18日の朝刊各紙は「情報漏えい者の処刑要求か トランプ氏、元高官が証言」(『産経』)との共同の配信記事を掲載した。トランプ政権でホワイトハウス(WH)広報部長を務めたアリサ・ファラー・グリフィンが米メディア『Mediaite』に、BLMの契機となったフロイド事件の大規模抗議デモがWH前で行われた際、トランプが地下室に避難したことを「漏らしたスタッフは処刑されるべきだ、とはっきり言った」と述べたというのである。
4年前の大統領選の最中も就任後も、バイデンはコロナが怖くて姿を現さず、筆者は21年4月16日の菅・バイデン会談直後に「バイデンお初の会談相手だけが成果の菅訪米では物足らぬ」との拙稿を書いたものだった。斯くも長くどこかに隠れていたバイデンを散々に腐したトランプとしては、デモに怯えて「バンカー」に逃げ込んだことなど決して知られたくなかったに違いない。
トランプ陣営はグリフィンが注目を浴びるために嘘をついていると反発した。が、彼女はトランプが11月の大統領選で返り咲けば「怒りと報復が統治の原則になる」とも述べ、米国大統領に相応しくない人物だと警告した。先の共和党予備選に出たクリスティーやヘイリー(再度支持を表明)、そして安保顧問だったボルトンもそうだが、反トランプに転じたこの人物に興味が湧いて、少し調べてみた。
ネットで探すと、22年9月に『PBS』(米国公共放送ネットワーク)がグリフィンにインタビューした1時間半ほどのネット番組『Frontline PBS』とそれの「書き起こしサイト」があったので、後者をAI翻訳した38千字ほどの記事を読んでみた。彼女の印象を先にいえば、極めて聡明で、自分なりの考えを持ち、行動力のある優秀な人物と筆者には思えた。以下にその主張を搔い摘んで述べてみる。
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ジャーナリストの父親の保守系サイトで記事を書いていた12年の大統領選で、彼女は共和党大学委員会の広報を務め全国を回った。14年には後のトランプ大統領首席補佐官マーク・メドウズ下院議員の広報部長になり、彼を通じてフリーダム・コーカス(FC)と関わるようになった。トランプが大統領選出馬を表明した15年当時、FCはトランプではなくテッド・クルーズやマルコ・ルビオを支持していた。
当時のFCは、「政府の権限を制限し、税金を削減し、社会保守政策を掲げる伝統的な保守グループ」で、現在のMAGAポピュリストのトランプ主義とは違っていた。が、トランプがクルーズやルビオを破って指名を獲得すると、少なくとも公的にはFCメンバー全員が彼を支持した。トランプが異色の人物だったのでグリフィンには驚きだった。
彼女も含め人々が問題視したのは、政策よりも彼の性格であり、率直に言って、誰もトランプの政策が何であるかを実際に知らなかったからだ。彼は共和党の支持基盤を見て、自分の政策の多くをその場で思いついたのではないか。本当に長期にわたる一貫した政策と呼べるものは、中国に対する姿勢だけだ。
だが、トランプ指名の後に人々は彼の後ろに並んだ。保守派とFCを味方につけるのに最も重要だったのは、マイク・ペンスが味方についた時だった。ペンスがFCに働きかけたことが、伝統的保守派の不安を払拭した。ペンスがジム・ジョーダン(今の下院司法委員長)と親しかったことも大きかった。
もう一つはトランプとヒラリー・クリントンの二者択一であり、トランプには連邦政府全体の人員配置権限があるということ。どれだけ多くの保守派がこうした役職に就き、自分たちが信じる政策を推進できるか考えれば、トランプ支持はもっともだった。が、彼女はまだトランプを支持していなかった。
グリフィンは16年にトランプ陣営の広報チームに誘われたが断った。彼女はポール・ライアンとペンスを支持した。17年9月、副大統領になっていたペンスの報道官が辞任し、彼女は後任を依頼された。FCに所属していた際、ペンスとほんの少し会ったことがあり、連絡をくれてすぐ決断した。
その後はしばらくグリフィンが如何にペンスを信奉していたか、その話が以下のように続く。
彼女にとってペンスはイデオロギー上の盟友だった。伝統的保守を自認するグリフィンは、下院共和党研究会委員長だった頃からペンスを尊敬し、信頼していた。彼は人格者であり、公職奉仕精神に富んだ人物でもあった。何年も下院議員を務め、知事も務めたペンスは政治キャリアも十分に積んでいた。
彼女がペンスに仕えて改めて認識したことの一つは、キリスト教信仰についてオープンに語る彼の信心深さであり、自分がその時代にそこにいるよう召されたと信じていること。もう一つは、ペンスが洞察力に富む規律正しい人物で、「気まぐれな大統領」の4年間を生き延びるには、公に大統領支持を表明し、大統領を批判していると思われないようにしなければならないことを初日から理解していたことだった。
が、彼女はペンスが誤解されてきた人物だと思うという。それはペンスがトランプの政策の大部分を信じている人物だったことであり、彼がそのことを非常に率直に認めていたことだ。誤解とは、ペンスがトランプに面従腹背していたのではないかということか。が、グリフィンは、ペンスがトランプを大統領として軌道に乗せるために、舞台裏で最も重要な力を発揮した人物だったという。
つまり、閣僚や上級職員の解雇から司法省を不当に利用すること、さらには無謀な政策提案に至るまで、ペンスはトランプと非常に良好な関係を築いており、物事を正しい方向に導くためにトランプの耳元で囁くことができたというのだ。彼女はそれこそが、ペンスがこの4年間で上げた最も大きな功績だったと述べる。
インタビューの後半はトランプが、選挙が盗まれたと主張し続けていることや、J6議事堂襲撃の要因となったことの批判などありきたりの内容なので省くが、興味深い指摘は「トランプは自分が流す嘘や自分が流す陰謀論の多くを信じていると思う」と述べたこと、そして共和党を変えたのはトランプの「前例のない資金調達能力」だったという点だ。
グリフィンのこの2つの指摘は、ペンスに対する評価(それは筆者のペンス評と全く重なる)と同様に的を射ていると思う。ただし、後者にはペンスも信じた「トランプの政策」もある、と筆者は思うが。
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こうしたグリフィンのペンス礼賛振りを読み、筆者の頭にはベン・カーソンの名が浮かんだ。6月6日の拙稿「トランプの副大統領がベン・カーソンであるべき理由」で要旨こう書いたからだ。
他の政治家や知事の過激な副大統領候補に比べ、16年の大統領選後にトランプ政権の住宅都市開発(HUD長官)を最後まで務めたベン・カーソンは、これまでの小児脳神経外科医としてのキャリアや、そして何より物腰や語り口が他の候補とはだいぶ違っている。
福音派のペンスと同様、信仰心の篤いベンは、どんな状況においても至って穏やかであり、左右を問わず多くの米国人に絶大な人望がある。筆者は、熱く演説するトランプと、静かにその後ろに立つペンスの組み合わせが好きだった。以下にトランプが副大統領に選ぶべきベン・カーソンのことを述べる。
惜しむらくはベンにはペンスにはあった豊富な政治キャリアに欠ける。が、逆に小児脳外科医としての卓越した実績やHUD長官としてトランプに仕えた経験があり、トランプにも前政権の4年間がある。むしろグリフィンが「気まぐれ」と難じる彼の性情が、特に対中露北やイランとの外交では良い面に働いた。
そして何よりベンは、2月23日にyoutubeにUPされたCPAC演説に見るようにペンス同様、トランプの政策を強く支持している。『Politico』が17日報じた8人の候補の長所短所を読んでも、ベンの短所は72歳という年齢だけだ。トランプの次に4年はベンをランニングメイトにするのが良い。