になるのはほんの少しの勇気と交渉力だ。

可能な限りシンプルに「NO」を伝える️

仕事を断るときの鉄則の一つ目は、可能な限りシンプルに「NO」を伝えることだ。

たとえば仕事が立て込んでいる時期に同僚からあらたな仕事を依頼されたとする。そんなとき私なら「依頼してくれてありがとう。でも今ちょっと余裕がなくて引き受けられないんだ」とだけ相手に伝えるだろう。

これまでの経験上、大抵はこれで十分だ。同僚であれば私の状況など少しは耳に入っているだろうし、すぐに察して「OK。また手が空いたら別の案件にでも手を貸してくれ」と言って引き下がってくれる。

仕事を断ることに罪悪感を感じると、ついいろいろと言いわけをしたくなる。その気持ちはわかる。しかし喋れば喋るほど、相手側に交渉のチャンスを与えてしまうのだ。「そういう理由だったら、こうすればこの仕事を引き受けられるんじゃない?」と逃げ道をつぶされてしまえば、返す言葉もなくなるだろう。

断るときは「シンプルイズベスト」。覚えておいてほしい。相手に反論の材料をわざわざ提供する必要はない。シンプルに「無理」と相手に伝えることを心がけよう。

「頼ってくれてありがとう」というメッセージを伝える

仕事を断るときの鉄則の二つ目は、「頼ってくれてありがとう」というメッセージを伝えることだ。

先の例で私は「依頼してくれてありがとう」と最初に伝えている。これは「仕事を断っているのであって、あなた自身を拒絶してるわけではないよ」というメッセージを相手に伝えることを目的にしている。

仕事を断られても、なんとも感じない人もいる。実際、イ・ミンギュ著『「後回し」にしない技術 「すぐやる人」になる20の方法』(文響社)によれば、「断られたときにどう感じるか」を問うアンケートで65.9%の人が「そんなこともあると思う」と答えている。

大半の人は仕事を断られても傷ついたりしないようだ。しかし中には昔の私のように、自分が拒絶されたように感じてしまう人もいる。

そんな人に向けて「断っているのは今回の依頼で、あなたへの拒絶ではない」というメッセージを伝えることは最低限の思いやりだと私は考えている。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月16日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。