米議会は再開するが、また来週も休会
上下院は休会を終えてワシントンに戻ってくるが、来週はまた休会に入る。その後、2週間だけ開催し、下院は8/2~、上院は8/3~から約1か月間の長期休暇に入る。夏期長期休暇から戻ってきたら、すぐに2025年年度予算のつなぎ予算を可決しなければならない。年度予算の期限は9月30日のため、何らかの対応が必要となる。
総選挙の年は、基本的にはつなぎ予算で対応する。11月の選挙で勝利した議員は、翌年1月2日(あるいは3日)に初登院して新たな会期がスタートする。それから年度予算を立法することが慣例となっている。当然遅れるし、いつになるかわからない。 その前に、下院議長選挙でひともめあるかもしれないが…。
ちなみに、下院議会は既に2025年の年度予算を一部可決しているが、上院は委員会でさえ何も可決していない※1)。
今週の下院の立法スケジュールをみると、年度予算に組み込まれる13法案の1つである立法府歳出予算法は9日に採決予定だ※2)。
また、今週はインフレ削減法の一部である省エネ政策を制限する法案の採決が予定されている。
- Refrigerator Freedom Act
- Stop Unaffordable Dishwasher Standards Act
これは、エネルギー長官が食器洗浄機・冷蔵庫の省エネ基準を規定または施行することを禁止するものだ。行政府がエネルギー効率を高める動きは、個人の選択の自由を妨げるとして下院共和党は反対している。
下院共和党で採決されても、民主党が多数党となっている上院で採決されることはないだろうが、2025年以降の動きとして注目しておきたい。
尚、上院のスケジュールは、判事や政府高官の承認のみが現在は公開されているが、シューマー上院院内総務次第でまた何か追加がくるだろう。
バイデン大統領に撤退を公式に要請した民主党議員は5名。非公式を含めても9名。
6月27日に行われたバイデン大統領とトランプ氏の大統領選討論会後の余波が続いている。バイデン大統領のパフォーマンスが悪かったことは、民主党議会指導部の議員も認めている。ペロシ元下院議長に至っては「悪いスタートになった」とまで発言した※3)。
7月6日時点で、バイデン大統領に撤退を公式に要請したのは5名の議員だ※4)。
現在の民主党下院議員の議席数は213議席、上院は民主党47議席(民主党と一緒に動く無所属議員が他に4名いる)。全体の議員数を考えると、撤退まで要請したのは少数だ。委員会のランキング・メンバー(その委員会で民主党トップを意味する)は1名しかいない。どこかのコーカスから集中的にでてきているわけではない。プログレッシブコーカスからの撤退要請がたった1名におさえられているのは、サンダース上院議員やジャヤパル議員(プログレッシブコーカス議長)が現在もバイデン大統領を支持しているからだろう。
1人目:Lloyd Doggett(D-Texas)
– Safe Climate Caucus
– House Sustainable Energy and Environment Coalition.
2人目:Mike Quigley(D-Ill.)
– House of Representatives Sustainable Energy & Environment Coalition
3人目:Raúl Grijalva(D-Ariz.)下院天然資源委員会ランキング・メンバー
– Congressional Progressive Caucus
– Congressional Hispanic Caucus
4人目:Seth Moulton(D-Mass.)
– New Democrat Coalition
5人目:Angie Craig(D-Minn.)
– New Democrat Coalition
– Congressional LGBT Equality Caucus
関係筋の情報としては、下院委員会の民主党ランキング・メンバー4名が非公式の電話会議でバイデン大統領は撤退したほうがいいとも発言していたと報道されている※5)。これが公式の発言なら、バイデン大統領にとっては危険信号となる。早くから支持を表明したジェフリーズ少数党下院院内総務もおさえきれなくなるかもしれない。
- Jerry Nadler(D-N.Y.) 下院司法委員会 ランキング・メンバー
- Mark Takano(D-Calif.) 退役軍人委員会 ランキング・メンバー
Congressional Progressive Caucus 副議長 - Joe Morelle(D-N.Y.)議事運営委員会 ランキング・メンバー
-Sustainable Energy and Environment Coalition - Adam Smith (D-Wash.) 軍事委員会 ランキング・メンバー
また、ワーナー上院議員(VA州)は、上院内でバイデン大統領を撤退させようと支持をとりつける動きをしはじめている※6)。
シューマー上院院内総務は既に支持表明をしているし、冷静になるよう民主党上院議員に呼びかけているが、もしかしたらシューマー上院院内総務が上院民主党議員からの反対意見をおさえきれない可能性もあるだろう。
民主党の主要支持団体
民主党の主要支持団体は、米労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)・全米黒人地位向上協会(NAACP)・環境擁護団体の3つをみておけばいいだろう。もちろん、もっと細かい支持団体はあるが、巨大組織はこの3つだろう。大統領選で勝ち抜くためには、これらの団体の支持がないと勝つことは極めて難しい。討論会後の7月3日時点で、AFL-CIOは改めてバイデン大統領・ハリス副大統領を支持するリリースをだした※7)。
次にNAACP。討論会中にトランプ氏が発言した「国境を越えてくる移民が、黒人とヒスパニックの雇用を奪っている」という発言に反発した。特に、”Black job.”という表現には、そんなものは存在しないと激しく反発している。
NAACPとしてはトランプ氏に強く反発しているのはわかるが、リリース文を読む限りはバイデン大統領を明確に支持表明したわけではない。黒人票が必要な候補者はこういう政策を掲げよとはっきり明記しているくらいだから、バイデン大統領でなくてもよいのだろう※8)。今週半ばの7/11~17から、NAACPは全国大会が開催されるので何かしら大統領選に関しての発言がでてくるだろう。
次に、環境擁護団体。 資源保全有権者連盟(League of Conservation Voters)の議長からはバイデン大統領の実績をたたえ、雇用を創出し、気候変動対策をどの政権よりも前進させてきた大統領だとして強く支持を表明した※9)。NRDC、Sierra Clubは特にプレスリリースを出していなかった。
バイデン大統領に撤退を促せるのは民主党議会指導部
民主党議員が公式にバイデン大統領に撤退を要請したり、トランプ氏に勝てないなど発言が出てきているが、バイデン大統領に撤退を促せるようなメンバーは決して多くない。議員4名+オバマ元大統領くらいだろう。特に上院議員を束ねるシューマー上院院内総務と黒人のベテラン議員であるクライバーン下院議員については撤退を促すうえでキーマンになると私はみている。
黒人で重鎮の下院議員であり下院民主党指導部の一人であるクライバーン下院議員も「バイデン大統領が撤退するようなら、ハリス副大統領を支持する」という踏み込んだ発言をした※10)。
- シューマー上院院内総務
- ジェフリーズ下院議員
- クライバーン下院議員
- ペロシ元下院議長
- オバマ元大統領
思い起こすと、2020年総選挙の時、当初から大口献金を受け入れていたバイデン大統領は小口献金しか受け入れないサンダース議員にさえ、2020年2月時点では献金額で負けていた(※11)。
2020年2月中旬までバイデン大統領は大口献金も小口献金も集められないくらい人気がなかった。2020年2月のIA州党員選挙では ブティジェッジ氏が勝利し、NH州ではサンダース議員が勝利したわけだ。
しかし、NH州でサンダース議員が勝利したあたりから、急に風向きが変わったのだ。バイデン大統領に大口献金が急激に集まり、スーパーチューズデーもバイデン大統領が勝利した。2月末のタイミングで、黒人に強い影響力をもつクライバーン下院議員がバイデン大統領を支持したタイミングでもあった※12)。
クライバーン下院議員の支持がなかったら、バイデン大統領は結束できなかった可能性さえある。それくらい重要な人物からの支持だった。黒人からの支持率が2020年と比較して落ちていることをふまえると、クライバーン下院議員からの支持がないとバイデン大統領にとって苦しい戦いとなる。もう既になっているが、負け戦といっても過言ではないだろう。
民主党議員内で力をもっている4名の議員以外にも、サンダース上院議員からの支持も欠かせない。サンダース議員が撤退を強く促すと、プログレッシブの議員が動いてしまうので民主党は間違いなく分裂する。幸い、7月7日時点でサンダース上院議員は「バイデン大統領はトランプ氏にまだ勝てる」と発言して支持を表明している※13)。
プログレッシブコーカス議員は、イスラエルとハマスの衝突についてバイデン政権の対応にも強く反対をしているし、バイデン政権の気候変動対策・学生ローン免除にも不満を強く抱いている。
2024年連邦議会選挙は、引き続き共和党が優勢
民主党議員は、バイデン大統領の悪いパフォーマンスで民主党にとって安全だった議席まで奪われるのではと危惧していることが報道されているが、上院も下院も共和党がリードしていてあまり変化はない。下院はゲリマンダリング(選挙区割り)でほぼ決まったし、上院は再選挙になる議員が少ない共和党は最初から有利なのだ。
The Hill/Decision Desk HQ’s の選挙予測では上院は80%の確率で共和党が勝利、下院も67%の確率で共和党が勝利となっている※14)。
大統領選はブルーウォール(PA州・WI州・MI州)次第ではあるが、連邦議会選挙では共和党が勝利することはほぼ間違いないといっていいだろう。
【参考資料】
※1)Appropriations Watch: FY 2025
※2)Weekly Schedule
※3)Pelosi on debate: ‘It was a bad night. It was a great presidency.’
※4)Fifth House Democrat calling for Biden to step aside
※5)Senior House Democrats say Biden should step aside during private call
※6)Warner building support among Democratic senators to push Biden out
※7)AFL-CIO Stands in Strong Solidarity With Biden-Harris Ticket
※8)NAACP Reflects on First 2024 Presidential Debate
※9)LCV VICTORY FUND STATEMENT ON FIRST PRESIDENTIAL DEBATE
MEMO: NEW AD FOR PRESIDENTIAL DEBATE AND WHAT WE WILL BE WATCHING FOR
※10)Clyburn says he’s for Harris ‘if Biden ain’t there’
※11)Totals from official FEC reports
※12)How Rep. James Clyburn, a South Carolina icon, helped Biden score his big comeback
※13)Sanders urges Biden to focus on economic policy amid age concerns
※14)2024 House Forecast and Predictions