ロシアのプーチン大統領は7日、通算5期目の就任式を終え、最初の外遊先を中国と決め、16日から17日の2日間の日程で訪中した。初日の16日、プーチン氏は中国の習近平国家主席と北京人民大会堂で首脳会談を行い、両国間の関係深化を明記した合意文書に署名した。両首脳間の詳細な会談内容については公表されていないが、3年目に入ったウクライナ戦争の対応、中東問題などのトピックスの他、両国間の経済関係、軍事関係の強化が主要議題だっただろう。ロシアは中国から西側の制裁で入手できない半導体などの機材や武器を、中国側はロシアから天然ガス、原油などの地下資源のほか、ロシアの軍事、武器システムに強い関心を有していることは知られている。
北京からの時事通信電によると、プーチン大統領は16日、北京で大規模交流行事「中露文化年」開幕を記念するコンサートで演説し、中国と国交を樹立した1949年当時にソ連で作られた歌の一節を引用し、「中露は永遠の兄弟」と述べたという。ソ連時代を含み、ロシアと中国は共産主義国として通称「兄弟国」と呼ばれてきた。兄はロシア、弟は中国といった兄弟関係が久しく続いた。
両国関係は時代と共に少しずつ変わってきた。ロシアが発展途上の中国を軍事・経済両面で支援する関係が続いたが、中国の国民経済が世界第2の経済大国となってからは中露関係にも変化が出てきた。ロシアが軍事大国、中国が経済大国としてそれぞれ自国の得意とする分野で相互支援する関係となった。
その関係が激変したのはやはりウクライナ戦争の勃発後だ。ロシアは国際社会からの制裁下、戦争経済体制を敷き、不足する武器や先端科学器材を中国経由で入手するようになってから、力関係で中国が上位となってきた。欧州の政治学者は「ロシアは中国のジュニアパートナーになってしまった」と指摘するほどだ。ロシアが中国を凌ぐ分野は核関連技術や軍事開発分野だけだというのだ。「永遠の兄弟」の中露パートナーシップも質的変化を遂げたわけだ。
ロシアと中国両国は独裁専制主義、反民主主義国という点で共通している。そして両国関係を強固にしている要因はアンチ西側だ。ただ、中国の場合、国民経済の発展のためには欧米諸国との経済関係が不可欠だ。だから、欧米世界からの制裁を懸念して、ウクライナ戦争ではロシアを全面的支援することを巧みに避けてきた。
中国共産党政権は「世界の平和実現のために国際貢献をする用意がある」と、中国外交を吹聴するが、紛争国とは常に一定の距離を置いている。ウクライナ戦争では独自の和平案を作成して仲介に乗り出す姿勢を示し、中東紛争では等距離外交に腐心している。中国外交が具体的な成果が乏しいのは、北京政府の軸が国益重視にあるから、掛け声とは異なり、中途半端な外交になってしまうからだ。
米国、オーストラリア、日韓は中国が台湾に軍事攻勢を仕掛けるのではないかと懸念している。3期目の任期に突入した習近平主席としては歴史に残る「台湾再統合」という夢を実現したいところだろが、世界最大の軍事大国米国を敵に回す結果となる軍事的冒険に乗り出す決意はまだ固まっていない。換言すれば、今年11月の大統領選挙の結果待ちだろう。
バイデン政権の継続かトランプ氏のホワイトハウスカムバックかでは中国側の対応もやはり変わらざるを得ないからだ。バイデン民主党政権の場合、次の一手が予測可能だが、トランプ第2次政権の場合、数年先どころか明日も分からないといった不安が一蹴できない。米国と貿易問題で対立している中国は、制裁を恐れ、どうしても外交では慎重にならざるを得ないわけだ。
ロシアはウクライナに侵攻する一方、旧ソ連共和国だった地域への軍事介入を密かに進めている。中国共産党政権は長期の視点から世界制覇を夢見ている。だから、中国は必要ならば欧米諸国に譲歩したり、妥協したりもする。一方、プーチン大統領は西側諸国への譲歩は基本的にできない。頑固だからではない。プーチン帝国のナラティブの舞台は旧ソ連世界止まりだからだ。
いずれにしても、ロシアでは遅くとも2036年にはポスト・プーチン時代に入る。中国の場合、習近平主席は終身制を狙っているかもしれないが、大国中国を完全に掌握し続けることは困難だ。実際、習近平主席暗殺未遂事件が多発している。その意味で、ロシアでも中国でも時がくれば、新しい政治体制が出てくるかもしれない。ひょっとしたら、そう遠くないかもしれない。
一方、自由・民主主義諸国はどうだろうか。自由・民主主義という「共通の価値観」を有すると自負するが、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国の現状をみると、「共通の価値観」で結び付いた関係とはどうしても言えないのだ。「永遠の兄弟」をスローガンとするロシア・中国に対して、米国を中心とした自由民主陣営にはどのような標語が相応しいだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。