医師はなぜ謝れないのか?知念実希人氏の名誉毀損裁判が示す現実

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こんにちは、医師・医療経済ジャーナリストの森田です。

医師で作家の知念実希人氏が「名誉毀損」で訴えられ敗訴した裁判をご存知でしょうか?

事件の顛末はこう。

新型コロナウイルスのワクチン死亡遺族を支援する鵜川和久氏が、死因欄に「ワクチン接種」が記載された死亡診断書(死体検案書)をX上で公開。

医師でもある知念氏はこれを「完全に偽造ですね、恥を知るべき」などと投稿。

鵜川氏がこれに対し「これは本物、誹謗中傷で訴える」と投稿。

知念氏「裁判上等、その経過を文春・新潮で報告しま〜す!」

実際に訴えられると知念氏は裁判で
・死体検案書が本物であることを自ら認め
・和解金を2倍出すから、そのかわり謝罪したことは公開しないで!
と申し出る。

鵜川氏側は瞬殺で拒否し、結果知念氏は敗訴。

鵜川氏川の弁護士(青山まさゆき弁護士)がその全経過をX上で公開。

知念氏、Xでブロック祭りを展開。

詳細はこちら↓

作家の知念実希人氏に110万円の損害賠償を命令 NPO理事長への名誉毀損投稿で

というなんともツッコミどころ満載なトホホな展開なのですが…。

ま、諸々のツッコミは置いておきまして、今回の件で考察すべき最も根本的な部分、「知念医師はなぜ公式に謝れなかったのか?」というところを考えてみたいと思います。

というのも、今回の件でこの死体検案書を「偽造」と揶揄したのは知念医師だけではないのです。
多くの医師たちが、ネット上でこの件に触れ、とか「誤字がある」とか「私文書偽造の罪は重い」などと発言していたのです。

そして、裁判にてこの死体検案書が「本物」と判明した今、それでも知念氏を含め、多くの医師がそれについて謝罪をしていません。

知念氏などは、「和解金を2倍出すから、そのかわり謝罪したことは公開しないで!」とまで言っています。

では、なぜ医師は謝罪ができないのでしょう?

医師はなぜ謝れないのか?

実は、患者さんが医療訴訟で医師を訴えると、医師は弁護士から「謝ってはいけない」と言われることが多いのです。

医療の現場では一定の確率で予測不能の不幸な結果が発生してしまうことがあります。それは「仕方ないこと」であって「医師の過失ではない」。だから、裁判で明確な判断が出るまではなるべく謝罪せず、「あの時は仕方なかった」と主張することが重要。

そういうことを弁護士から言われるのです。

まあ、法律の世界観だとそうなのかもしれませんが…。何か納得いきませんね。

だって、それなら、被害者側がカルテや論文など明確な証拠を揃えて「医師の過失」だったことを証明しなければなりません。医療のプロである医師に対して、訴える側は多くの場合医療の素人なのですから、しかもカルテなどの情報を握っているのは医師の側ですから…

結果として、医療の現場で何か問題が起こったとき、医師からの謝罪は基本的に期待できない。ということになります。

つまり、医師にとって「謝罪」は通常やってはいけないこと。仮にするとしても、極めて稀な、特別な事件なのです。

知念氏が「謝罪したことは公開するな」、と申し出た背景にもこのような事情があると思われます。

その他の医師たちが謝罪せずにやり過ごしている(アカウントを削除して逃亡した医師もいます…)のも同じような背景があるのでしょう。

医師も謝罪すべき

でも、僕も医師なので医師としてはっきりいわせていただきたい。

「医師は、医師である前に人である。だから医師も間違うことはある。間違えたら謝る。人としてそれくらいはしろ!」

と。

特に今回の件は、明らかに「本物」の死体検案書だったわけですからそれについて「偽造」などと言っていた人に弁解の余地はありません。そのときに鵜川さんたちを揶揄していた医療従事者は全員、真摯に「謝罪」すべきです。

だって、死体検案書が「本物」だったということは、被害を受けられて亡くなられた方が実際におられるということであり、その方のご家族もおられるということです。失意のうちに亡くなられた御本人や、悲しみにくれているご家族にとって、医師が大挙して「偽造」「捏造」だなんて言ってくるなんて耐えられないことです。

せめて「謝罪」するのが人として当然であり、医師として最低限やるべきことだと思います。