スペインの言語事情:カタラン語だけでは国籍の取得はできない

国籍取得にはスペイン語を理解することが必要

マジョルカ島にある人口1万6000人のサンタ・マルガリダ市に30年近く在住しているアフリカから移民して来た女性がいる。彼女がスペイン国籍を取得しようと関係当局に申請したが却下された。理由は、彼女がスペイン語を理解できないからである。この出来事はメディアを通して全国に知られることになった。

何しろ、カタルーニャ州の独立派が「カタルーニャ共和国」として独立しようとしている動きで注目されている中で、カタラン語圏にあるマジョルカ島の一人の移民者が敢えてスペイン国籍を取得しようとしている行動はカタルーニャが独立しようとする政治の流れに逆行しているように受け取られて話題になった。

マジョルカ島の辺鄙な田舎でスペイン語を習得する機会はない

スペインで10年以上在住している外人はスペイン国籍取得のための申請ができる。それを利用して、このアフリカ出身の女性もスペイン国籍取得の為の申請をした。

彼女は当初スペイン語もカタラン語も全く理解できなかった女性でマジョルカ島のサンタ・マルガリダ市で1996年から住み始めた。バルセロナ市の大都市で生活を始めていればスペイン語を覚える機会は当然あったであろう。

実際、バルセロナ市内に限定すると、スペイン語は日常生活だとカタラン語以上によく使われている。ところが、マジョルカ島の都心から遠く離れた小規模の地方自治体だと住民は100%マジョルカ語(カタラン語の派生語)を喋って生活している。

彼女がそこに到着した時にはスペイン語もマジョルカ語も全く白紙の状態であった彼女が唯一覚えることができたはマジョルカ語だけであった。カタラン語で読み書きをし、マジョルカ語で会話をするという生活を送って来た。

したがって彼女自身が率先してスペイン語を覚える語学学校などに行かない限り、スペイン語を覚えることは先ず不可能である。しかし、マジョルカ島の小さな自治体でスペイン語を教えている語学学校など皆無である。また彼女は大人であるから義務教育で学校に行くこともない。学校に行っていればスペイン語も僅かではあるが覚える機会をもつことができたであろう。

 国籍取得のための口頭試験はスペイン語で行われる

そのような環境の中で生活していた彼女であるが、スペイン国籍を取得したいという希望に駆られ3年前にそれを申請した。ところが、国籍取得の認定の前の口頭試験で、彼女はカタラン語での審査を要望。

なぜならスペイン語についての知識は全くなく、日常の生活でもスペイン語を理解する必要性は皆無というのが理由であったからだ。ところが審査はスペイン語で行われた。それで彼女は緊張して審査官のスペイン語による質問に答えることができず、彼女のスペイン国籍申請は却下された。

それを不服として、彼女はスペインの裁判所アウディエンシア・ナシオナルに訴えた。が、同裁判所でも彼女の訴えを拒否する判決が下された。理由は以下のような内容からである。

「一人の外国人がスペイン国籍を取得するということは国家共同体に同化することである。それによって就労や在住も可能となる。と同時に外国人がスペイン国籍を取得するということはスペイン人と同等の一通りの権利も有することになる。また選挙における選挙権も被選挙権も取得することになる。同時にヨーロッパ共同体の市民にもなる。これらの権利を取得するためには当人がスペイン社会に同化できる共通語を理解できる必要がある」

彼女はその条件を満たさないということで申請が却下されたというわけである。(2月19日付「ディアリオ・デ・マリョルカ」から引用)。