独立開業に成功した士業が、資格取得後にやっていたこと(横須賀 輝尚)

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大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。

無計画での独立開業は、勇気ある行動ではない

Q:資格試験に合格したので、すぐに会社を辞めて独立開業したいです。アドバイスをください。

これまで法律系ではない企業で、総務や人事を担当する職に就いていましたが、昨年行政書士の資格を取得しました。今の会社の給料は決して悪くないのですが、ストレスの溜まる職場で、すぐにでも辞めて独立開業したいと考えていますが、安直でしょうか? アドバイスをお願いします。

資格を取ったらすぐに独立起業したいという気持ちは非常にわかります。私自身もやりたいことに関しては即行動というタイプなので、やろうと決めたらすぐにでも動きたくなってしまいます。ただし、「急いては事をし損じる」という言葉にあるように、少し冷静に展望を考えてみましょう。

まず、資格を持っていればそれだけで独立開業できる資格と、一定の条件を満たさない限り独立開業できない資格があります。前者で代表的なのが行政書士や司法書士です。そして後者を代表する資格が、税理士と社会保険労務士です。

たとえば、税理士は2年以上の経理業務経験あるいは税理士事務所勤務などが開業の条件になっていますし、社会保険労務士も税理士と同じく社会保険労務士事務所に2年以上勤務するか、厚生労働大臣が指定する「事務指定講習」なるものを受講することが条件になっています。

このように、資格によっては試験に合格したとしても、すぐに独立開業ができない資格もあります。本来、その点を考慮してから資格取得から検討する必要があるのです。

では、開業の要件を満たしているという前提で「今すぐ」の独立起業の是非を問えば、多くの場合は時期尚早といえます。

なぜなら、資格を取得し、開業できる要件は揃っていたとしても、それが同時に経営を成立させる根拠にはなっていないからです。つまり、仮に開業条件を満たしたということは「自分の商売を決めた」ことと同じなのです。他業種でたとえるなら、カフェを開く、デザイナー業を始めると決めたに過ぎないということになります。

私はこれまで1,000名を超える士業の方から相談を受けてきました。そして、その中で「食えない」人たちは口を揃えて「経営や営業の準備不足だった」といいます。すなわち、資格を取って開業することで、仕事は取れるものと思い込んでいた、ということです。では、成功している人はどのような手順を踏んで開業したのか考えてみましょう。

知識を蓄え、段階的に開業しよう

士業で失敗するパターンは、経営と営業の知識や経験をまったく持たずに開業し、仕事が取れないというものです。

逆にいえば、成功する人のほとんどが、経営や営業経験を持っているか、もしくは開業前に必死に勉強しています。市販されている士業の開業本や独立起業を指南する本のなかには、「勉強する暇があれば、すぐに独立開業しろ。経験がもっとも勉強になる」というものもあります。「経験がもっとも勉強になる」という後者には同意しますが、私の経験上、知識なき経験は非効率です。

成功する士業の形のひとつとしては、開業前にひと通りビジネスについて書籍、セミナーなどで勉強し、自分なりのプランを考えてから開業するというものがあります。もちろん、所詮は机上の空論であり、うまくいかないことも多いでしょう。しかし、知識的な土壌ができているため、ビジネスの修正スピードは知識がない場合にくらべはるかに早いといえます。

私の場合は、会社をリストラされたという事情でやむなく独立開業しながら、必死で経営の勉強をしました。最初は実践と知識の違いに戸惑いましたが、名刺の作り方、チラシの作り方などを学ぶことがなければ、収入が1,000万円を超えるまで倍以上の時間がかかったのではないか思うほどです。

このように、半年から1年くらいは経営や営業などの勉強をする準備期間に充てるのが本来はちょうどよいといえます。知識的な武装をし、そして独立開業した人は比較的成功率は高いといえます。したがって、ひとつの成功パターンは「受験→合格→経営の勉強→プランニング→独立開業」という流れになります。

そして、できることならば会社に勤めながら週末起業的に仕事を始めてしまうのがベストです。週末起業とは、平日は会社に勤務しながら早朝や夜間、そして週末にフリーで仕事を行うことです。もちろん、フルタイムにこだわる必要もありません。週3回程度はアルバイトなどで収入を得ながら、徐々に仕事を増やしていくという方法も賢明な選択です。

私は「正しい努力をすれば、誰でも成功できる」と考えていますが、スキルやキャリアが人それぞれで異なりますし、時代背景も変わります。そういう意味では、正しい努力をしても、必ず開業直後から仕事が取れるわけではないのです。ですから、背水の陣で開業するよりは週末起業的に、あるいは週3回程度の仕事をしながら段階的に独立するのが賢いやり方だといえるでしょう。

ただし、士業の仕事は性質上役所が関係することが多い仕事です。つまり、平日の日中にある程度自由に動けなければなりません。そのため、土日祝日のみの活動ではどうしても活動内容に制約が出てしまいます。そうすると、次のような発想が必要になるのです。

士業の仕事にこだわり過ぎる必要はない

段階的に独立起業するにあたって、重要なのは士業の仕事を獲得し、経験を積むことそのものではありません。もっとも重要なのは「自分の手で営業し、仕事を取る」という感覚を身につけることです。前述の制約のとおり、フルタイムで勤務しながら土日祝日で士業をするのは難しいことから、この段階ではあえて士業の仕事にこだわる必要はありません。

人事に在籍していた方は、労務に関するセミナーを実践してもよいでしょう。営業職の経験がある場合は、営業のコンサルティングをやってみるのもよいかもしれません。

このあたり何を選択するかは自由ですが、セミナー、コンサルティングなどが元手もかからず始めやすいといえます。そこで、「お金を稼ぐ」という感覚を早めにつかむことが、独立開業する前にもっとも重要だといえます。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年8月5日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。