ロボット軍用犬が戦場に登場する時

オーストリアでジョギング中の女性が闘犬(Kampfhund)に襲われて死亡するという事故が生じ、国民に大きなショックを与えたが、以下の話は「闘犬」ではなく、「ロボット軍用犬」の話だ。

中国のUnitree社のロボット犬(UnitreeGo2)(Unitree社の公式サイトから)

Ghost Robotics社のロボット犬(Ghost Robotics社の公式サイトから)

ロボット軍用犬が戦場で導入される、といったニュースが流れてきた。ロボット犬の写真が掲載されていたが、背中には機関銃が設置され、センサーで動く対象をキャッチし、銃撃できるという。SFの漫画では既に登場していたが、現実の戦場にロボット軍用犬が動員される時代圏に入ったのだ。時代がSFの世界に追いつき、ひょっとしたら追い越していくのではないか、といった一抹の不安を感じる。

ドイツの民間ニュース専門局ntvは5月30日、「中国人民軍の軍事演習で同国の軍事産業Unitree社(ユニツリー・ロボティクス)が製造したロボット軍用犬が登場した」と報じた。

カンボジア軍との共同軍事演習で、760人の中国人民軍兵士の中に、Unitree Robotics社製の突撃銃を装備したロボット軍用犬が参加している映像が映っていた。英紙ファイナンシャル・タイムズによると、取材した中国国営テレビ関係者に対して、兵士たちは「ロボット軍用犬は敵を発見し、射撃することができ、都市での戦闘や防衛作戦で新しい戦力となる」と豪語していたという。

その一方、ロボット軍用犬を製造したメーカーやその会社に投資している企業関係者は異口同音に「軍事目的を支援する企業には投資していない」、「ロボット軍用犬を中国人民軍に販売していない」と説明している。Unitree社は「ロボットを中国軍に販売していないので、人民解放軍がどのようにしてわが社のロボット犬を手に入れたかは分からない」と説明している。Unitree社によると、「製品はあくまで民間用途のために製造されており、軍事目的の使用には関与していない」というのだ。

全てのアイテムはそれを使用する側によって異なってくる。民需目的にも軍事目的にも使用できるデュアルユース・アイテムというわけだ。だから製造者は責任がもてないというわけだが、その説明は余り説得力がない。中国共産党政権下では全ては党が管理し、科学的最新技術に基づく製品は軍事目的に利用されるケースが出てくる。

Unitreeのロボット犬は2022年に上海で初めて登場した。当時、地元の住宅建設会社がメガホンを背中に取り付け、都市の住民にアナウンスを伝えるために同ロボット犬を利用したという。それが今、中国人民軍のロボット軍用犬となって戦場に駆り出されているわけだ。ちなみに、ドイツの産業用ロボット製造大手「クーカ」が2016年、中国企業に買収されている。中国共産党政権は欧米のロボット関連技術の獲得に躍起となってきた(「輸出大国ドイツの『対中政策』の行方」2021年11月11日参考)。

もちろん、ロボット軍用犬は中国企業の専売特許ではない。ntvによると、イスラエル国防軍(IDF)が米社「ゴーストロボティクス社(Ghost Robotics)製のロボット犬をガザ戦闘用に購入しているという。

Ghost Roboticsのロボット犬は、登ることも泳ぐこともできる。バランスを失って倒れても、再び立ち上がることができるようにプログラムされている。また、中国のロボット犬と同様、武装させることも可能だ。Ghost Roboticsのロボット犬は2年前に初めて公開されたが、機関銃とサーマルカメラが装備され、最大1200メートル先の目標を射撃することができる。夜間や悪条件下でも人物や物体を識別できる視覚センサーを搭載しているから、爆発物も探知できる。

イスラエル軍は現在、米国のメーカーから3台を購入して所有している。イスラエル軍はロボット犬をパレスチナ自治区ガザでのイスラム過激テロ組織「ハマス」との戦いに利用している。イスラエルの経済ポータル「Globus」によれば、米社のロボット犬は一台13万ドルだ。ちなみに、中国のUnitree社のロボット犬は一台平均2300ドルだ。

ロボット犬の武装化については、米国内では議論を呼んでいる。ntvによると、ロボット業界で最も有名な企業の一つ、ボストンダイナミクス社(Boston Dynamics)は、全てのロボットメーカーに対して製品を武装しないよう求める請願書の署名を開始しているというが、Ghost Robotics社は請願書には署名していない。ちなみに、同社は昨年末、韓国の武器メーカーLIXNex1に2億4千万ドルで買収された。

兵力不足を解決し、人的犠牲を最小限に防ぐために、無人機、ロボット兵器が今後、戦場で益々重要な役割を果たすことになるだろう。それでは、戦争で無人機、ロボット兵器が主要な戦争の武器となることで何が変わるだろうか。戦争の仕方、戦略に変化が出てくることは必至だろう(「北朝鮮無人機の韓国侵入が見せた近未来」2022年12月31日参考)。

最後に、祖国の防衛のために戦場で戦う若きウクライナ兵士が敵国のロボット軍用犬によって射殺された場合、亡くなった兵士の名誉はどうなるだろうか、といった思いが湧いてきたことを付け足しておく。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。