意思決定を早く正確にできるようになりたい。そう思う人も多いだろう。しかし実は、意思決定が早い人は100%正しい判断をしようとしていない。
そう語るのは現役会社員・時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、即断即決する人の思考法について、再構成してお届けします。
即断即決の全技術
多くのビジネスパーソンは意思決定にあまりにも多くの時間をかけすぎている。タスク管理で時間を記録するようになり、そのことに気がついた私は愕然とした。ある日ウンウンと考えていたら気がついたら30分経っていた。これでは時間が足りなくなって当然だ。
ビジネスパーソンが日々意思決定をしなければならないことは山のようにある。それらを2分以内で決断できるようになれば、恐ろしいほど時間を創出することができる。ではどうやったらそれができるようになるのか。私自身が身につけた即断即決の技術をここでは紹介していきたい。
長い時間をかければ良い判断ができるとは限らない
一番最初に心がけてほしいこと。それはとにかく「早く決めよう」と意識することだ。できるだけ早く意思決定をする。これを意識するだけで時間を大幅に減らすことができる。
大切なことは判断にかける時間を計測することだ(キッチンタイマーでもかまわない)。計測をすると「あ、判断に時間をかけすぎている」と意識することができる。また「早く決めよう」という意識も働く。
判断にかける時間を先に決めてしまうことも大切だ。私が好きな本『イシューからはじめよ』(英治出版)の著者の安宅和人氏は若い同僚に「10分以上真剣に考えて埒が明かないのであれば一度考えることをやめたほうがいい」とアドバイスするという。
長い時間をかければ良い判断ができるとは限らない。それはただ「判断するのに長い時間をかけた」と安心したいだけだ。「失敗することが怖い」という恐れから、いたずらに時間をかけてしまっている可能性が高い。
たとえば10分など、考える時間を決めてしまおう。そのうえで時間内に決めることができなければ「エイっ」と決めてしまうことも大切だ。はじめの頃は思うようにいかないと感じるときもあるだろう。私自身も慣れるまでは時間内に決めることができず、もどかしい思いをした。しかし経験を積むと慣れてくる。即断即決はある意味「技術」だからだ。
技術を身につけるためには「経験」「場数」を積むことが何よりも大切になる。即断即決を常に心がけ「エイっ」ととにかく決めていく。時には判断ミスもする。そのとき「どうすればより早く、より正確に決断できたのか」をふりかえる。そこで得た仮説をまた試していく。これを繰り返していく。それ以外、技術を身につける方法はない。
早く意思決定する方法論は本屋に溢れている。にもかかわらず、多くのビジネスパーソンが未だ即断即決できるようになれない。その理由がここにある。経験に目を向けず、方法論ばかりに目を向けているからだ。
ピアノやテニスは本で学ぶだけでは上達しない。原理原則を学ぶことはたしかに大切だ。しかし実際の経験のほうが大切なのだ。
意思決定のポイント
この先、即断即決の原理原則を説明していく。しかし即断即決の場数を踏むことが何より大切。このことを忘れないでほしい。それでははじめよう。
即断即決の技術を紐解くと次の3つのポイントに集約される。
(1)問題をシンプルにする
(2)情報が十分か確認する
(3)走りながら考える
ケーススタディを通してこの3つを説明していきたい。
たとえば「健康的な食事」をテーマにクライアントの社員に向けて講演を開催することになったとする。講師をAかBのどちらかから選ばなければならないとしよう。このとき、ただ漫然と「AかB、どちらがいいかな」と悩んでいても即断即決はできない。なぜならこの時点で解くべき問題がシンプルになっていないからだ。
即決するためにはまず解くべき問題をシンプルにする必要がある。そのためには複雑に絡まっている問題を紐解く作業からはじめる。どういうことか。まずは意思決定に必要な要素は何か?考えて書き出していく。このケースの場合、たとえば次のように書き出す。
a)両者の講演料
b)両者の経歴
c)講演実績とその評判
d)両者の考え方の違い
次は書き出した要素を一つずつつぶしていく。このケースであればa)~d)を調べていく。そうすると解くべき問題が明らかになる。たとえば今回a)~c)に大きな差はなかったとしよう。そうするとd)を掘り下げれば意思決定ができそうだとわかる。問題がシンプルになったというわけだ。
即決できないのは問題が複雑だからだ。問題を解くための要素を書き出して一つずつ対処していけば論点はシンプルになる。そうすれば即決しやすくなる。
一方で問題がシンプルでも当然即決できないときも出てくる。そんなときはどうするか?次のステップは(2)「情報が十分か確認する」を実践する。説明しよう。
情報が十分か確認する
d)を整理した結果、たとえば候補者Aは肉をたくさん食べることを推奨していて、Bは逆に食べないことを推奨しているとしよう。どちらの講師が良いか即決できない。そんなときは判断するために必要な情報が揃っていない可能性が高い。
たとえば肝心のクライアントはどんな話を聞きたいと思っているのだろうか? 考えてみる。たとえば先方に「どんな話を聞きたいですか?」をはじめとした質問を入れた社内アンケートを依頼してみる。
そうすると「老後も元気に動きたい」という回答がいくつか見られた。その場合、老後元気に活動するためには筋肉が重要で、肉からプロテインを摂取することが重要と説くAを講師に選べばいい。そうした結論を導き出すことができる。
問題をシンプルにしても即決できないときは、このように判断に必要な情報が揃っていないことが多い。必要な情報は揃っているか。ウンウン悩む前に確認するようにしよう。
一方でビジネスの現場では「今ある情報で判断しなければならない」という場面もでてくる。そんなときはどうしたらいいのか。説明しよう。
走りながら考える
結論から言うと、ひとまず「エイや」と決めてしまうことだ。私のメンターの吉越浩一郎氏の言葉を借りれば「60%OKなら次の一歩を進める」となる。
私は別に「後は天に任せろ」とギャンブルの提案をしているわけじゃない。正しい判断をするために必要な情報が得られないなら、一歩前に進んでみて(ひとまず意思決定をしてしまって)、間違っていたら軌道修正をする。こうした仕事の進め方が正しい判断に最も速くたどり着く方法だからだ。これを私は「走りながら考える」と表現している。
具体的にどういうことか。先程のケースで説明しよう。必要な情報を入手するためにクライアントに社内アンケートを依頼した。しかし講演まで時間がなく、今さらアンケートなんて取れないと言われた。こんなとき、ひとまず今ある情報で一歩を進める。
ここで私なら、ひとまず話を聞きたいと思う候補者に連絡をしてみる。たとえばAに電話をして講演の相談をしてみる。話を聞いてみると、講演日までに準備が間に合わないと言われた。あわててBに連絡してみる。
そうすると、ギリギリにはなるがなんとかなりそうだと言われた。まさにギリギリセーフだ。もしどうしようかウンウンと悩んでいたら。後日Bからも間に合わないと言われていたかもしれない。
これは極端な例にはなる。しかしこのように早く動き出せば、リカバリー含め軌道修正ができる。スピードさえあれば、判断を間違えても軌道修正できる可能性が高い。それなら早く一歩進めてしまうのが合理的だ。判断に迷い時間をかけても正しい判断ができるとは限らない。判断に時間を要したあげくに判断を誤った場合、軌道修正もできないので致命傷になる。
すぐに正解を導き出せない問題にぶちあたったら、ひとまず「60%正しい」と思う意思決定をすることを心がけることだ。そうして「走りながら考える」。そうすればより早く正解にたどり着けるようになる。
問題が難しくなればなるほど、100%正しいと思える判断なんてできなくなる。元アメリカ大統領のバラク・オバマ氏は重要な決断でさえ51%正しいと思ったら意思決定していたという。60%正しいと思えれば十分なのだ。このことを理解し、ぜひ「走りながら考える」を実践してほしい。
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滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月23日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。