「酒・ネット・食べる」やめられない人が見落としている視点 (滝川 徹)

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依存症というと自分には関係ない。そう感じる人も多いだろう。しかし重度か軽度は別として、誰にでも何かしらに依存している可能性がある。

そう語るのは現役会社員・時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、欲とうまく付き合うことの大切さについて、再構成してお届けします。

欲との付き合い方が人生の質を決める

以前の私は経済的に余裕ができれば自分の好きなことに好きなだけ時間を使えるようになる。そう信じていた。早くから残業ゼロを目指したのも、時間の自由を手に入れたかったからだ。

自由な時間が増えれば家族との時間はもちろん、自分が好きなことに好きなだけ使えるようになる。そう、昔の私にとって自由とは自分の気持ち・欲望のままに行動できることを意味していた。

しかしさまざまな手痛い失敗を繰り返していくうちに、私は欲望を適切にコントロールすることこそが良い人生を形作る。このことに気がついた。もちろん、欲は上手に付き合えば人を動かす原動力になる。自由を求めて働き方を見直した私を動かしたのも欲だ。だが一方で、欲望はコントロールを失えば破滅をもたらす厄介なものなのだ。

小金を手にした人がさらに金を手に入れるために人をだましたり、有名人が欲におぼれてニュース沙汰になり表舞台から消えたり。成功すればするほど誘惑も増えていく、しかも悪への誘惑ほど魅力的に映る。ここで欲をコントロールできなければ人生を破綻させることになる。想像がつくだろう。

自分にはそんな大層な誘惑はやってこない。そう思うだろうか。だが三大欲求のひとつといわれる「食欲」ならばどうだろうか。学生時代の勢いのままガツガツ食べてしまえば摂取カロリーが消費カロリーを簡単に上回り、健康に悪いだけでなく脳の働きが鈍くなり仕事の生産性も下がる。カレーやから揚げは確かに美味い。だが、そういった食事を欲求のまま食べてしまわないようにするのも欲のコントロールなのだ。

これは食事に限った話ではない。たとえばお酒もだ。欲望のまま飲んでしまえば二日酔いで仕事に集中できないだけでなく、気をつけなければ破滅の道を歩むことになる。気の置けない仲間との酒宴が楽しいのはわかる。しかしこれもコントロール必須だ。

要はバランスなのだ。至福の時間をもたらしてくれるゲームやSNS、蒐集コレクションなどの趣味だってどれもハマりすぎはよくない。楽しみたいという欲を追いすぎれば、その先には依存症という自分だけでなく周囲も巻き込む暗闇に陥ることになる。

「欲との付き合い方が人生の質を決める」。これが私がここ数年で得た気づきの中で実は最も大きかったことかもしれない。

依存症は誰にでも起こりうる

自分はネットも酒もほどほどにしている。依存症などとは無縁だ。そう思っているかもしれない。しかし依存症の世界的な権威であり、数々のベストセラーで知られる医師のガボール・マテ氏は次の3つを依存症の特徴として掲げている。

  1. (特定の行為に対して)短期的に得られる解放感(気持ちを落ち着かせてくれる)、快楽からくる衝動がある
  2. (その行為を続けることで)長い期間で見ると自分自身または他人に苦しみをもたらす
  3. その行為をやめられない

これを質問形式にする。「ある行為をすると気持ちが落ち着いたり快楽が得られるが、長期的に見ると人生に悪影響がある。それにもかかわらず、やめられない習慣はありますか?」

ガボール医師が講演でこれを問うと、会場内のほぼ全員が手を挙げるという。彼によれば、挙げない人は真実を語っていないそうだ。君の回答はどうだろう。

タバコ、酒、ギャンブル、ゲーム、テレビ、SNS、ネット、飲食、セックス、衝動買いなど。薬物などの違法行為だけでなく、良好な人間関係を築けないならば「人への依存」、長時間労働が当たり前になっているなら「仕事への依存」の可能性がある。

このように重度か軽度は別として、誰にでも何かしらに依存している可能性がある。私も過去に特定の行為に依存していた時期がある。人に話をすると「そんなのは大したことじゃない」と言われる。

しかし今の私にとっては恥ずべき習慣だった。依存していた時期はそのことばかり考えてしまい、ビジネスがおろそかになった。当時の私にはその状態が当たり前で、ほかのことをおろそかにしている自覚がなかった。

何かに依存すると、自分では気がつかないうちにさまざまなことに悪影響が出てくる。仕事に集中できなくなったり、生活や人間関係に影響が生じたり。大抵の人は状況が深刻化したときにはじめて気がつく。

私は欲や依存している行為をコントロールすることができるようになってから、人生が劇的に良くなった。以前と比べて執筆や自分のビジネスに集中できるようになり、毎日が楽しくなり、ビジネスも順調に成長していった。

依存症について参考文献も読んだし勉強もした。その原因や背景も少しは知ることができた。だが、やはり専門的な治療が必要なもの。ここでどうこう言うことは控えたいと思う。

ただもし君や周囲の人が依存症に苦しんでいるのなら、カウンセリングやセラピーなど専門家の力を借りるべきだと思う。私自身も専門家によるカウンセリングを何度か受けた。日本ではあまり知られていないので恥ずかしく感じるかもしれない。しかし問題が深刻になる前に専門家に相談することをおすすめする。

ただ、これだけは伝えておきたい。依存症は誰にでも起こりうる。どんなに成功して大金を手にした人であっても、だ。だからこそ、そこにつながりやすい「欲」とうまく付き合うことを心がけてほしい。そう心から願っている。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月28日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。