辞める前に岸田総理が「しなければならない」3つの懺悔

岸田氏は「・・しなければなりません」というフレーズを多用する。「・・を実施したい」とか「・・を進めてゆく」とかと違って、筆者には引っ掛かる言葉づかいだ。なぜなら、彼が「しなければならない」ことは安倍・菅政権のやり残しだけで十分であり、岸田発のそれは自民党と日本を危うくするからだ。

実際、何をやっても右からも左からも批判され、党内の岸田離れも加速して、目下の岸田氏は9月の総裁選に出られるかどうかさえ危うい。筆者が2年前の9月に本欄に書いた岸田氏による自民党の破壊が9割方進んでしまったような現下の日本の政治状況には、改めて愕然としてしまう。

だが、まだ9割方なので辛うじて1割ほどは自民党修復の途が残っている。この1割を上手く活かさないことには、自民党と一緒に日本が壊れてしまう。本稿では、岸田氏が総理総裁の座を辞す前に、後継する者のためだけでなく、日本のために「しなければならない」3つの懺悔について書く。

党首討論に臨んだ岸田首相
首相官邸HPより

旧統一教会案件

一つ目は、旧統一教会とその関連団体(以下、教団)と関わった自民党議員の処分をすべて一旦撤回し、裁判で解散命令が出るまで保留にせよ、ということ。何故なら、法が定めた宗教法人格の保有要件を教団が具えているか否かは、進行中の裁判で今後明らかになることだからだ。

ところが岸田氏は一昨年9月、教団と関わりのある複数の大臣を罷免し、自民議員にも教団との関係を絶たせた。が、当時も今も教団は宗教法人格を有しているし、自民議員にも信教の自由がある。しかも後付けで翌10月、文化庁に教団解散に向けた質問権行使を指示した。法治国家にあるまじきことだ。

山上容疑者が教団信者2世云々との警察リークに、共産党と全国弁連が飛びついて教団と安倍氏の関係を騒ぎ立て、左派各紙やワイドショーが連日煽ったことで、教団潰しの声が巷に溢れた。これに反応した岸田氏が前述の挙に出たのである。容疑者の安倍氏暗殺動機も今後の裁判で明らかになろう。

共産党がこれに飛びついたのは、教団を母体とする勝共連合(以下、勝共)潰し。勝共は60年代後半に教団創始者の文鮮明が作り、日本でも強固な反共の岸信介らがこれに呼応した。米国にも超党派でシンパがおり、共和党の元下院議長ギングリッジ氏が関連団体のUPI幹部と岸田総理を訪問していたのを、『朝日』が取り上げた。これに頬被りした岸田氏は党内に不満を醸したはずだ。

この案件では、表面的にはメディアに影響された多くの国民が岸田氏に快哉を叫んでいるようだ。が、共産党による勝共潰しと気付いている安倍氏の岩盤支持層には、岸田氏の安倍派潰しと映る。教団が嫌いか無関心な者にとっても、岸田氏の法治を無視したこうしたやり方を知れば、きっと眉を顰めるだろう。

LGBT理解増進法案件

2つ目は、23年6月に岸田氏が無理矢理成立させた「LGBT理解増進法」を廃棄し、実効ある具体策を推進せよ、ということ。同法は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性への国民の理解の増進」し、「国や自治体などにLGBTQへの理解を広げるための取り組みを求め、性の多様なあり方を互いに受け入れられる共生社会の実現を目指」したものとされる(『東京新聞』)。

だが、我が国は昔から性の多様性への理解が進んでいる。江戸時代以前のお小姓や陰間(かげま)にもそれを見ることができるし、今日でも、女性だか男性だか判らない女装のタレントが大勢TVメディアに出て市民権を得ていて、その様子を多くの国民が楽しんでいる。

岸田氏にこの法案を党内で唐突に纏めさせたのはバイデンの圧力だ。そしてバイデンに影響を与えたのは、その方面の教育家で博士と呼ばれる夫人のジル・バイデンである。岸田氏は23年4月17日、裕子夫人をバイデン夫人に会わせるべく渡米させ、二人はホワイトハウスで懇談した。

それを遡ること3週間前の3月26日、岸田氏はエマニュエル駐日米大使の表敬を受け、双方の夫人同伴で夕食を共にしていた。エマニュエル氏がLGBT法の成立を大いに寿いだのは周知のことだ。そして岸田夫人は一人でジル・バイデンに会いに行った。

次期駐日米大使は本当に日米同盟重視の表れと言えるか
外務省報道官は23日、バイデン政権から次期駐日米大使にラーム・エマニュエル前シカゴ市長が指名された人事について、同氏がオバマ元大統領の首席補佐官など要職を務め、バイデン大統領からも厚い信頼を得ているとし、「指名はバイデン政権の日米同盟重視の...

岸田氏は23年2月4日、この問題のオフレコ発言を報じられた秘書官の首を即座に切った。関連して、杉田水脈議員が民間人だった頃の発信が国会で追及されたことに起因して、政務官を辞めさせた。仲間を守らない岸田氏の冷淡さは、教団問題での大臣更迭や後の不記載問題での処分でも同様だ。

岸田総理の憲法への無定見と発言の浅慮を晒す更迭劇
「自分の一貫して定まった見識を欠いていること」を「無定見」というが、岸田総理による一連の更迭劇を見るにつけ、この総理には憲法(この場合は19条と20条)に関する定見が欠けていると思わざるを得ない。本稿の結論を先に言うなら、同性婚容認には憲法...

教団問題に加えてこの問題でも安倍派は打撃を受けた。岸田氏がゴリ押しさせた議員立法案の部会幹部を安倍派が占めていたこと、そして国会審議前日に維新・国民両党の案を萩生田政調会長に指示して丸呑みさせ、成立を図ったことで安倍氏の岩盤支持層が離反し、日本保守党結成に繋がった。

筆者は23年5月20日の拙稿にこう書いた。

仮に「廃案」になったとしても、既に地方公共団体や企業に浸透しつつある様々な活動に歯止めを掛けるための政策を、政府は急ぐ必要がある。何でも先進する米国では学校はおろか病院でも、人権団体が採点したスコアを公表して経営に影響を与えるなど、想像し難い事態に陥りつつあるからだ。

厚労省は23年6月30日、「公衆浴場の男女別は身体的特徴で判断を」と通知した本年6月13日には、自民議員有志の「女性を守る議連」が通知を立法化する立法案を策定し、各党議員に賛同を呼び掛けた。LBGT法の存廃に関わらず、この件に限らず学校現場などでも、こうした実効性のある判り易い立法が求められる。

政治資金の不記載問題

3つ目は、政治資金法改正は間違いだったと認めよ、ということ。19日に成立した改正法には、収支報告書不記載などで議員に連帯責任を問う仕組みや、パーティー券購入者の公開基準額の5万円超への引き下げなどが盛り込まれている。岸田氏としては党内の不満を抑え込んだ結果でもあり、褒められて当然との思いが内心にあろう。

だが、党内の例えば麻生副総理からは「将来に禍根を残すような改革だけはやってはいけない」と若手を懸念した反対論が出され、野党からは「抜け穴だらけのザル法」と批判されている。筆者は「不記載」、それも「故意の場合の厳罰化」の外は必要がない改正だと考えている。

この問題では「特捜が100人体制で捜査して起訴されなかった者は、『犯意』が立証できなかったということだ」と拙稿に書いた。「故意」か「うっかり」かの見分けは容易くないが、東京地検特捜部は数名の議員を、会計責任者と共に起訴した。この問題はこれで終わるはずだった。

犯意の有無を蔑ろにする岸田自民党の迷走
刑法上の「故意」について『世界大百科事典』(旧版)は大要次のように言及している。 刑法では、過失を処罰する特別な規定のない場合には、故意のないかぎり犯罪は成立しないので、故意の意義が重要な問題になる。刑法上の故意とは、犯罪を犯す意思(犯意...

そうはいかなかったのは『赤旗』や『朝日』が「裏金」と騒ぎ始めて、本来「不記載問題」とされるべき事件の呼称が「裏金問題」にすり替わったからだ。「裏金」には、派閥が決めたノルマ以上に売ったパー券の還流金を、当該議員が「政治資金以外に私的流用した」とのニュアンスが込められている。

が、そういう疑いがないからこそ、特捜は大半の議員を起訴しなかったのである。だのに岸田氏はこのことの弁明よりも、やれ派閥解消だのやれパーティー自粛だの、挙句政倫審に自ら出るだのと、安倍派議員約百人の大半がまるで不記載還流金を私(わたくし)したと認めるような挙に出た。

「裏金」という語が使われ始めた時点で、岸田氏が「還流金を私的に流用するような議員は我が党にはいない」と断言し、「不記載は法令に則って修正した」と主張して、爾後の取材にも同じ発言を繰り返していれば、この問題は疾うに終わっていた。つまり岸田氏が余計なことをしたばかりに、自民党、とりわけ安倍派議員は出口のない袋小路に入ってしまった。

政治資金と選挙の問題は古今東西で繰り返えされ、我が国でもその度に改正されて来た。20万円以下のパー券購入先の非公開も、購入側の思想信条の自由の保護とのギリギリの兼ね合いで決められた経緯がある。5万円以下にして政治が劣化し、国益が損なわれて、いずれまた改正が必要になるだろう。

筆者はいっそ公開上限を44百万円に引き上げて、その代わり政党交付金をやめたらどうか、と考えている。24年の交付金315億円余りは、衆議院465名・参議院248名を基準に政党に割り振られる。つまり一人当たり44百万円だ。

制度に反対して交付金を受け取っていない共産党を除いているから、実際の一人当たりの金額はもう少し多い。が、自分が支持していない政党に、自分の収めた税金からお金が交付されるのは間尺に合わないと考える向きも多いのではないか。

結語

だが現実は「3つの懺悔」など起きずに、小石河連合と称される一派から総理総裁が出る可能性が高い。が、そうなれば女性女系天皇が容認されて皇統を危うくし、反原発と反火力発電が進められる一方、再エネが促進されて電気代は高騰、森林は切り拓かれて太陽光発電パネルで覆い尽くされて、それこそ本当に日本が壊れてしまう。

が、もし「3つ懺悔」が起きて岸田氏が誰かに後を託すなら、後継総裁の自民党には安倍氏を支持した岩盤保守層が戻る可能性がある。その暁には、後継総裁候補として安倍派の有力者、例えば萩生田光一氏も、役職停止処分が白紙化されて名を連ねることになろう。

筆者が萩生田復権を希うのには訳がある。それは11月5日にトランプ大統領が誕生する可能性が極めて高いからだ。22年11月28日に東京タワーでの安倍晋三写真展で筆者は、ある1枚の写真に釘付けになった。トランプ氏を間に挟んで安倍氏と萩生田氏が楽しそうに談笑しているスナップだ。

小石河だ政権交替だと騒ぐ前に、「シンゾー」とまではいかないにしても、安倍氏亡き後の日本で誰がトランプと上手くやっていけるかを、もっと真剣に考えるべきではないか。その答えの一つをその1枚の写真が出していると、筆者は思うのだ。