滅び行くものへの投資と新たに生まれるものへの投資

環境問題の解決においては、当然に、環境負荷の小さいとされる製造設備等の開発が課題となるが、それに劣らずに、環境負荷の大きいとされる設備の計画的廃棄が極めて重要な課題となる。

計画的廃棄においては、期限を切って新規建設が禁止されても、既存施設については、一定の稼働猶予期間が定められから、この稼働猶予期間にある施設は、有期の投資対象になり得るから、例えば、電気事業者としては、こうして廃棄されることになった石炭火力発電所を投資家に売却すれば、環境負荷の少ない新たな電源開発のための資金を調達できるわけである。

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こうして、廃棄される運命の投資対象は、廃棄されるまでの期間を通じて、時間の経過とともに、資産価値が自動的に崩れていくもの、即ち、元本が時間をかけて償還されていくものであるから、いわば年金型の投資対象なのである。

実は、不動産は、年金型の投資対象である。なぜなら、不動産には必ず耐用年数があるから、不動産投資とは、耐用年数の期間にわたって、初期投資額を均等に回収することであり、年金型なのである。そして、不動産投資に限らず、発電所、船舶や航空機等の輸送用機器などを対象とした実物資産投資と呼ばれる領域では、投資対象に耐用年数がある以上は、必ず年金型の投資になる。

要は、産業界には、必ず、滅び行くものと新たに創造されるものとの二側面があって、前者は、多くの場合、年金型の投資対象に構成し得るわけである。

極めて特異な例としては、生命保険会社は、既契約の集合体という過去の側面と、新契約の創造という未来の側面をもっていて、理論的には両者は截然と分離され得るわけである。故に、生命保険会社の企業価値は、過去分の価値と未来分の価値の合計として測定可能なのである。

さて、日本の生命保険の業界の現状として、両者がともに正の価値をもつのか、それとも過去の正の価値を未来の負の価値が食い潰しているのかは極めて興味深い論点であるわけだ。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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