再エネを「主力電源」にすると電気料金は激増する

池田 信夫

頭の悪い地方紙は、いまだに「原発新増設」がエネ基の争点だと思っているようだが、そんな時代はとっくに終わった。

昨年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」では「原子力の活用」が明記され、「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替え」の方針がすでに打ち出されている。

「再エネ主力化」には莫大なインフラ整備コストが必要だ

それより問題は、GX基本方針で打ち出された再エネの主力電源化である。ここでは再エネを「今後10年間程度で、過去10年間(約120万kW)と比べて8倍以上の規模(1000万kW以上)で整備を加速すべく取り組み、北海道からの海底直流送電については、2030年度を目指して整備を進める」と具体的な目標を設定している。

問題は、そのインフラ整備のコストである。エネ基の事務局資料では電力コストとして「燃料費+FIT買取費」を示し、それを現在の16.6兆円から2030年度には8.6~8.8兆円に減らすことを目標にしている。

エネ基の資料より

この「電力コスト」には、再エネのインフラ整備コストは含まれていないが、次の図のように連系線だけで必要投資額は6~7兆円と見込まれている。これは再エネのバックアップ経費なので、再エネ業者が負担するのが当然だが、GX基本方針はこのコスト負担を曖昧にしている。

エネ基の資料より

これを送配電をおこなう広域機関に負担させたいとエネ庁は考えているようだが、これはすべての電力利用者が負担する託送料金に転嫁される。「電力コスト」8.8兆円にこれを足すと消費者の払う電気料金は最大16.8兆円となり、今と変わらない。

これに加えてGX基本方針では、蓄電池に7兆円以上の投資が必要だとしており、それを足すと電気料金は23.8兆円となり、現在の1.5倍だ。これも再エネ業者が負担するのが当然だが、託送料金に転嫁すると、すべての消費者と企業の負担になる。

再エネ主力化で生産指数はマイナスになり空洞化が進む

このようにGX基本方針にもエネ基にも、重大なごまかしが含まれている。それは再エネ主力化で電気代が激増するということだ。これによって何が起こるかは、そういう人体実験をしたドイツをみればわかる。

エネ基の資料より

エネ基の事務局も心配しているように、再エネ比率が50%を超えたドイツでは電気料金が激増して欧州で最高になり、生産指数がマイナス20%になり、製造業の空洞化が急速に進んでいる。

ただでさえ空洞化で円安が進んでいる日本が、ドイツの後を追うのだろうか。脱炭素化は(電気料金を上げない範囲で)やったほうがいいが、「2050年カーボンニュートラル」には意味がない。1.5℃目標には科学的根拠がないからだ。

いま日本にとって最優先の課題は、完全実施しても地球の平均気温を0.01℃下げるだけのカーボンニュートラルではなく、エネルギーコストを減らして高齢化と空洞化で低迷する経済を建て直すことではないか。

「再エネが原子力より安くなった」などというのは幻想である。それは再エネ単体のLCOE(限界費用)をみているだけで、バックアップのインフラ整備コストを加えると、その電力単価は原子力の数倍なのだ。脱炭素化電源としてもっとも安価で効率的なのは原子力である

幸いヒステリックに再エネ主力化を主張した再エネタスクフォースはいなくなったので、総合資源エネルギー調査会のみなさんには冷静に検討してほしいものだ。