いま、日本の図書館が新しい⑦:高知県梼原町「雲の上の図書館」

隈研吾さんの建築物が多く建つことで話題の町、高知県梼原(ゆすはら)町。町立図書館も隈研吾さんによって設計されています。

その名も「雲の上の図書館」。雲の上の町という梼原町のキャッチコピーから名づけられました。

黒壁に隈研吾作品の特徴である木製のルーバーが規則的に配置されて装飾されています。前面には芝生の庭があってとても開放的です。

「雲の上の図書館」はかつてここにあった小学校の跡地に建てられました。小学校は中学校と一体化した「梼原学園」として他の場所に移転しています。街の少し高くなっている場所にあるので街の中心部からもその姿を見ることができます。

それでは館内に入りましょう。この図書館の最初の特色がいきなりここに現れます。この図書館は靴を脱いで入ります。館内は梼原産の木材がふんだんに使われていますが、床の木のぬくもりを存分に感じてもらいたいという目的です。

館内に入り目に入るのは階段状に積み上げられた本棚は前回紹介した町内の棚田をイメージしています。屋根を飾る無数の組木はすべて町内産のスギで作られていて館内に木の香りが漂います。無数の組木と相まって森の中にいるかのような錯覚を感じさせます。もっとも上の段は「ゆすはらステージ」と呼ばれ、ここで音楽会や朗読会が開かれていて町の文化発信拠点となっています。

2階からエントランス方向を見下ろします。組木はもう目の前に。大きなガラス面沿いに閲覧コーナーがあって下校途中の小中学生が友達と立寄って本を読んだり宿題をしていました。これだけ明るくてきれいな図書館なら毎日ここにきて宿題したいですよね。

2階にあるのは一般書架。組木から漂う木の香りに囲まれながら本を探す至福のひととき。

ライブラリースペースと呼ばれる部屋の中は書架に囲まれた中に床に座って本を読める机が置かれています。寝転がることも可能でまるで自室にいるかのように寛ぐことができるスペースです。

ゆっくり本を読むことも、友達と語らうこともできるコミュニケーションラウンジ。

設計した隈研吾さんは森のような図書館の中に小さな空間を散りばめることで、リビングにいるような読書空間を設けたいと考えてこの図書館を設計されました。みごとにそのコンセプトを具現化していると感じます。

2018.5.26 開館の日にここを訪ねた隈さんのサイン。

本の陳列方法も工夫をしています。十進法は使わずそれぞれのエリアに自由に本棚を編集して本を集めました。梼原町は坂本龍馬が脱藩したときに通った町ということで、ゆすはらステージでは「脱」をテーマに本を並べています。こんな発想はほかではなかなかありませんね。

図書館でありながら体を使うことができるのはこの図書館の遊び心。ボルダリングを採用したのももしかしたら「脱」の方法の提案のひとつなのかも。じっと本を読んでいるのに疲れたらボルダリングで壁を登ってみませんか?

木の香り漂う「雲の上の図書館」は、梼原で生まれた木に囲まれてくつろぎながら文化的素養を高めることができる素晴らしい施設でした。これからも町民の方に愛され、文化の発信基地として存分にその機能を果たしてもらいたいと強く感じました。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。