パリから北西へ80km弱、ノルマンディ地方のジヴェルニー。この村の名を耳にすれば、アート愛好家はすぐに、画家クロード・モネを頭に浮かべるだろう。印象派の巨匠は生涯の後半生を、風光明媚なこの小さな村で過ごした。
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モネの庭。
睡蓮が咲き乱れる池がある、”睡蓮の庭”
compuinfoto/iStock
美術館になっている「クロード・モネの家と庭」。ピンクとグリーンに彩られたかわいらしい邸宅の前には広大な庭が広がり、四季折々の花が色鮮やかに咲き乱れる。庭の奥の地下道を抜けた先には、紅や白の花を咲かせる睡蓮が咲き乱れる池を中心に深い緑の色彩が美しい睡蓮の庭。世界中の美術館で我々が眼にするモネの作品の多くが、この二つの庭で描かれたものだ。
その集大成が、パリの「オランジュリー美術館」が所蔵する8枚からなる睡蓮の連作。2つのサロンの壁一面を覆う連作に包まれるときの感動は唯一無二。そして、この感動を日本画で表現した画家がいる。日本画の大家、平松礼二だ。
ジヴェルニーには、「クロード・モネの家と庭」の他に、充実した企画展で人気の「ジヴェルニー印象派美術館」がある。ここで、7月12日から11月3日まで、”平松礼二展 睡蓮交響曲”が開催されている。
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「ジヴェルニー印象派美術館」。美しく造園された庭も魅力的。
「クロード・モネの家と庭」まで歩いて2〜3分。
©︎Manemos – Gilles de Caevel
「ジヴェルニー印象派美術館」は、2013年にも平松芸術の大規模展覧会を開催して大好評を博し、これを機に、屏風画をはじめとする作品を70点所蔵している。
今回のテーマは、名前通り”睡蓮”。平松が1994年に初めて実物を眼にして啓示を受けた「オランジュリー美術館」の睡蓮連作や、実際にそのほとりに立った睡蓮の庭で得たインスピレーションを、日本画という伝統手法で壮麗に鮮やかに描きだした作品群が、美術館の展示室を飾る。
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”平松礼二展 睡蓮交響曲”の展示。
「オランジュリー美術館」
©︎Olivier Martin Gambier
中心となるのは14点の屏風画。池の青と睡蓮の葉の緑の色彩のコントラストや平面性の魅力を活かした独特のデザインの連作が、力強く鮮やかに来場者の視線を魅了する。
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”平松礼二展 睡蓮交響曲”の展示。
ベンチに座ってゆっくり作品と向き合える。
©︎Olivier Martin Gambier
圧巻は、睡蓮の庭を彩る季節を描いた4点の六曲一隻。池に散る桜の花びらと睡蓮が溶けあう花筏のような春と、色濃い紅葉と睡蓮が織りなす秋が一双となり、観るものの心に深く染み入る。そのそばには、燃えるような秋の水面の反映、そして池を照らす煌めく太陽の光を見事に映し取った夏の輝き。
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”平松礼二展 睡蓮交響曲”の展示。
シンプルな空間に色彩が映える。
©︎Olivier Martin Gambier
「オランジュリー美術館」の最初のサロンの壁を覆うモネの4作品が、睡蓮の庭の時間を写したものであるならば、平松のこの4作品は、この庭の季節の再現。日本画の巨匠から印象派の巨匠へのアンサーソングならぬアンサーピクチャーのようで、その類稀な共鳴に感動を覚える。
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”平松礼二展 睡蓮交響曲”の展示。
ノルマンディ地方の風景を睡蓮モチーフに重ねたデザイン。
©︎Olivier Martin Gambier
浮世絵などの日本芸術から強い影響を受けた印象派。その代表であるモネの睡蓮に感動し、日本画という手法を通して再現した平松作品は、日本の美意識が印象派の魅力をまとった上で再び日本に回帰したもの。常にジヴェルニーを夢見ている、という平松の想いが強く宿った展覧会は、この美しき村とモネへの素晴らしいオマージュだ。
会期中、フランスに行く機会があれば、是非ともジヴェルニーまで足を伸ばし、平松礼二の想いと、その想いの対象であるクロード・モネの睡蓮の池を、観てほしい。唯一無二の感動を味わえるだろう。
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Musée des impressionnismes Giverny
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