長崎市が平和記念式典でイスラエルに招待状を送らなかったとして西側主要国が式典に大使級の参加者を送らないという事態がありました。長崎市長は「不測の事態に備える」としたのですが、個人的にはその言葉には真意がないと思います。多分ですが、一線を越え一般人を数多く巻き込んだガザ攻撃を行う卑劣な行為をする国に鎮魂の行事参加はふさわしくない相手であると考えたのでしょう。
ただ長崎市はパレスチナは招待したという事実において「政治的意図はない」という主張に対して「そうですか」と理解する外交筋はほとんどないのでしょう。つまり片方に肩入れすることが政治的結果を生むのであり、長崎市が純粋に平和を祈念するのであれば両国とも呼ぶべきだった、そう思います。「不測の事態」が可能性として考えられるならできる限りの防御線を張っておく、これが平和祈念式典のようなイベントにはふさわしい判断であったと思います。
世界は以前から分断化傾向があります。最近ではグローバルサウスが力をつけてきて第三極という見方も出てきています。米中の関係が目先改善するとは思えず、世界の二大大国がにらみ合いを続ける限りにおいてきっかけがあれば分断化が促進されることは目に見えています。
特に欧米による経済制裁で苦しむ中国、ロシア、イラン、北朝鮮などは経済を廻すために国家間の連携強化は当然の対策であり、BRICSの加盟申請が急増していることもその表れの一つであります。
2000年代初頭に始まったブラジル、ロシア、インド、中国を総称してBRICsと小文字のsだったものが南アフリカが加わったことで大文字のSに進化、その後、イランを含む中東諸国が続々加盟し、その波はトルコや東南アジア諸国にまで広がりを見せています。人口比や地域比でみれば西側連合を凌駕する勢いであります。
その本意はどこにあるかといえば各国各様の理由によるアメリカ嫌いだとみてます。個人的に感じるのはアメリカ主導に対する嫌悪感でしょうか?それは「自分たちも中進国として経済的な成長を遂げている」という自負の芽生えともいえるかもしれません。言い換えると経済のグローバル化が生み出した副産物であります。
自分の子供が中学生ぐらいまでは従順だったのが高校になって突然反抗期を迎え、大学で一人住まいし就職する頃になれば親の顔は年に一度しか見ない話と似たようなものです。
イスラエルに対してイランの報復はいつ起きてもおかしくない状況。それに対してアメリカはイスラエルを支援するべく準備をしています。
報復合戦は継続的な戦争となるわけですが、その相手は誰なのか、イラン本体なのか、ヒスボラなのか、あるいはもっと多面的な攻撃なのか作戦の手の内は見えません。しかし、それで最後の一線を超える可能性は高まるし、それがアメリカ世論にどのような影響を与えるか計り知れないのです。いかんせん、民主党出身の現大統領が指示を出す話であり、トランプ氏は「俺は責任ないし…」とほくそ笑んでいるのですから。
ではなぜこのような泥沼になっているかといえばネタニヤフ首相の策略であります。よくある手法なのですが、物事をくちゃくちゃにしてしまい、関係者をそこから抜け出せなくするやり方です。実はそっくり同じなのがゼレンスキー氏で、戦争が始まってすぐ同氏は世界に声を出し、支援を求め、ロシアがどれぐらい卑劣かを訴え続けました。そして今般ロシア領内に進撃し、成功を収めているとメッセージを送っています。
これに各国政府が乗るのか、静観するのかであります。ウクライナの場合は静観以上の何物でもないはずです。欧米は後方支援すらしないでしょう。ですが、イスラエルとなるとアメリカは支援せざるを得ません。相手はもともと経済制裁をしていたイランと実質的に舎弟であるヒスボラであり、「やる気か?」とリング外で脅しをかける構図です。
イスラエルにしろ、ウクライナにしろ戦況が新展開入りしつつある中、この二つの戦争が引き起こす世界の分断化が強烈な副作用をもたらすことはほぼ確実です。地球儀ベースでの二極化ないし多極化が起こると同時に反グローバル化が起こり、世界経済のシュリンクには要注意だと考えます。
それでも商品の流通ぐらいならどうにかやりくりできますが、私が最大の懸念を持つのが基軸通貨ドルの陰です。アメリカが借金大国なのは基軸通貨ドルのおかげという話は80年代からあるのですが、経済が良好だとついその話が忘れ去られます。
(アメリカ)ー(基軸通貨)=(普通の国)という方程式は学校では習わないけれど重要な公式のはずです。
私は何度か指摘してきたと思いますが、パクスアメリカーナが引き起こした世界の地殻変動が今、表面化しつつある、これが端的な表現だと考えています。世界の動きから目を離せません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月14日の記事より転載させていただきました。