『露朝新条約』の全容はこれだ!!

ロシアのプーチン大統領は19日、24年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩総書記と10時間に及ぶ協議を重ね、ロシアと北朝鮮両国の関係を新たに明記した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。全23条から成る新条約は、2000年にプーチン氏と故金正日総書記の間で締結された「友好善隣協力条約」から、1961年の相互軍事援助を明記した「軍事同盟」色の濃い内容に戻っている。

ロシアのプーチン大統領への歓迎会を開催する金正恩総書記(2024年6月19日、クレムリン公式サイトから)

当方は「露朝新条約」の全文を入手した。原文はロシア語と朝鮮語で記述されている。その朝鮮語版の条約内容を英語訳して新条約の全容を読んだ。新条約は全23条の項目からなる。タイトルは「朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦との包括的戦略的パートナーシップに関する条約」だ。

前文は「朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦(以下「締約国」とする)は、歴史的に確立された友好と協力の伝統を保持し、新たな時代の前向きな国家間関係を構築し、両国の国民の復興と幸福を促進するという共通の志向と願望に動機付けられている。両国間の包括的戦略的パートナーシップの発展が両国の国民の根本的な利益になり、地域および世界の平和と安全、安定の確保に寄与することを確信している」と記述し、「国際連合憲章およびその他の公認された国際法の原則と規範に忠実であることを確認している。覇権主義的な野心や一極的な世界秩序の押し付けに対抗し、国家間の誠実な協力、相互利益の尊重、国際問題の集団的解決、文化的・文明的多様性、国際関係における国際法の優位性に基づく多極的な国際システムの確立を目指し、共同の努力で人類の存在を脅かす恣意的な挑戦に対処することを確認している」と、新条約の意義を記している。

第1条は「締約国は、それぞれの法律および国際義務を考慮しつつ、国家主権の尊重および領土の不可侵性、内政不干渉、平等および国家間の友好関係および協力に関する国際法の他の原則に基づき、包括的な戦略的パートナーシップを永続的に維持し、発展させる」と述べ、第2条で「両国は、二国間関係および相互関心のある国際問題について、対話および交渉を通じて意見交換を行い、最高レベルの会談を含む国際舞台での共同支援および協力を強化する」と表明している。

新条約の主要項目の第3条と第4条で両国関係が軍事同盟であることが明記されている。

第3条「締約国は、地域および国際の平和と安全を確保するために協力する。いずれかの締約国に対する武力侵略行為の直接的な脅威が生じた場合、締約国は、いずれかの締約国の要請により、立場を調整し、脅威の排除に向けた協力のための具体的な措置について合意するため、遅滞なく二国間交渉のチャンネルを活性化する」

第4条「いずれかの締約国が一国または複数の国から武力侵攻を受け、戦争状態に置かれた場合、他方の締約国は、国際連合憲章第51条および朝鮮民主主義人民共和国およびロシア連邦の法律に従い、遅滞なくあらゆる手段で軍事的およびその他の支援を提供する」
(「露朝新条約」の第3条,第4条は、北大西洋条約機構=NATOの第5条(集団防衛)とほぼ同じ内容だ。)

Article 3

The Parties shall work hand in hand to ensure durable regional and international peace and security.

In the event of the creation of a direct threat of an act of armed aggression against either Party, the Parties shall, at the request of either Party, adjust their positions and activate the bilateral negotiating channels without delay for the purpose of agreeing on possible practical measures to provide cooperation in eliminating the threat created.

Article 4
In the event that either Party is armedly invaded by an individual State or States and is placed in a state of war, the other Party shall, without delay and in accordance with Article 51 of the Charter of the United Nations and the laws of the Democratic People’s Republic of Korea and the Russian Federation, provide military and other assistance by all means at its disposal.

第5条に入ると、「各締約国は、他方の締約国の主権および安全、領土の不可侵性、政治、社会、経済および文化の制度を自由に選択および発展させる権利、ならびに他方の締約国の他の重要な利益を侵害する第三国との協定を締結しないこと、およびそのような行動に参加しないことを約束する。いずれの締約国も、他方の締約国の主権、安全および領土の不可侵性を侵害する目的で第三国がその領土を利用することを許さない」と言及している。

第5条は国連安全保障理事会の対北朝鮮決議や欧州連合(EU)の対ロシア制裁などを暗に示唆し、ロシアと北朝鮮両国は締結国の権利を擁護し、それらに同意しないことを謳っている。第6条、第7条でその趣旨を明記。そして第8条で「防衛能力を強化するための共同措置を講じるための機関を設立する」と宣言している。

Article 5
Each Party undertakes not to enter into agreements with third countries and not to participate in actions that violate the sovereignty and security of the other Party, the inviolability of its territory, the right to freely choose and develop its political, social, economic and cultural institutions, and other vital interests of the other Party.

Neither Party shall permit any third State to utilize its territory for the purpose of violating the other Party’s sovereignty, security, and territorial inviolability.

第9条、第10条で「締約国は、食料およびエネルギーの安全保障、情報および通信技術の安全保障、気候変動、健康、供給チェーンなどの戦略的意義のある分野における増大する挑戦および脅威に共同で対処するために協力する」、「締約国は、貿易、経済、投資、科学技術の分野での協力の拡大および発展を促進する」、「締約国は、二国間貿易の量を増加させ、税関、金融および金融分野などの経済協力のための有利な条件を創出」「締約国は、宇宙、生物学、平和的な原子力エネルギー、人工知能、情報技術などの分野を含む科学技術の分野での交流および協力を発展させ、共同研究を積極的に奨励する」と記述され、第12条は「両国は、農業、教育、健康、体育、文化、観光などの分野での交流および協力を強化し、環境保護、自然災害の予防および災害後の対策に協力する」等々、明記している。

そのほか、国際テロリズムおよび過激主義、国際的な組織犯罪、人身売買、人質の取り、違法移民、不正な金融フロー、犯罪手段で得た収入の合法化(洗浄)、テロリズムの資金提供、大量破壊兵器(WMD)の拡散の資金提供、市民航空および海上航行の安全に対する脅威をもたらす違法な活動、物品、資金、金融手段、麻薬および向精神薬およびその原料、武器、文化的および歴史的な遺物の不正な流れなどの挑戦および脅威に対する闘いで相互に協力する(第17条)。

興味深い点は「締約国は、インターネット通信ネットワークの管理における国家の平等な権利を主張し、情報通信技術の誤用によって主権国家の尊厳およびイメージを損なうことおよびその主権権利を侵害することに反対する」と述べていることだ(第18条)。

そして第22条で「本条約は批准を受け、批准書の交換日に発効する。本条約の発効日から、2000年2月9日に採択された『朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦との間の友好、善隣および協力に関する条約』は失効する」と宣言し、第23条で「本条約は無期限に有効」とする。いずれかの締約国が本条約の効力を停止したい場合、他方の締約国に書面で通知する。本条約は、他方の締約国が書面通知を受け取った日から1年後に失効する。本条約は、2024年6月19日に平壌で、朝鮮語とロシア語の両方で2部作成され、両言語の文書は同等の効力を有する」と記述している。

最後に、「露朝新条約」を一読して感じることは、同条約がロシアと北朝鮮の軍事協力面を含むほぼ全分野を網羅した文字通り「包括的戦略パートナーシップ」だということだ。それゆえに、北朝鮮のこれまでの最大の同盟国・中国共産党政権が快く感じないのは当然かもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。