マクロン大統領の「夏休み」:フランス化する世界

パリ五輪が開催されているこのひと時はマクロン大統領にとって日々の頭痛の種を少しでも忘れられる「夏休み」なのでしょう。毎年バカンスで訪れるブレガンソンで真の意味での夏休みを過ごしています。パリ五輪には閉幕式に戻ってくるほか、場合によりフランス選手激励のため、パリと行き来をする予定になっています。

パリ夏季五輪大会 マクロン大統領インスタグラムよ

そのマクロン氏、地中海に面したヴァール海岸で何を見つめるのでしょうか?国民議会(下院議会)の選挙を一か八かでやってみたものの宿敵極右のルペン氏を抑えることに成功したもののそのために工作した左派連合が議席数トップとなり、彼らの声を聞かざるを得なくなりました。一方、左派は「連合」であってその中身は寄せ集め。つまり、中道のマクロン氏の路線とは一線を画すものの中身はバラバラ。わかりやすい例えで言えば立憲と共産を足すとわかりにくくなるのと同じです。それこそマクロン氏が戦ってきた年金支給年齢引き上げにも左派連合の一派「不屈のフランス」政党はそれに猛反対をしています。

マクロン氏が選挙戦に打って出た理由の直接的引き金がEU議会の選挙で右派が大躍進したことで国内政治への動揺を抑えるためでありました。その点においては解散総選挙をした効果はあったのですが、毒を以て毒を制するはずが制するどころか、余計混乱をきたしてしまった、これが実態だろうと思います。

事実、いまだに首相が決められません。フランスでは大統領が首相を指名するので極端な話、マクロン氏が思う人を指名できるので、自身の所属する政権与党「ルネッサンス」から出すことも可能です。しかし当然ながらそうなれば第一党である左派連合からは大バッシングとなるのですが、その左派連合も寄せ集めで統一された思想があるわけではありません。正に戦国時代、何が何だかさっぱりわからないというのが正直なところであります。

マクロン氏の内憂外患とは自身の支持率が30%台で低迷し、国の結束力という点でばらけ気味であること、及びEUにおけるフランスの立場とフランスの財政赤字にどう対応するかであります。特に後者に関してはいまだ行方知らずのウクライナ問題、更にはEUの下半期議長がハンガリーのオルバン氏でありますが、EUの異端児でEU首脳の誰もがそっぽを向いている中、EUの盟主フランスが本来であればリーダーシップをとらねばならないところ、EU議会は右派、国内は左派で極めて難しいかじ取りが求められているのです。

ふと思い出したのが今から230年ちょっと前に起きたフランス革命。何時から何時までかというのは研究者によって違うのですが、私は1787年から1799年という広めの期間を支持しています。フランス革命で勝ち取ったのは王政を崩壊させたことですが、この革命の10数年間は国内は異常な事態でありました。私の理解では議会運営が始まったものの、それは形式的で民主化の「孵化期」であり、勝者である政党による独裁で恐怖政治が行われ、民衆が蜂起し虐殺の連続であり、その野蛮さという点では中国の文化大革命に通じるものがあります。英国や日本の歴史でも無謀さ、野蛮さという点では比較対象がほとんどないと思います。

フランスが難しい国であるのは徹底した個人主義の国だからであり、ルールはあってないようなものとまではいわないまでも自由奔放で一体感が醸成されない国だからなのでしょう。

「バラバラになる世界」という点については過去、何度かこのブログで意見させていただきました。個人的にはフランスだけが特異な状況にあるというより現代社会において人々の結束力は歪みがより大きくなり、分裂化する傾向にあるのは世界どこでも同じだろうと感じています。たまたまフランスは極端でわかりやすい道筋を歩んでいるためマクロン氏の苦悩としてとらえることができますが、日本でもそれは本質的にはほぼ同じ状況にあります。

また政権与党に対する風当たりはかつて以上に吹き荒れ、極端な思想を振りかざす人たちも以前にもまして目立つようになっています。日本でもあとひと月もすれば自民党総裁選の話題で盛り上がるはずですが、はっきり断言できることは誰が首相なっても支持率はさほど上がらないし、政権運営はそれ以上に難しくなります。世の中が変質化した、それが私のみる世界で、どの国にもみられる政権運営であり、穏やかな海を航海するような世界ではないことは確かでしょう。

我々はどこに向かうのか、まずはマクロン大統領がお手本を示してくれるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月5日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。