政治の停滞は国家の危機である

政治資金規正法で、ガキの喧嘩のような低レベルの議論が続いている。与党もだらしないが、野党もいつまでたってもだらしない。

自民党のガバナンスのなさを称して、野党議員が「民主党政権時もなかったひどさ」と言っていたが、民主党内は派閥の対立で悲惨だったことを忘れているようだ。東日本大震災後の混乱は言葉で語りつくせないものだった。

今回の問題を突き詰めれば、戦後の昭和時代になれ合いで行ってきた慣習が時代遅れになってきたことに気づいていない自民党と、同じようなことをしてきた野党が自分の行為を忘れて選挙対策としてショーを演じているに過ぎないだけだ。相も変わらず、リテラシーの低いメディアが視聴率をあげるために神輿を担いでいる。

昭和から平成の前半まで、日常的に行われてきた行為が、パワハラ・アカハラなど称され、「お客様は神様」と奉っていたお客様が乱暴狼藉を重ねるとカスハラと大騒ぎしている。

もちろん価値観など時の流れで移り変わるものだが、政治資金規正法やいろいろなハラスメントは、人間としての最低限の道徳観の問題ではないかと思う。企業による様々な不祥事も、根底は道徳観の欠如に他ならない。

パワハラについては、私は偉そうなことを言える立場にはないが、日本はおかしくなっている。

たとえば、研究という場は、オリンピックと同じで、金メダルと銀メダルには大きな違いがある。先頭を切って報告した研究結果は多くの研究者に引用されるという形で、科学の進歩に大きな足跡を残すことができる。もちろん、それが患者さんの健康を取り戻すことにつながれば、ベストである。先頭を走るには、努力をし続けるしかないのだ。

志のある医師や研究者は、ライフ・ワークバランスが大事だと言って勤まる職業ではない。適塾を始めた緒方洪庵は「扶氏経験遺訓」に「医の世に生活するは人の為のみ、おのれがためにあらず」と遺している。地位と収入にあこがれて医師や研究者になるような甘ったれた医師・研究者が増えてくれば、日本の医療は崩壊し、医学研究は競争力を失う。

健康医療分野で検討すべき多くの課題に手を付けることなく、国会で長期間にわたって「ガキのいざこざ」を続けていいのかと考えているのは私だけなのか?くだらない議論を続けるよりも、日本の道徳教育を考え直すところから始めてほしいものだ。

第1委員会室 参議院HPより 国会 衆議院


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。