なぜレガシー事業は売却されるのか

レガシーは遺産のことだが、企業経営においては、負の遺産という表現のもとで、捨て去られるべき古い事業を指すことが多い。社会構造や技術条件が変化すれば、どこかの場所で何らかの新旧交代が生じて、何かが必ずレガシーになるわけである。

レガシーは直ちに無用、不要、有害となるのではなく、一定の時間をかけて徐々に滅んでいく。その間、収益を生み続け、費用が適切に管理されている限り、利益を生み続けるのだから、レガシーは、利益がなくなる時点までの将来利益の現在価値を基準として、その周辺の価格によって、売却され得る。

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レガシーは、それが売却され得る限り、売却する企業にとってはレガシーであっても、買収する企業にとってはレガシーではない。なぜなら、買収後に何らかの改善を行うことにより、買収価格よりも、事業価値を高め得るからである。実際、同業他社による買収であれば、規模の経済による効率化が生じるわけである。

そもそも、社会構造や技術条件等の経営環境の変化が連続的である限り、レガシーは発生しないのだから、どの企業においても、過去から承継した古いものを改善しつつ、未来に向けて小さな創造を積み重ねていくことは可能であり、事実として、それが企業と産業の成長の基本形であったわけである。

しかし、今や、ディスラプトという言葉が用いられるように、いたるところで、経営環境の変化が非連続になって断絶を生じつつある、即ち、レガシーを生みつつあるなかでは、一つの企業において、レガシーの価値を高めつつ、同時に全く新しいものの創造を行うことは、極めて困難になっている。

つまり、レガシーの価値を高める経営能力のもとでは、全く新しいものの創造はなされ得ず、全く新しいものを創造する経営能力のもとでは、レガシーの価値を高めることはできないのである。故に、レガシーは、売却されるのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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