上席コンサルタント 山本裕輝
今回は360度評価について解説します。
そもそも評価は誰が誰にするものでしょうか?会社においては上司が部下に対して評価をするものです。では、なぜ上司は部下に評価できるのでしょうか?これを考えるにあたっては『責任と権限』を理解しなければいけません。
上司と部下の関係性とは?
上司と部下という関係性は責任の大きさによって決まります。
部下の責任をカバーする立場にいるので上司という事になります。部下が問題やエラーを起こした際に、上司はその責任をカバーする立場にいます。部下が問題やエラーを起こさないように、ルールを決めたり、指示を出したりする権限を使えるわけです。更には、部下が自分の責任を果たせたかどうかに対して、上司は評価するという権限を使うことが出来ます。
この『責任と権限』つまり、責任を負う立場の人が物事を決める権利を持っている、という事を正しく理解しているならば、上司は部下を評価できるが、部下は上司を評価できないということがわかるはずです。
360度評価とは?
では360度評価とは一体何でしょうか? 文字通り、上司や部下だけでなく同僚を含むさまざまな立場の関係者が従業員を評価する評価方法です。一見、様々な人から評価を得られるため自分を知るにはよい機会だとメリットに捉えた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、直属の上司のみならず、他部署の上司や同僚、部下からどのような人として見られているのかを知ることは重要です。
しかし、先ほどの『責任と権限』の話に戻りましょう。責任がないのに評価をする権限を持っている状態になると、次のような不具合が起こります。
例えば、
- 上司が気に食わない、自分には合わないので低い評価をつける。
- 誰にどのような評価をつけようが自分には関係がないので、何も考えずに一律同じ評価をする。
- 同僚同士で高い評価をつけあう。
といったように、正しい評価がなされません。
また、部下が上司を評価するとなれば、上司は責任をカバーする立場でありながら、部下に気を使い、遠慮をしてしまい指示命令ができなくなります。そうなると本来の上司としての役割を果たしづらくなります。
部下を成長させるためのルール設定や指示において、部下の顔色を伺ったり、嫌われたらどうしようという余計な心配事も増えます。
360度評価の使い方とは?
360度評価のメリットを正しく理解しましょう。何も360度評価が全てNGだと言いたいわけではありません。仕事をする上で、自身が周りからどのように見られているかを知ることは大事です。自分自身では気づきにくい強みや弱みを、他者からの評価によって把握することは重要です。
仮に360度評価を使うのであれば、最低でも評価する項目を定めておきましょう。評価する人の主観で判断しては360度評価自体も意味をなさなくなります。
内容としては下記のような項目です。
「職場のルールやマナーを守れている」
「相手を不快にさせるような言葉遣いをしていない」
「意見の異なる同僚に対して否定から入らずに会話が出来ている」
「コミュニケーションを取るにあたってわかりやすい言葉で説明している」
なお、本人にしかわからないような判断が難しい項目はNGです。
「モチベーションを持って業務に取り組んでいる」
「責任感を持って業務に取り組んでいる」
「仕事を通じて新しい知識を身に付けている」
「新しいことにチャレンジしている」
せめて〇、✕で判断できる項目を評価項目に設定しなければいけません。
改めてですが、360度評価を取り入れる場合には、あくまでも自己分析としてのツールとして取り入れてください。自分自身が出来ていると捉えている事と、他社から見て出来ていないと捉えている事のすり合わせ程度にしておくことです。ましてや360度評価によってその人のお給料や待遇面が変わってしまうことはNGです。
大前提、結果で評価をすること
360度評価の大半がその人の働きぶりや勤務態度を評価する内容になっています。では、働きぶりや勤務態度が良くても、役割を果たせていない人、結果が出ていない人を高く評価しても良いでしょうか?
答えはNOです。いくら頑張っているからと言って、その人の勤務態度つまり頑張りで評価をしてはいけません。
もし頑張りで評価をしてしまうと、結果が出せない人ほど自分を良く見せるといった『アピール上手』に走ります。また自分が果たさなければいけない業務を差し置いて他人のサポートを優先するなど、結果ではなく周りから頑張っていると思われるような行動に注力し始めます。
仲良しこよしで成果が出ない組織
結果を追い求める集団ではなくアピール上手な集団になってしまっては、その会社はどうなりますか?間違いなく生産性は落ち、倒産に向かうことになります。一見、働いている従業員同氏は仲が良く、助け合いが当たり前で良い雰囲気に見えることもあるでしょう。
360度評価の弊害はここにも存在します。頑張っている姿を見てもらいたいが故に、周りから高い評価をもらいたいがゆえに、明確なルールも設けず、果たすべき責任の範囲もあいまいにし、皆が一定の評価をもらえる状態を作る方向に走ってしまうと会社はおしまいです。
まとめ
いかがでしょうか? 360度評価によって様々な人からの評価がもらえるものと、メリットばかりに目が向いていませんでしょうか。
改めてですが自己分析としてのツールであれば活用するメリットはあります。しかし実はデメリットの方が多いため、これから評価制度を取り入れることを考えている企業の方々はお勧めしません。また既に360度評価を取り入れている企業がいらっしゃれば、最低でも評価する項目を見直すか、むしろ撤廃することを強くお勧めします。
会社や組織運営において評価制度自体は無くてはならないものです。しかし、使い方を間違えるとデメリットにもなりえるということをご理解いただけたのではないでしょうか?
正しい評価制度とはなにか、評価制度の原理原則とはなにか、を知りたい方は、ぜひ識学社にお問い合わせください。