東京以外にお住まいの方には関心は薄い話かもしれません。しかし、今回の都知事選は自民党が候補者を擁立せず、現状、小池百合子氏と共闘する姿勢を見せています。(もっとも小池氏本人がまだ出馬表明をしていませんが、前回同様ならばぎりぎりになって表明するのでしょう。)今回の流れは先日の衆議院補欠選で東京15区で起きた事態と似た状況になりうるのではないかとみています。
過去、選挙で最大の関門は自民党でした。つまり、国政選挙でも地方選挙でも首長選でも議員選でも常に選挙の構図は自民党対それ以外が前提でした。そして自民党推薦があればシード権付きで自動的にある程度までは票が頂けるわけで、勝ち上がりの方程式とも言えました。
その最大の影響力ある自民党が今回は候補者すら出さない見込みなのです。個人的にはそこまで縮こまらなくてもよいのにと思っています。勝てないから出さない理論ならば衆議院解散はまずもって起こりえないということになります。このままでは秋の自民党総裁選後も解散総選挙はない公算が出てきたといえるでしょう。
多くの政治コメンテーターは1年ぐらい前から「解散時期は…」といかにも裏情報に精通しているがごとく自信満々に持論を展開していたのですが、ことごとく外してきました。私は外から見ながらこのブログでも時々つぶやいてきたように自民党の裏金問題が噴出する前から「時代の風は自民党じゃない」と感じていたのです。先進国の都市部では中道左派が支配するケースが常態化しています。海外の場合、経営上の使用者と雇用者の格差が強く、様々なバックグラウンドの人が働く中で労働者の権利を確保するという観点が強いのです。
当然その背景は賃金問題に代表される格差の問題であります。格差が生じるのは資本主義である以上やむを得ないのですが、必要以上に抑制された生活を強いられると労働者は生活苦になるため、それを改善してくれる中道左派を支援しやすくなるのが大きな流れです。今回はインフレで実質賃金が下がる中での都知事選ですからこのファクターは見落とせないのです。
では東京都はどうか、といえば労働者もいるのですが、リタイアした高齢者が多いのも強い特徴です。会社は東京にあるけれど労働者は周辺の県から通う傾向は相変わらずで、東京には昔から住む高齢者が多いのです。東京都の資料を拝見すると20歳以下の住民が210万人に対して60歳以上の方が390万人ぐらいになります。ざっくり2倍です。
とすれば東京都知事の選挙戦では誰をターゲットにするかといえば的を絞りにくいけれど選挙にまじめに投票しにいく高齢者向けの政策を重視した方が戦略的には勝ちにつながります。一方、高齢者は考え方が保守的になる方が多く、支持政党や支持者を突然変えるのはよっぽどのことがない限りないという推測もできます。
とすれば小池百合子氏はまだ出馬表明をしていませんが、出れば勝ちやすい環境にはあると思います。小池百合子氏のことを「深く知る」舛添要一氏は「選挙に出ない方がいい」とメディアに公言していますが、舛添さんの小池さんに対する発言は「特別なバイアス」がかかるのであまり重みはないでしょう。
では他党の動きですが、東京都の場合、政党戦もありますが、無所属で出る人がいつもたくさんいらっしゃいます。今回は自民党が独自候補を擁立しないので候補者乱立の公算はあります。個人的には10人以上出馬するのではないかと思います。その中で立憲が共産党と組んで候補者を擁立する場合、双方組織票があるので候補者次第では小池氏もうかうかしていられないと思います。
ただ、選挙になるといつも不思議に思うことは選挙民が候補者の主張や公約を理解しているのかが気になります。名前や政党だけで判断していないか、という点です。都政は国政と比べ公約や主張を政策に反映しやすい傾向があります。例えば小池さんが電柱を地中化するといえばそれなりに工事は進みました。国の事業ではそんな鶴の一声のような話にはなりません。
その点で候補者がマニュフェストに掲げる内容がどういうものか、そしてそれが夢のような話をしているのか、現実的な筋道がある主張なのか聞き分ける必要があると思います。都民がコンサートに行くがごとく「この人に夢を託しました。盛り上がりました」では意味がないのです。本当にそれを実現させるハードルを乗り越えるだけの実務能力、胆力、熱意、論理性、プレゼン能力、実行力…などあらゆる要素を要求されます。
そうなると今まで都知事を途中で投げ出したケースが続き、小池氏になって2期満了させたのは立派といえば立派なのです。それほど波風が立っているとも思えないのでstatesmanship(政治家としての資質)はやはり高いのだろうなと思います。カイロ大学卒業問題なんて私からすればどっちでもいい話でそれを今更取りざたする意味はほとんどないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月21日の記事より転載させていただきました。