バイデン大統領が、大統領選から撤退することを決め、副大統領のカマラ・ハリス氏が、民主党の大統領候補となることが確実となった。
集めてしまった選挙資金の活用等の事情から、今バイデン氏が撤退するのであれば、ハリス氏以外の候補では現実的選択肢にならない。しかし、それはそれとして、一つ思い至ることがある。
米国民主党の大統領は法律家ばかりだ、ということだ。
ハリス氏はロースクールを出てサンフランシスコ検事局に勤め始めてから、上院議員になる直前のカリフォルニア州司法長官のポストまで、30年近く司法畑でキャリアを伸ばした。
バイデン大統領もロースクール卒の弁護士だ。オバマ大統領もロースクール卒の弁護士だ。クリントン大統領もロースクール卒の弁護士だ。ついでに補足すると、2000年の大統領選挙で敗退した民主党候補アル・ゴア氏は、ロースクールを中退して上院議員だった父の地盤を活かして下院議員になった人物であった。
2004年の大統領選挙で敗退した民主党候補ジョン・ケリー氏は、軍役の後、ロースクールに入り直して検察官から弁護士になった法律家だった。2016年の大統領選挙で敗退したヒラリー・クリントン氏が、夫と同様に、ロースクール卒の弁護士であることは言うまでもない。
このようにして見ると、米国民主党の候補者は、徹底して、法律家である。せいぜい政治家としてのキャリアで、州知事をへたか、上院議員をへたか、といった違いがあるだけだ(もちろんそれはそれで重要な違いではあるが)。
この事実は、アメリカにおいて、法律家が政治家輩出の有力な登竜門であることを意味しているだけかもしれない。下院議員の30%、上院議員の51%が、法律の学位を持っているという。その割合は民主党が強い北東部の州選出の議員ではさらに高い。
Membership of the 118th Congress: A Profile(CRS REPORT)
だがアメリカの大統領は、厳格な三権分立体制の下での行政府の長であるので、本来は法律家であるべき要素は相対的には低いはずだ。大統領任命の行政府のスタッフも同様だ。そこは議院内閣制で立法府の議員と重ねて内閣の構成員が形成される場合とは違う。
率直に言って、民主党の大統領候補がことごとく法律家であるという事実は、民主党が「ポリコレ」政党になっているという印象を補強する。良く言えば、原則的である。悪く言えば、綺麗ごとを並べ立てるが結果に責任をとらない。
この点は、実業家から突然政治家になったトランプ前大統領とは、明確な対比をなす。副大統領候補のヴァンス氏も弁護士資格を持つが、上院議員に当選する前に、実業家としてキャリアを成功させている点が、一連の民主党候補群と異なっている点である。ちなみに前の共和党選出の大統領であったジョージ・W・ブッシュ氏も、実業家出身だった。
こうした経緯から、民主党候補の方が、一般に学者・評論家層に受けがいい。他方、経済問題を重視する者は、共和党候補に親和的だ。
一般に分断したアメリカと言われるが、それはあくまで「右」と「左」のイデオロギー対立を軸にして位置づけを評価しようとしたときの見方だ。北東部中産階級は民主党の基盤で、労働者と富裕層が共和党の基盤だとも言える。21世紀の格差社会の一つの現実だ。
■