経営者をサポートする士業と呼ばれる専門家がいます。難関資格を保有する専門家として尊敬を集める一方、同じ資格保有者でも仕事内容や方針、そして能力も当然異なります。
「実力ある士業というのは使い方によっては本当に重宝する人材なので、プロ士業との上手な付き合い方をお伝えしたいと思います。」
そう語るのは士業向けの経営コンサルタントで自身も士業(特定行政書士)である横須賀輝尚氏。同氏の著書『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』から、再構成してお届けします。
個人的には、もっと報われてほしい存在
士業は実力も人間性も本当に様々で、「士業」と一つにくくるのが難しいほどです。ただ、どの士業にもいえるのが、基本的には真面目で、いわゆるお硬いイメージはそのとおりでもあり、勉強熱心な人種です(そうでない方もいますけど)。
ある種、資格に騙されてしまった人たちでもあります(苦笑)。私もそうなんですが、行政書士を取れば人生バラ色だと思ってました。国家資格さえ取ってしまえば、収入も高いだろうし、いろんな人から尊敬されるだろうと思ってましたし、多くの士業がそう考えて資格を取ったはずです。
それがまさか資格を取っただけでは仕事がくるはずもなく、自ら営業もしなければなんて……と書いてしまうと世間知らずという感じがしてしまいますが、ある種それだけの思い込みで何年も受験勉強に没頭できるのですから、ピュアな人種であるとも言えます。
そうやって難関試験をくぐり抜け、力を発揮して世の中に貢献したい。真面目にそういった社会貢献を考えている人もいますし、正義の弁護士よろしくお金に執着がない人も多数。純粋に人の役に立ちたいと思っている人も多いのです。
もちろん、世の中は資本主義。経済は競争です。ですから、生き残れるかどうかは本人の努力次第ですので、当人たちは営業努力も重ねています。しかしながら、士業は営業させるより、勉強させた方が良いのです。そうして、彼ら彼女らの才能をつかって、あなたの会社を儲からせる。その結果、多くの士業の努力も報われるし、もっと報われる存在であってほしいと考えています。
あなたの代わりに、士業に学んでもらう
士業はやはり学習ということに関しては、飛び抜けて長けています。でも、あなたへの積極的な情報提供は、そもそも頭にない。基本的には「待ち」ですから、依頼をもとに粛々と仕事をする存在です。
ですから、あなたが主導権を持って、士業を使い倒す。そのくらいの認識で合っています。もっと要求すれば、もっと成果を上げてくれる。そういう存在です。
私もいち会社経営者なので、顧問弁護士、顧問社労士、顧問税理士がいます。私の目的としては、手続き関連と困った時の相談が最大の目的なので、低額の顧問料で都度別途報酬を支払うという方式を取っています。
でも、いつも聞き方としては「こんなことってお願いできますか?」「こういうことも相談していいですか?」と常に士業の枠を超えた相談をしています。ときに、顧問士業に驚かれることもありますが、それでいいのです。
もう、士業の業務の枠なんて考える必要はありません。何か関連したら、関連しなくても、近いと感じたら。士業に「できますか?」と聞いてしまいましょう。あなたの代わりに学んでもらい、あなたの代わりに調べてもらう。積極的な活用をお勧めします。
多少、重たいかなぁと感じても問題ありません。報酬が必要なら提案してもらえばいいし、そこは普通の商取引といきましょう。
頼みやすい伝え方としては、「○○の仕事って先生にお願いできますか? 報酬がかかる場合は、遠慮なくおっしゃってください」です。私はいつもこれだけ。もう今後、あなたが勉強する必要はありません。士業に学んでもらい、それを短時間で教えてもらえばいいのです。
報酬の値下げは誰も得をしない
私は士業専門のコンサルタントで、誰よりも士業の経営に詳しいという自負がありますが、個別士業の深いところまでは熟知していないため、私が運営している士業コミュニティ等を通じて取材をすることもあります。
その中で、経営者に対してメッセージはあるか?との質問に、多くの士業がこう答えました。
「報酬の値引きだけは、やめてほしい」
と。これは何も私が士業側だから、こういうメッセージを載せるわけでも、士業の支持を得たいから掲載するわけでもありません。そうではなく、実はこれが士業の仕事の質を下げる最大の要因なのです。
士業はもともと報酬規程があり、誰がやっても報酬額が決まっていました。もちろん、自由経済社会の中では、大変不自然です。そのため、現在は完全に自由になっています。
2000年以降、インターネットが普及し始めてから、それまで営業とは無縁の世界だったこの世界も、競争を強いられるようになり、マーケティングを知らなかった前世代の士業は、最悪の手段を取ってしまいます。それが「値下げ」です。
例えば、「0円設立」など、価格が暴落した会社設立手続きなどは、そもそも50万円とか60万円の報酬を得ても良い仕事でした(当時は「日当」とかもあったので、かなり報酬は高かったといえます)。
ところが、報酬が自由化してから、営業をしてこなかった士業は、仕事を取るために価格を次々と下げていったのです。まあ、これは士業が悪い。
その結果、先生と呼ばれる存在から業者扱いに近くなる士業も出てきて、より価格は下がっていきました。こうして、いまの相場感につながります。ですから、いまの価格はそもそも過去に比べてだいぶ安いのです。
士業の仕事はなかなか高度で、ミスも許されません。価格が下がったらといって、ミスが許されるようになるわけではなく、0円設立だとしても希望の設立日に登記できなかったら、誰だって激怒するでしょう。
価格が下がるということは、数をこなさなければならなくなるということで、ひとつひとつの品質は必ず下がります。そうなると、「調べる」「学ぶ」「考える」などの士業の良さが活かせなくなってしまうわけです。
ですから、もしあなたが士業に依頼するなら、報酬額にフォーカスするのではなく、結果に注目すべき。高い報酬を支払い、その報酬を超える結果を士業に出させる。そのためには、安い報酬ではなく、高い報酬を支払うべきです。
あなたが求める結果以上のものが出れば、報酬額が多少高くても良いでしょう? あなただって高い報酬をもらったら、きっと良い仕事をするはず。高い報酬をもらえたら、ゆとりをもって1件1件の仕事に集中できる。こうして士業を使い倒すべきなのです。
士業個人も、業界そのものも変わろうとしている
全般的に士業は遅れている業界です。やれITリテラシーがないだ、紙媒体でいつまでも仕事を続けているだ、様々な言われようです。
私が開業した2003年なんて、メールアドレスすらない士業がほとんどでした。いわんや、ホームページなんて持っていたら、「IT革命!」とか言われていたし、すごい時代だったなと思います。まあ、だから私はネット営業に特化したり、その業界の遅れがあったからこそ生き残れたとも言えますけど。
しかし、士業全体も、個人も変わろうとしています。LINEやSlack、ChatWorkでコミュニケーションが取れる事務所もスタンダードになってきました。Zoomだって使えます。まあ、この程度はほかの業界にしたらある種当たり前のことなのかもしれませんが、少しずつ士業も成長しています。
クラウドサービス、RPAなどを活用する事務所も徐々に増えてきました。マーケティング、経営、コミュニケーション。拡張性の高い個性のある士業も増えています。各士業の業界団体も、なんとか世の中のため、国民のためと思って改革を進めてます。
士業って、何のために存在するか、各業法で決められているんです。その多くの表現を総括すると、こんな感じで書いてあります。
・国民の利便に資する
と。結局は、自分のためでもあるんですけれど、利他精神の強い人たちなんです。ですから、うまく使ってやってください。あなたが積極的になればなるほど、ポテンシャルを発揮します。そして、プロ士業を上手く活用すれば、あなたもきっと思うでしょう。
「士業はもっと評価されるべき」と。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年6月27日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。